決闘戦3
6戦目が決まり、後は先生に呼ばれるだけだ。因みに控え室は男女別だ。だからさっき先生が教えに来た。
先生に呼ばれるまで暇だったため周りを見る。この部屋にいるのは俺を含めて3人だ。だから俺が勝てばこの2人のどちらかと戦う事になる。
そこで相手の顔を見ると、1人だけ見覚えのある人がいた。
確かこの人は控え室で俺が5戦目に戦った剣術部の先輩と話していた先輩だ。確か他の所でも見た記憶があるけどどこだったか?
俺は後少しで思い出せそうという時に先生に呼ばれた。
「アレクくん。次だよ。」
そして、俺1人だけが呼ばれた。そう1人だけだ。何でもここからは全ての範囲が使えるようになるらしくて、1対1の戦いになる。
そして、控え室から廊下に出て訓練室に向かうとパルナ先輩と会った。
「あなたが私の対戦相手ですか、確かアレクくんでしたね。よろしくお願いします。」
「あっ、パルナ先輩ですねこちらこそよろしくお願いします。」
そう歩きながら言うが俺はパルナ先輩を見ていると違和感を覚えた。
そして、見ているとその違和感が分かった。それはパルナ先輩の魔力が回復していることだ。
俺が5戦目で剣術部の先輩を倒した時にパルナ先輩を見た時は今よりも魔力量が減っていた。不思議に思った俺はパルナ先輩に聞いてみた。
するとなんでも無いようにパルナ先輩が言う。
「それは魔力回復薬を飲んだからです。」
魔力回復薬とは魔力を水に溶け込むように魔力を送り、保存できて飲めば魔力を回復できるものだ。
「魔力回復薬ですか。そんなものは無かった気がするんですが?」
「それはそうですよ。魔力回復薬は魔法使いにだけ渡されるんですよ。本戦では魔力の消費が激しくなる関係で魔法使い関係なく配られますけどね。」
そうパルナ先輩が言うとすぐ目の前が訓練場まで来た。流石は魔法使いが強いと言われている世界だ。
「そうですか、教えてくれてありがとうございます。」
俺がお礼を言うとパルナ先輩は驚いたように言う。
「アレクくんは怒らないんですね。」
「?すみません意味がわかりません。」
「いえ、魔法使いが優遇されていると感じて怒る人がいますから。」
パルナ先輩は悲しそうな目をしながら言った。パルナ先輩は毎年言われているのだろうか。
「まあ、そう感じる人もいるでしょう。ですが魔法は魔力を凄く消費しますから、仕方がないと俺は思っています。」
「よく知っていますね。」
「まあ、身近なものなので。それに最大魔力量が少ないとその分頼らないといけませんから。」
「アレクくんは理解してくれるのですね。」
「罪悪感でも感じていたんですか?」
「…はい。」
「なら、俺には感じなくていいですよ。全力で倒しに来てください。俺は手加減される方が怒りますので。」
俺がそう言うとパルナ先輩は少し微笑んだ。
「分かりました。全力で相手をさせて貰います。」
「俺も全力で相手をします。」
「2人とも早く来なさい。」
俺達は先生に呼ばれて、急いで訓練場に出ると周りの観客席から応援の声が上がる。
俺たちはそのまま、訓練場の真ん中にいる審判の場所まで向かって決闘戦の礼儀をする。
握手をして俺は剣を上に向けた。魔法使いのパルナ先輩は胸に手を当てていた。
どうやら魔法使いと剣士は礼儀作法が違うようだな。そしてお辞儀をすると互いに赤線まで向かった。
赤線はフィールドが大きくなったせいで相手との距離が4倍ほど空いている。
そして、審判が開始の合図をした。俺は距離をとられると面倒になるため、一気に距離を詰める。
だけど、距離が遠いせいで半分ほど進むと魔法が来てしまった。
俺はそれを避け、パルナ先輩を見ると開始した時と同じくらいの距離を離されていた。
それからは俺が距離を詰めると魔法が放たれると言った感じで、硬直状態が続いていた。
どうにかするのは簡単だ。俺が神経強化を使えば一瞬でパルナ先輩の目の前に行ける。
でもそれじゃあダメだ。それだと魔法使いと戦う時の戦い方が学べない。
俺にとって初めての魔法使いとの戦闘だ。しかも死ぬことがない。ならこのチャンスは無駄にできない。
俺はどうにかできないか考えていた。今パルナ先輩が使っている魔法属性は『火』だ。
この世界での魔法使いとの戦闘方法は避けて詰めていくか、魔法に突っ込んで無理やり突破するかだ。
避けて進むの今やっているが少ししか距離を詰められていない。詰めている頃には数時間経過していて、俺の魔力が4分の1くらいしか残らないだろう。
次に突っ込むことだが、パルナ先輩が『火』を扱っているため躊躇している。
剣士の間では魔法に突っ込むなら初級魔法の容易いものなら光、闇、水、土、火、風となっている。
まあ、闇は突っ込むのは簡単だが、変な感覚が纏わりつくからおすすめはできない。
だから残るは俺も魔法を使うか、魔法の反射か、魔法を斬ることだ。
俺が魔法を使えば魔法使い同士の戦いになるため、却下だ。
魔法使い同士の戦いは母さんに頼めば多分やってくれるだろう。
母さんの魔法は強すぎるため、俺が剣だけだと一瞬で負ける。だから、俺が剣士として魔法使いと戦えるのにちょうどいい。
そして魔法の反射はピンポイントでの身体強化が必要だが遠距離のため難しい。そのため却下だ。
だから残るは魔法を斬ることだけだ。
魔法を斬るには剣に高い魔力を集中させないといけない。
