旧訓練場
図書館から出た俺はどこか鍛錬に最適な場所がないか街の地図を見ながら探していた。
「うーん。何処かないか?」
「どこに行きたいっすか?自分はこの街に少し詳しいんすよ。」
胸を張って言う、ジャンさん。でも、詳しいと言うならお願いした方が早いか。
「本当ですか!なら、周りに人が居なくて、鍛錬をしても大丈夫な所はありませんか?」
そう聞くとジャンさんは俺の持っている地図を見ると端の方に指を差した。
「ここっすね。ここは元々訓練場だったんですけど、この街が大きくなるに連れて、主要な場所から遠くなって使われなくなった場所っす。」
俺がへーと納得しているとカームさんが言う。
「ジャンがそんな事を知っているなんて意外だ。行った場所も3歩歩けば忘れるのがジャンだろう。」
「自分、そんなに頭が悪いと思われてるんすか!?」
ジャンさんは心外とでも言うような表情だ。
「まあまあ、ジャンさん落ち着いてください。」
「アレクくんが言うなら。」
そう言って、ジャンさんは落ち着いた。ジャンさんはイジられキャラなんだろうな。
そこでふと、2人がご飯を食べていない事を思い出した。俺は鍛錬をする前にご飯を食べるのは脇腹が痛くなるから好きじゃない。あの絶妙なのがいやなのだ。
だけど、俺の自分勝手な理由で夕食が遅くなるのはいささか、身勝手だろう。だけど鍛錬もしたいからなぁ。まあ、大丈夫か聞けば済む話しか。
「あー、申し訳ないんですけど、ご飯を食べる時間は遅れても良いですか?」
「いきなりなんだ?」
2人が不思議そうに俺を見る。
「いえ、俺は鍛錬をする時、飯は鍛錬が終わってから食べるようにしているんですよ。だから、それに付き合って貰ってもいいかの了承ですよ。」
「それなら気にしなく良いっすよ。自分達はもう食べていますから。」
「ジャンの言う通りだ。だから気にする必要はないぞ。」
「それなら、助かります。流石に自分の都合にお二人を巻き込む訳には行きませんから。」
「自分達は護衛っすから、そのくらいの無茶は別に平気っすよ。心配事がないなら行くっすよ。」
そうしてジャンさんが先導してくれて、旧訓練場には意外と早く着いた。
旧訓練場に着くとジャンさんが聞いてきた。
「それで、鍛錬ってどんな事をするんすか?自分、魔法使いの鍛錬なんて初めて見るから楽しみっす。」
「ジャンさん、何か勘違いしている見たいですけど、自分がするのは剣の鍛錬ですよ。」
するとジャンさんが驚きに満ちた表情を浮かべた。
「なんだ、気づいていなかったかジャン。アレクくんは剣士だぞ。」
「ええ!」
ジャンさんがさらに驚き、カームさんは呆れ顔で言う。
「そんなに驚く事はないだろう。体つきを見れば一発で分かるだろうに。」
「いや、古代魔法部にいる人が剣士だなんて普通思わないっすよ!」
確かに、この世界では普通、剣士か魔法使いのどちらかだからな。ジャンさんが勘違いするのも分かる。
俺は2人が話しているのをよそに、俺は腰にある剣を抜いて鍛錬を開始した。
後から聞いた話しだが、ジャンさんは俺の腰にある剣を護身用の剣だと思っていたらしい。
俺が剣を振り始めると2人は静かになった。そして、少し経つと2人も俺の隣で剣を振り始める。
俺は2人を見てニノと一緒に剣を振っていた事を思い出していた。でも、この学校に来てからというものニノと一緒に剣を振っていない。
俺は学校に帰ったらニノと一緒に休日鍛錬でもしようかと思った。偶には冒険者ギルドの依頼を受けなくても良いだろう。
そんな事を思いながら剣を振っていたらあっと言う間に2時間が経つ。
俺は剣を振るのを止めた。俺が止めたのを見るとそれを見た2人も剣を止める。
するとジャンさんが話しかけてくる。
「アレクくん、何者っすか!あれだけ綺麗に剣を振るなんて、凄いっすよ。」
「そうですかね?でもジャンさん達も綺麗に剣を振るじゃないですか。」
俺も2人は凄いという意味を込めて言う。
「いや、そうっすけど、自分達は何十年と剣を振ってきてるんす、だから、その年齢で自分達と同じように剣を振るアレクくんは凄いんすよ。」
「ジャンの言う通りだ。それに俺達に負けないくらい体力もある。」
「ジャンさんとカームさん褒めすぎですよ。自分はこれでもまだまだ、だと思っていますから。」
俺は少し照れたが、父さん達はもっと強い事を思い出して気を引き締める。
「意識高いっすねー。」
ジャンさんが感嘆している。
「そんな事ないですよ。俺はただ、自分ができる事をやっているだけですから。まあ、それでも、目標には程遠いんですけどね。」
「その目標とはなんだ?」
そうカームさんに問われて、初めてニノ以外に俺の目標を言うと思った。
「自分の目標は『世界最強になる』事です。」
俺は改めて自分の決意を固めるために力強く言った。
俺がそう言うと2人とも黙ってしまった。もしかして夢物語と思われたのか?そう思ったが違うようだ。
「アレクくんなら目指せるだろう。」
「そうっすね、自分もアレクくんなら目指せると思うっすよ。」
俺は少し拍子抜けしてしまった。俺はまだ大人から見たら子供だろう。だから子供の夢みたいな感じで見られると思っていた。
「2人とも笑わないんですか?」
「どうして笑う必要がある?」
「いえ、子供の夢と捉われると思っていたので。」
「普通ならそうっすけど、アレクくんが言った時、何故だか、本当になるような感じがしたんすよ。」
「ああ、惹きつけられるような感覚があった。」
「えっーと、ありがとうございます?」
俺は褒められているのかわからなくて疑問系になってしまった。
「そう、気にしなくて良いっすよ。自分達が応援しているって分かれば良いっすから。」
「分かりました。」
そうして、話しがひと段落するとカームさんが言う。
「それで、この後はどうするんだ?このまま鍛錬を続けるのか?」
「はい、続けるつもりです。次は身体強化を使って剣を振ります。」
「了解っす。」
俺は身体強化を発動させて、魔力の塊も俺の周りに10個ほど回らせ始めた。
そんな俺を見たジャンさんが一言。
「ってなんですかそれ!」
「これですか?これは魔力の塊を回す事で、魔法の制御の練習になるんですよ。」
「そうなんすね。…いや!なんでそんな事をしてるっすか!?アレクくんは剣士っすよね!」
そこでまた、ジャンさんが勘違いをしていると分かった。今回はカームさんも勘違いしているようだ。
「ああ、俺、魔法使いと剣士の両方なんですよ。」
俺がそう言うと2人とも驚いたようだ。だけど、カームさんはまだ信じられないならしい。
「あれほどの剣を振るのに、魔法使いだとは信じられん。」
俺は魔法使いだと信じてもらうために中級魔法を発動させた。
「『ファイヤーランス』」
俺が放ったファイヤーランスは地面に当たり爆ぜた。大きな音が出たが、ここは住宅街から離れているため大丈夫だろう。
そして、カームさんだが、流石に魔法の中で1番有名な魔法を見たら信じたようだ。
「本当に魔法使いだったか。それなのにあれほどの剣を振れるとは、驚きだ。」
「これ、護衛必要っすか?」
「はは、必要ですよ。一対一ならまだしも、大人数で来られたら普通に負けますからね。」
「そうっすね。なら全身全霊で守らせて貰います。」
そうジャンさんはノリよく言った。そうして、身体強化を入れた鍛錬を開始する。
俺は今日の事で、より2人と仲良くなれたと思った。そうして、何事もなく鍛錬を終えるのだった。




