第15話 プチ宴会
豆腐グラタンの至高の味に惚れていると、時雨さんが僕に話しかけてきた。
「そういえばレイメイ君ってさ、こことは違う別の世界から来たんだよね? そっちの世界ではどんな感じだったの?」
ここにいる三人は、柊さんから説明を受けているので、僕が異世界の出身であることを知っている。だから僕も異世界でのことについて話すことができる。
「元の世界では、魔王が世界を支配していたんです。それで僕は唯一支配から逃れたイリベルタ島の、魔王討伐のための戦士で、厳しい訓練を行いながら、仲間たちと楽しく過ごしていました。…仲間たちは行方不明になってしまいましたが。」
「確か、レイメイ君たちの乗った船が渦潮に巻き込まれて、レイメイ君はこの世界に来たんだよね? 俺たちも仲間を探す手伝いがしたいからさ、仲間たちについて教えてくれない?」
時雨さんが言うと同時に、黄昏さんと鬼灯さんも頷いた。三人も協力してくれれば相当心強い。僕はその優しさが嬉しくてたまらなかった。僕は三人が仲間を見つけやすいように、できるだけ容姿を分かりやすく伝えようと頑張った。
「あの船に乗っていたのは僕も入れて五人…。赤い髪をした、僕よりも身長が高い大男がジョン・ポロネーズ。青い髪で僕よりも少し背の低いやせ型の男がカルザ・ヴィクトリア。長い金髪の優しい顔をした子がスザンナ・ローリエ。そして船の操縦をしていた六十歳くらいの船長…、名前は確か、ロール・ハレさん。この五人です」
「成程ね…、レイメイ君、そのスザンナちゃんのこと好きでしょ」
何を言うかと思ったら、いきなり時雨さんがとんでもないことを言ってきた。
「えっえええっえ!? ななな何でそれを!?」
「いや、もう説明してる時の口ぶりとか表情でもうバレッバレ。そんなに好きなの?」
こればかりは否定しようがない。少し恥ずかしかったが、僕は素直に首を縦に振った。
「やっぱりね…。早く会いたいよな。すごい不安だよな。分かるよその気持ち。俺たちも協力するから、一緒に頑張ろう!」
時雨さんが僕の肩を叩いてガッツポーズをする。それで僕の気持ちは少しだけ穏やかになった気がした。
「帰ったら俺とナギでプランダーズが持っていた情報や映像データを確認する。そこに仲間の姿が写ってればいいけどな…。ナギ、今日こそは逃げるんじゃないぞ!」
「もちろん。レイメイ君の為だもん、逃げないよ!」
鬼灯さんと時雨さんは早速動いてくれるみたいだ。黄昏さんもなんだかんだ言って僕の事は気にかけてくれているみたいだし、本当に良いところに拾われたなと思う。
「…なあ東雲、思ったんだが、お前、家族はいるのか?」
さっきまで一言もしゃべらなかった黄昏さんが突然口を開いた。
「…え?」
「いや、仲間もそうだけど、島に残してきてる家族も心配すべきだろうと思ってな…」
黄昏さんはボソボソと言った。後半はほとんど聞こえなかったが、僕の事を気遣ってくれてるみたいだ。
「…僕は母さんと二人暮らしでした。父さんは僕が小さい頃に死んじゃって、あと姉さんもいたんだけど、姉さんは僕が小さい頃に魔王討伐の戦士として大陸に旅立ってそれっきり。…多分、魔王にやられた」
僕が言うと、みんな黙り込んでしまった。やっぱり、この場で話すには相応しくない内容だったみたいだ。
「あっ、すいません…」
「いや、謝るのは俺の方だ。辛いこと聞いちゃってごめ――」
「どうしたどうした!? 何だか暗いなぁ。そういう時は、酒でも飲んでパーッとしちゃいな!」
沈黙を破るようにして、風斗さんが金色の液体を四人分持ってきた。
「風斗さん、レイメイは十八、まだ未成年だよ!」
「おっと、そりゃ失礼」
風斗さんは僕の分と思われる金色の液体をどこかへと持ち帰っていった。
「…これは? 本当に飲み物ですか?」
「これはビールだよ。この国だと二十歳にならないと飲めないから、レイメイ君はまだ飲めないけど…」
「フゥー! 生き返るぜ!」
気が付くと、鬼灯さんは既にビールを飲みほしていた。黄昏さんも半分くらい飲んでいた。
「風斗さーん、おかわりィ!」
「あいよォ!」
「待って待って待って俺も飲む!」
続いて時雨さんも飲み始め、もう大混乱。鬼灯さんは何だか様子がおかしくなっていて、黄昏さんも時雨さんも顔が赤くなってきている。
「うおお…、おらぁ負けねぇからなぁ…!」
「もっと! もっと持ってこいやァァァァァ!」
「ああああああああ…」
もはや全員話せる状態じゃなくなってしまった。そして数十分後には、全員眠ってしまっていた。
「…あれ、僕だけ?」
「ったく無責任な奴らだよな。新入り一人残していい大人が寝るまで飲んじまってよォ」
「貴方が飲ませたんでしょ!?」
どうやら閉店時刻も近かったみたいで、風斗さんと協力して寝てしまった三人を社宅まで運ぶことになった。
「お前も大変だなぁ。若いのにこんなヤバい会社に入ることになっちまってさぁ」
「確かにここはヤバい会社ですよ。でもそれ以上に、この会社の人達は良い人達ですから、僕は後悔してないですよ!」
「…そうか。お前は真っ直ぐで良い奴だな」
しばらく歩くと社宅に着いた。僕と風斗さんは三人をそれぞれの部屋に届けて、最後に黄昏さんを運んで、僕も同時に眠る準備をした。
「風斗さん、ありがとうございました!」
「気にすることじゃねぇよ。そのかわり、これからもウチを得意にしてくれよな!」
そう言ってせっせと風斗さんは帰っていった。
そして唐突に今日一日の疲れがどっと来た。本当に今日は色々あった。というか最近はずっと色々なことが起こりすぎている気がする。そして冷静に考えると、まだこの世界に来てから三日しかたっていないことに気が付いた。
この世界で起きた新鮮な出来事を振り返っているうちに、僕は眠りについていた。
設定こぼれ話
酒の強さ
ジン>シュウ≧ナギ>ケンタ