身体強化は身体に触れている全てに強化をかけるもので、剣を持っていたら身体強化と同じだけ剣も強化される。
そのため、剣に魔力を集中させるには長い時間の努力が必要になる。だけど俺は魔法使いでもあるため、剣に魔力を集中させることは簡単にできる。
俺は剣に魔力を集中させながら魔法を避ける。止まった方がすぐに剣に魔力を集中できるがそんな事をすればいい的だ。
そして、剣に魔力を集中させることに成功したため止まった。
常に動いていた俺が止まると、パルナ先輩が困惑している。
俺はパルナ先輩にこれからこうするんだと言うことを伝えるために止まった。パルナ先輩はまだ魔法使いとして未熟なため俺が魔法を斬るとパルナ先輩は驚くだろう。そうしたら集中が必要な魔法を放てなくなる。
その隙をつけば一瞬で勝負がついてしまう。だから俺は止まったんだ。パルナ先輩と全力で戦うために。
パルナ先輩は俺が止まったせいで魔法を撃たなくなってしまった。少ししか話していないがパルナ先輩が優しい人だと分かる。
だから無抵抗な俺に魔法を撃つことを躊躇しているんだろう。そのせいで観客席がザワザワしだした。
「パルナ先輩、魔法を撃ってください!俺は今から本気を出します!だから、パルナ先輩も全力で来てください!」
俺は分かりやすくするために魔力を大きくした。
全力を出す時、魔力は大きくなる。それは魔力が制御できていないせいで魔力が漏れているからだ。
俺は制御が大切だと母さんから教わっていたから魔力が大きくならないが、大体の人が魔力を大きくしている。
魔力が大きくなるのが当たり前だとだいたいの人が思っているため、俺はわざと魔力の制御を甘くしんたんだ。
まあ、そのせいで魔力の消費が凄いことになっているが。
俺の本気が伝わったのかパルナ先輩も本気を出してきた。俺に飛ばしていた『ファイアボール』を5つに増やしだした。
それを見て観客達にどよめきが走る。それもそうだろう。複数の魔法を操ることは中級魔法の習得よりも難しいからだ。
「いきます!」
そう言って5つの『ファイアボール』が飛んできた。
俺は飛んできた1つ目の『ファイアボール』を真っ向斬りで2つにし、続けて飛んできた魔法も全てを横に剣を振って切った。
それ見たパルナ先輩を含めて観客席にいる人達が静かになる。そして、観客たちが一斉に声をあげる。
だけど俺はパルナ先輩だけを見て、言った。
「来い。」
この喧騒のなか聞こえたのかは分からないが、パルナ先輩に火がつく。
そして歓声の中、勝負は始まった。
パルナ先輩はまた、5連続の攻撃をしてきた。俺はそれを剣で斬る。そしてパルナ先輩に向かって走り出す。
パルナ先輩は魔法のタイミングをずらしたりして俺の動きを遅らせる。
だけど、俺の動きは止まらない。そして、残り10メートルと言うところで、パルナ先輩が地面に魔法を撃って土煙りをたてる。
俺が視界を奪われると横から魔法が飛んできた。俺はそれを避ける。
視界を奪われたことの動揺のせいで避けることしかできなかった。
そして、俺が魔法を避けたことで観客席から声が上がる。
俺はこのままだと不利だと感じて周りの土煙りを吹き飛ばした。
だけど、その隙をつかないパルナ先輩じゃない。そして、俺に魔法が直撃する。
これには観客達も黙ってしまう。だけど俺は、自分で隙だと分かっていた。
この俺に魔法が着弾した一瞬、その一瞬に人は隙ができてしまう。
俺は吹き飛ばす時に感じていた人の気配の方に走る。ここで俺は魔法に突っ込む方法をとった。
それにはパルナ先輩も驚いたようで魔法が発動できないでいる。
そして、後数メートルのところで、パルナ先輩が魔法を発動させて俺の攻撃の威力を下げた。
だけど、威力は充分にある。俺の攻撃でパルナ先輩は20メートルほど飛んだ。
そう20メートルほど飛んだんだ。俺の攻撃はこれほど吹き飛ばすような威力じゃ無かった。
だから俺はパルナ先輩がわざと後ろに飛んだのだと分かった。
俺はすぐさま追撃をする。そして、後少しのところでパルナ先輩の魔法が完成した。火の中級魔法『ファイアランス』が。
いきなりの中級魔法は避けられ無い。そういきなりなら!
フーバンとの時はフーバンを見ていなくて、しかも魔石による中級魔法だったから気づくのが遅れた。
だけど俺はパルナ先輩を見ていてしかも魔石じゃない。だからこそ俺は気づけた。
集めていた魔力が初級魔法の魔力量じゃなく中級魔法の魔力量だったと。
だけど、俺の間合いに中級魔法は無い。だから俺は発動された中級魔法に向けて剣を投げた。
投げ方はユークさんに教えてもらっていた投げナイフのやり方を応用した。
そして、投げた剣は中級魔法を突き抜ける。だけど俺は走る事をやめない。このままだとパルナ先輩が中級魔法の爆破に巻き込まれるからだ。
俺はパルナ先輩を庇うように倒して、背中で中級魔法の爆破を受けたが、背中が少し熱いくらいの威力だ。
そして、爆破による煙が晴れるとそこには拳をパルナ先輩に向けている俺の姿があった。
それを見た審判が言い放つ。
「アレク対パルナ、勝者はアレクー!」
そう言った瞬間観客席から歓声が響く。俺は戦いが楽しかった影響か少しキザなセリフを言いパルナ先輩の手を取ると立ち上がらせた。
その時、何故か俺の事をパルナ先輩が見つめているのが不思議だった。
それから俺とパルナ先輩は観客席からの喝采を受けながら一緒に退場した。




