決闘戦6
コングを倒して全ての1回戦目が終了し、数分後に2回戦目の開始の合図が聞こえてきた。
俺は控え室で瞑想しながら魔力制御と操作をしていたら廊下からニノが2回戦目も一瞬で終わらせたと聞こえてきた。
なら俺も2回戦目の対戦相手を一瞬で倒そうと思ったが止める事にした。コングの時は、力の差を見せつけるために神経強化を使ったが、一瞬で倒してしまうと成長できない。俺は天才じゃないから、相手から盗めるものは盗まなければ。
俺は気持ちを改めて戦おうと思ったが、俺の情報を知ったせいで何処か諦めたようだった。それでもと思い戦ったが相手の諦めたような表情が変わらなかったため、俺は相手を一瞬で倒した。
あんな相手からは何も盗めないだろうと思い俺は心底失望した。
相手が絶対的な強者でもどうにかして倒すのが普通だろう。それなのに何も考えずに戦うなんてな、ニノなら絶対にそんな事はしないのにな。
だけど次の相手はそう簡単にはいかないだろうな。
そう思い昼食の時間になったため、俺は昼食を食べに飲食店に足を運ぶ。店に入ると周りから視線を感じたが、仕方がないと思い、気にしないことにした。
食べている途中に店の客に署名が欲しいと話しかけられた。何故だと思ったが驚いたことにその人は俺の愛好家らしい。
俺は渡された羽ペンをこれもまた渡されたインクが入っている小さい入れ物に入れ、名前を簡潔に書く。
愛好家…ファンの人は嬉しそうにしながらお礼を言って店を出て行った。
あの人は俺を見つけてこの店に入っただけなのかよ。
俺はファンの人に呆れながら、ほぼ食べ終えていたご飯を食べて店を後にする。
それから控え室にて、2回目の選手達の紹介を聞いていた。
その時に俺は初めて自分の紹介を聴いたが、聴かない方が良かったと思った。
だけど選手達の紹介を聞いて分かったこともある。ニノの相手は生徒会役員ということだ。しかも魔法使いだから、多分ニノにとって初めての戦いになるだろう。
まあ、予選で戦っていれば別だろうが。
そして、俺の相手だが剣術部の部長で、名前は『ギデオン』先輩で子爵家だ。何処かの誰かさんが子爵以上は貴族としての面子があるから出ないとか言っていたのにな。
後で、サンアに問い詰めよう。それに紹介を聴く限りだと、空いた時間は剣を振るようにしていたらしい。
だから技量は俺と同じくらい、下手をすればニノと同じくらいの可能性がある。
俺は戦いが楽しみになってきたが一抹の不安も覚えた。それはコングのことだ。あんな奴を野放しにしている人に人間性を期待してもいいのかどうか。
勿論、コングみたいな奴ばかりじゃ無いと分かっている。分かってはいるが不安だ。
それから紹介が終わり、ニノと生徒会役員の戦いが始まったが、数分経つと試合終了の音が聞こえた。
ニノは一瞬では決められなかったか。なら、俺が戦う相手も一瞬で倒せるほどの相手じゃないってことだ。
それから俺は先生に呼ばれた。そして、ギデオン先輩と対面する。
俺は礼儀として挨拶をする事にした。これで相手の人間性が少しは分かるだろう。
「今日はよろしくお願いします。」
「…。」
無反応!俺は下げた頭を少し上げ、顔を見ると能面みたいに表情が変わっていなかった。
だけど、俺はこの人の事を理解できた。この人は昔のニノや冒険者のジャックさんと同じだ。
そして、この人の表情は周りからは動いていないように見えるが、俺には分かる。この人は今笑ったと。だから俺は言った。
「先輩、全力で楽しみましょう!」
「…ああ。」
そうして俺達は会場に入った。そして、いつもの流れをしてそれぞれの位置に着く。
「これより、アレク対ギデオンの決闘戦を始める!では、開始!」
俺は審判の開始の合図と同時に距離を詰める。今回は身体強化だけだ。この先輩を見てどちらの技量が優れているのか確認したくなったからだ。
そして、剣が交差する。俺は先輩の顔を見ると怒っているようだった。当然だ、先輩からしたら舐めプされているようなものだからな。
俺は剣を交えながら言った。この攻防の中で話すのはとても難しい。
「先輩、誤解しないで、ください。」
「…。」
「俺は、強くなり、たいんです。だから、俺よりも、技量、が、上の先輩に同じ、条件で挑みました。」
俺がそう言いきると先輩に弾かれた。これは俺と話すためにわざとやったのだろう。
「…いいだろう。だが、条件がある。」
「なんでもいいですよ。」
「…俺が、お前を追い詰めたら、全力を出せ!」
先輩はそう言って俺に猛攻撃を仕掛けてきた。俺はその攻撃を捌きながら言った。
「いい、です、よ!」
そこからは俺が押され気味な形で試合が進行していく、先輩の攻撃を抑え込むのに精一杯で攻撃の隙がない。
だけど、楽しい!
俺は久しぶりに抱く、このたまらない緊張感に興奮していた。そしてピンチになればなるほど、胸から湧き上がる正体不明の感情が体を支配していく。
そして、俺の攻撃が先輩に通る。驚いた先輩は距離をとった。すると互いの距離が必然的に離れる。
すると先輩に話しかけられた。
「…お前は、何故笑っている?」
俺は言われて口に手を当てると口角が上がっているのが分かった。
「本当、ですね。自分でも気づきませんでした。」
「…お前、戦闘狂なのか?」
呆れた眼差しで俺の事を先輩が見てきた。
「むっ、失礼な!それは俺の周りの女子だけだ。」
俺が戦闘狂?ないな、俺はニノ達みたいに毎日戦っていない。それに俺は古代魔法について学んでいるんだ。
どちらかといえばガリ勉君なんじゃないかな。
「………そうか。」
何故、少し間があったのだろうか?まあいい、お喋りはここまでだ。
俺は先輩に向けて剣を構える。すると先輩も剣を構えた。
「ここからは、俺の技術を見せます。」
「…望むところだ。」
そして、第二ラウンドが始まった。先輩との攻防で何かを掴んだ俺は、先輩に攻撃ができるようになった。
それどころか、体術も混ぜるようになり、さっきとは真逆の状況だ。
俺は何故先輩に攻撃ができるようになったのか不思議に思った。そして、何回も攻撃をしているうちに気がつく。
それは、なんとなくで相手の肩や、足の付け根などから攻撃を予測している事に。
これが俺とニノの技量の差でもあったのだろう。多分だが、ニノは無意識でこれができているんだろうな。ニノなら教えてくれるだろうし。
そして、俺がこれに気づいた理由だが、それは先輩の視線のおかげでもあるだろう。先輩の視線が少しおかしいと思っていたんだ。まあ、実際にその通りだったんだが。
それからなんとなくな感覚を意識するように変えた俺は、更に先輩に攻撃ができるようになった。これは俺にとって1番の盗みものだろう。
「くっ!」
そして、俺は先輩に重い一撃を喰らわせた。吹き飛ばされた先輩は剣を支えになんとか立ち上がる。
すると先輩の魔力が凄い勢いで無くなっていることが分かり、全力の身体強化だ。俺はこれで最後にするつもりなんだと察する。
なら、俺も応えないとな。俺は神経強化を発動させた。そして、俺達は同時に動き出す。
その速度は目では追えない、片方は全魔力を注ぎこみ、片方は神経強化をしたのだから。
そして、互いに剣を交差してすれ違い、先輩の剣が折れて、先輩が地面に倒れ伏す。
こうして、俺の決勝戦進出が決まった。




