【あなたはきっと騙される!!】『2人の少女の物語』
「ようこそ。不思議な物語の世界へ」
そう言いながら目の前に現れたのは語り部の男。黒いスーツと黒いちょび髭のその男の手には本を持っている。
「これからお話しするのはとっても不思議なお話。もうおそらくあなたはすでに騙されているかもしれません」
そう言って語り部の男は物語を話し出した。
*
それはとある学校の女子生徒2人の話。2人はとーっても仲がよくお昼にはいつも隣同士でお弁当を食べていた。
「でねー、その子がさぁー!!」
「うんうん」
そんな話をしながらベンチに座って食べていた。
「そういえばアンタ。A先輩はどうなの?」
その突然の友人の発言、に少女の1人は口から飲んでいた牛乳を吹き出した。突然くるとは思わずにむせてしまう。そして「何でいきなり!!」というような少し怒った様子でもう1人に言う。
「だってぇー」
「わかってたの?」
「だってぇ見れば丸わかりじゃないの」
「それは...」
「ほら、噂をすればなんとやら!!」
そんな話をしていると今ちょうど話題に出た先輩が目の前を通る。それを見て顔を赤くして恥ずかいそうにその顔を隠す。
先輩はその姿を見て少し不思議そうに首を傾げてそのまま言ってしまった。
「何で行かなかったのよ!!」
「それは...」
「チャンスだったじゃない!」
「それは...」
少女は先輩を見てからそれだけを繰り返してまだ赤い顔を隠している。それを見た友人は「よし!!」と言って立ち上がる。
「私に任せて!!」
「え???」
「ねえ」
「んっ!?!?」
それはその日の放課後だった。突然先輩のAに話しかけられたではないか。「えっ?えっ?」と困惑しながらその先輩を見ているとその先輩も不思議そうな顔をしている。
「アレ?俺に何か用があるんじゃないの??」
「あ、えーっと!その...」
先輩を前に少女はしどろもどろになる。何を言っていいか分からずえーっととかうーんととかいうような事しか出てこない。心臓がドクンドクンと早く音を立てて動いていて頭がパニックになる。
「まあいいや、何か思い出したら言ってね」
先輩はにこやかな笑顔をして去っていった。少女は先輩が遠ざかると共に激しかった心臓の鼓動がおさまっていくような気がした。
「どうだった?」
すると物陰から隠れていた友人がひょっこりと出ていてそういう。少女は少し怒るようなたような口調になる。
「どうだった?じゃないよー!!びっくりした!!」
「ただウチが『アンタが用がある』って言ったんだ。まあその感じだとダメそうだったみたいだけど」
「もう〜!!事前に教えてくれてもよかったのに!!」
「それでもきっと同じ結果だったじゃん」
「うっ!」
少女は図星を突かれ何もいえなくなる。確かにおそらく事前にわかっていたとしても同じ結果だったのはそうだろう。
「もー!!」
「ごめんって!!ジュース奢るからさ!」
「ほんと!?」
その言葉であっという間に少女は切り替わるのだった。
*
「物語はここまでです」
そういう時その語り部の男は本を閉じる。
「え??そういえば騙されるってのは何だったんだ?って?まあまあ、ここまで読んでくださった貴方はおそらくこの話に隠されたものを探そうと考えたでしょう。まあいわゆる叙述トリックって奴ですね」
語り部の男はふーっと息を吐いてまた吸う。そしてこんな事を言い始めた。
「もちろん今の話には何もそう雨言う類の仕掛けは全くありませんよ?え?嘘じゃないかだって?いえいえ貴方は恐らくこの小説を開いた瞬間から騙されているではないですか!!」
そういうとその語り部は少し間を置く。
「この2人の少女の物語には隠されたメッセージやら伏線も何もないのに、『貴方はきっと騙される!!』というタイトルででこの今語った物語には何か隠された意味があるのではないかと探っている事自体が騙されているということに...」