サンア視点1
さて、今日から決闘戦の本戦になるけど、アレク達はちゃんと進めたのだろうか。
貴族としての仕事が忙しく、出場選手を見れなかったことが悔やまれる。
だけど、そのおかげで本戦での戦いを見れるのだから良しとしよう。
僕はそう思いながら、本戦の特等席に向かう。特等席に向かうと僕の妹であるラーヤが座っていた。
「遅いわよ。」
「誰のせいだろうね。」
この妹は僕に仕事を押し付けた事を忘れているんじゃなかろうか。
「適材適所よ、お兄様。」
「はぁ、もういいよ。それより対戦表を見せてくれないかな。」
「はい。」
そう言って、ラーヤは渡してくれた。
「どれどれ、…ふむ、ニノちゃんが1番最初で、アレクが最後か。」
順調に2人が勝ち進んだら決勝戦で当たる感じか、だけど2人は勝てるのだろうか?
本戦は予戦よりも簡単じゃない。対戦する相手全てが強い。だからこそ1試合1試合の消耗が激しくなる。
僕が2人以外の対戦者を見ていると選手紹介が始まった。
「ニノは驚かれているわね。」
「一年生にして決闘戦の本戦に出場しているからね。でもそれだけじゃ無いようだね。」
ニノちゃんの顔は整いすぎている、周りの観客達はそれにも驚いているのだろう。
妹を倒す程の剣士だから、雇おうかと思ったが、あの子はアレクが好きすぎるからね。
アレクに断られた時点で諦めたよ。
そして、選手が次々と紹介されていき最後にアレクの番になる。
アレクを紹介していく実況者だが、古代魔法の第一人者というところで実況が止まってしまった。
多分、本当にあっているか確認しに向かったんだろうね。アレクを知らない人からすれば嘘みたいに思える話しだから仕方がないか。
そして、謝罪と共にアレクの紹介が続けて話された。
その時に周りの大人たちが何かを話しているのが見えたから、後で対応しないとね。
そして、アレクの紹介が終わり、優勝者への褒賞と校長の話しが始まった。
校長の話は結界の事と楽しんでくれと言う事だけだった。
校長の話によるとこの結界は攻撃を通さない事はもちろん、魔法による音も通さない。だから選手達には実況の声は聞こえ無い。
だけど、魔法を使っていない音は通ってしまうからそれには注意して欲しいとのことだった。
「いよいよね。」
「そうだね。一回戦目はニノちゃんが出るけど、どうやって相手を倒すのだろうね。」
最初に出てくるのは堂々としているニノちゃん。
そして相手は敗者復活で勝ち残った相手のようだね。
そして、両者が決闘戦の礼儀をし、配置に着いた。
「ラーヤはニノちゃんの戦い方は見たかい?」
「ニノがどうやって戦って来たのなんか知らないわよ。でも、だからこそ、わくわくするのよ。」
妹もどうやら見ていないようだね。
そして、審判から試合開始の合図が出ると一瞬にして勝負が決まってしまった。
勝者は言うまでもなくニノちゃんだ。だけど驚きすぎて誰も声があげられないようだ。
そして、数秒遅れて審判がニノちゃんの勝利を宣言すると、大きな歓声が訪れた。
僕の周りにいる大人たちも驚いているようだ。これでニノちゃんも目をつけられてしまった。
友人の大切な人で妹の友人だ。だから悪い大人たちには手出しをさせないよ。
「お兄様は今の見えた。」
「…いや見えなかったよ。」
「私は少ししか見え無かったわ。あれがニノの本気の一部なのね。」
そう言うと妹は悔しそうにしている。本当は自分が本気を引き出したかったのだろう。
そうして、ニノちゃんの試合が終わり、第二、第三と次々と試合が終わっていき、アレクの番になった。
「お兄様、アレクの表情が少しおかしいと思わない?」
「そうだね。嬉しそうにしていたら、いきなりげんなりして、…あっ、怒りの顔になったね。」
僕は対戦相手を見ると何か話しているのがわかった。それは妹も感じたようだ。
「多分、よっぽどの事を言われたのよ。」
アレクの対戦相手の名前はコングか、確か家名はジャングだったね。コングについての噂は流れていたが、それ以外は普通の領地経営だったはず。
僕はより詳しい情報を知るため、コングについて妹に聞いてみることにした。確か剣術部の副部長だったはずだからね。
「確か、コングは剣術部だったはずだけど何か知らないかい?」
「あっているか分からないけど、大柄の問題児が三年生にいると噂を聞いたことがあるわ。」
「多分、その人がコングだろうね。少し、アレクが心配だよ。」
「アレクは強いから心配はいらないわよ。」
そう言った妹はアレクが負けるとは微塵も思っていないようだ。でも勝負は冷静さを失ってしまうと負ける可能性が大きく上がってしまう。
アレクが冷静さを取り戻せるかが重要になってくるね。
そうして、試合の開始の合図と同時にアレクが壁に吹き飛ばされてしまった。
「アレク!」
僕はアレクのことが心配で、席から立ち上がってしまったが、妹も心配しているだろうと思い隣を見ると静かに座っていた。
「…。」
「ラーヤ?」
僕は無反応な妹が心配で声をかけた。しかし、返って来た言葉は驚きの一言だったんだ。
「見ていなさい、アレクはやられないわ。」
何かを確信しているような声で妹はそう告げた。
そして、妹が告げたと同時に巻き上がっていた土煙が晴れると伸びをしながら無傷のアレクがいた。
コングはアレクに気づいていないのか高笑いを続けている。そして、隙だらけのコングをアレクは殴り飛ばした。
「!…ラーヤはこうなると分かっていたのかい?」
「ええ、アレクがコングに斬られて吹き飛ばされる時に一瞬見えたけどアレクは傷が一つも無く無傷だったの。あの攻撃を受けて無傷なのはおかしい筈でしょ。」
妹はさっきの攻防が鮮明に見えていたようだ。残念ながら僕は妹程見えるわけじゃないから分からなかった。
そして、そこからは一方的だった。何故ならコングが攻撃してもアレクには傷1つ、つかないんだ。
そして、最後はアレクの殴り攻撃で決着がついた。
本当、僕の友人は僕の想像を簡単に超えてくる。




