後輩のお願い
俺が古代の攻撃魔法の研究をしているとミミが話しかけてきた。
「アレク先輩!アレク先輩って去年、決闘戦で優勝したんですよね!」
「まあ、そうだな。」
「なら、アレク先輩は今年も決闘戦に出場するんですか!」
耳をぴょこぴょこさせながら俺にそう聞いてくるミミ。
「出場したいが出れないんだよな。」
「なんでですか?」
「決闘戦の決まりだそうだ。校長が言うには前回の優勝者が出場したらつまらない、とのことでな。」
だから、あれだけ報酬が豪華だったんだと今なら分かる。
「そうなんですか?なら、わたしが出たら勝つ可能性ってありますかね?勝ったら古代魔法を広める事ができると思うんです!」
そう嬉しそうに話すミミを見ているととても言いにくいが、100%無理だ。まず、前回の決闘戦の『優勝者』が出れないのであって、準優勝者は出場できる。
だから、ミミが優勝するならニノを倒さないといけない。
「それができれば確かに広める事ができるだろうな。ただ、非常に言いにくいが優勝を1年のミミがするのはとても難しい。」
俺がそう言うとミミが少しムッ、としながら言う。
「先輩、わたしはこれでも1年生で1番強いんですよ。アレク先輩から教わった古代魔法がありますからね。」
「そうか、でもそれは1年生の中だけだろう?」
「そうですけど、アレク先輩だって1年生で優勝したんですよね。なら、わたしにもできるはずです!」
そう言われると困る。俺が優勝したのは事実だからな。
すると、困っている俺を見かねてかメレス先輩が助け船を出してくれた。
「ミミちゃん、確かにそうかもしれないけど、それはアレクが圧倒的だったからだよ。1年生の誰よりも。」
「そうだ。そして、そのアレクと対等に戦った学生がいる。優勝するならその生徒を倒さないと無理だ。」
「誰ですか?それ。」
「ニノちゃんといって、アレクの幼馴染だよ。」
「そして、お前達の先輩でもある。」
そうモノス先輩が言うと、話しに参加していなかったムムも反応する。
「3人の先輩達以外にも私達の先輩がいたんですね。」
「そうだね。しかもニノちゃんは数週間で古代魔法の基礎知識をつけて、王都に同行した時は直ぐに術式を触る事ができた子だったからね。」
「今は、剣術部にいるが本当に惜しい人材だ。」
その先輩達のべた褒めに後輩2人は驚きを隠せないようだ。
先輩達は教育となるととても厳しいからな。褒めることはあまりない。
すると、信じられないのかミミが聞いてくる。
「アレク先輩!ほ、本当なんですか!」
「本当だぞ、それに、決闘戦では3年生も参加するんだ。正直に言えば今のミミだと俺の知っている3年生と古代の身体強化ありで、なんとか戦える程度だ。」
「そんなにこの学校は凄いんですね。」
そうムムが言う。
「ああ、この学校には才能の塊で溢れているからな。まあ、出場するなら後1ヶ月間、頑張るんだな。」
すると黙っていたミミが口を開いた。
「…アレク先輩、ニノ先輩って食堂でいつも一緒にいる青髪の人ですか?」
「そうだが、それがどうした?」
というか、ミミは食堂にも来ていたんだな。全く気づかなかった。
「なら、わたしは絶対にニノ先輩を倒します!」
「いきなりだな!」
ミミの目を見るとメラメラと燃えているのが分かった。そしてミミが俺に向かって頭を下げて言う。
「だから、勝てるように特訓をお願いします!」
俺は頭を下げているミミを黙って見ながら少し考える。
「いいだろう。」
「それじゃ!」
「だか、この1ヶ月間俺と特訓をしてもニノには絶対に勝てない。」
「!」
「でも、ニノに少し本気を出させる程度には強くさせる事ができる。それでもいいか?」
「それは、ニノ先輩以外には負けないってことですか。」
「難しい事を聞いてくるな。でも、3年生と対等以上に戦える程度には強くできる。」
俺がそう言うと、ミミは深く考える。
俺はミミの考えが纏まるまで待っているとムムとメレス先輩の会話が聞こえてきた。
「それほど、3年生は強いんですか。」
「ムムちゃん達1年生は知らないのも無理は無いだろうけど、今の3年生の強さはアレクが原因なんだよ。」
「そうなんですか?」
「うん。決闘戦での影響かアレクと一緒に朝の鍛錬をする人が増えてね。しかも、模擬戦までするようになって、実戦経験も豊富ときているんだよ。」
「なるほどです。教えてくれてありがとうございます。」
「どういたしまして。」
そうメレス先輩が言うと同時にミミが言った。
「それでもお願いします!それに良く考えるとアレク先輩に教われるってとても凄いことだと思うんですよ!」
「そ、そうなのか?」
「はい!1年生の間でもアレク先輩の噂は尽きませんからね。」
噂ってどんなものなんだろうか?
そう考えた瞬間背筋が凍ったような気がしたので聞くのをやめた。
「そうか、まあ分かった。ミミの特訓に付き合うよ。」
それに、ニノのためにもなるしな。
俺がそう言うと、ミミはパァッと顔を明るくしながら言う。
「ありがとうございます!」
「おう。」
すると、モノス先輩がこっそりと俺に聞いてきた。
「アレク、古代の攻撃魔法は大丈夫なのか?」
「まあ、だいたいはできているのでなんとかなります。」
「なら、後輩にしっかりと付き合ってやるんだ。」
「分かりました。」
そうして、俺は嬉しそうにムムと話しているミミを見るのだった。




