噂
俺は先生に一応という事で保健室に来ていた。保健室では軽く体を調べて、問題ないことが確認できたら寮に戻っていいと言われた。
そして、フーバンだが生徒指導室に連れて行かれたらしい。そこで、フーバンの処罰が決まるようだ。
フーバンが起こした事件での怪我人は俺だけのようだ。そして、生徒達は俺が怪我をした時から先生達に離れるように言われていたらしい。
俺は先生に問題無いと言われて1人で寮に帰っている。心配して付き添ってくれていたニノとラーヤは先に帰らせておいた。2人に迷惑はかけられないからな。
俺は寮に帰る道を歩きながら今日のことを反省する。
もし、あの時に俺がもっと強ければニノ達を心配させることも無かったし、怪我をすることもなかった。
他にも俺が事前にフーバンが使った魔道具、魔法石に対する知識や使用不可にするやり方を知っていれば、こんな大事にはならなかったはずた。
どうやら俺はいつの間にか強さに貪欲じゃ無くなっていたらしい。
確かに最近は古代魔法を学ぶ事に集中しすぎて、朝の鍛錬くらいでしか剣を振っていない。それに魔力を増やす訓練も止めていた。
これから計画性を持って行動しなければ。
だから、朝の鍛錬はそのまま続行で、授業中は魔力を制御する練習をして、古代魔法学では知識を高めて、部活では魔力を増やすために沢山魔力を消費するものを選択し、夜は勉強をすればいいだろう。
俺は自分で考えた計画に満足しながら寮部屋に帰った。そして寮部屋に入るとサンアが言う。
「おかえりアレク。大怪我と聞いたけど大丈夫そうだね。」
「ああ、ニノとラーヤのおかげでな。だけど大事になったせいで少し明日が心配なんだよな。」
俺がそう言うとサンアは可笑しそうに笑って言う。
「アレクは大怪我をしても、明日のことが心配なんだね。だけど、そうだね。今やアレクは時の人だから明日が大変なのは確定かな。」
「やっぱそうだよなぁ〜。まあ、気にしていてもしょうがないか。明日の事は明日の俺がどうにかしてくれるはずだ。」
「前向きなのはアレクのいいところだよね。」
サンアが笑いながらそう言うといきなり黙ってしまった。
「サンア、どうした?」
「…すまなかったアレク。フーバンの所業は僕の責任でもある。」
「いきなり何言ってんだ?フーバンがやらかした事はフーバンの責任だろう。」
「そうじゃない、そうじゃないんだよ、アレク。アレクは知っているかい?貴族には派閥があるという事を。」
「知識としては知っている。少し詳しいこともな。たしか、戦争派と穏健派だったか?」
戦争派は帝国に大規模な交戦を仕掛けたくて、穏健派は国内の地盤を固める事を優先するべきと主張しているんだったか?
「その通りで、僕の家はその穏健派の代表に近いところに所属していてその傘下にフーバンの家もあるんだ。」
「ふーん、それがサンアの何に関係あるんだ?」
俺がそれがどうしたとでも言うようにサンアに問いかけるとサンアは気が抜けたような顔をする。
「いや、アレクなら分かるだろう。僕がしっかり下の者を管理できていなかったからアレクに危害が及んだんだ!」
そうサンアは少し興奮しながら吐露した。
「それって、サンアの責任なのか?確かに上の者が下の者の責任を取るのは当たり前だが、全てではないだろう。」
会社の平社員が勝手に犯罪を犯したのに社長が責任をとってるみたいなもんだぞ。
「それは、そうだけど。でも管理できていなかったのは事実だ。」
そう少し落ち込みながら話すサンア。だけど俺にはそれよりも気になる事がある。
「話しが少しズレるかもしれんがさっきから管理、管理と話すがどういう事だ?」
「ん、ああ、それは僕が年齢が近しい貴族達を纏めている人物だからだ。」
「は?」
俺は素で驚いてしまった。だってまだ12かそこらの年齢だぞ、それが何十人といる人を纏めるなんてとてもじゃないが無理だ。
「だから僕はアレクに謝っているんだよ。フーバンはその纏めている貴族の内の1人だからね。」
「そ、そうか。」
サンアのやっている事が理解出来なさすぎて言葉が出ない。
「だから、しっかりとフーバンには制裁を与えよう。僕は少し日和見しすぎていたようだ。」
そうサンアは冷たい目をしながら言った。
これは後から聞いた話しだか、サンアの宣言通り、フーバンは学校を退学し、家の勘当までされたようだ。
この家の勘当はなんの抗議もされずに行なわれたようで、フーバンの事を伯爵家でも要らない子扱いされていたようで少し同情する。
この出来事により、サンアが纏める貴族家の間で、悪事を行うとサンアに潰されるという噂が流れたようだ。
「ま、まあ話しはこのくらいにしよう。飯にしのうぜ。」
そう言い俺たちは食堂に向かい、銭湯に入ってまた寮部屋に戻って来る。
その時にはサンアはいつも通りに戻っており、魔法について勉強している。俺は早速自分の立てた計画を実行することにし、古代魔法学の本を読み始めた。
分厚い古代魔法学の本に書いてあったのはこのようなことだった。
古代魔法は相当な魔力を消費すること。その他にも古代魔法は魔力が有れば全ての属性に変換して攻撃できることなどが書かれていた。
読んでいて思った。もし古代魔法の使い方が分かれば簡単に強くなれるのではないかと。なら、先輩達の部活に入れば大量に魔力が消費できるのではないかと。だけどそのためには古代魔法の使用方法を先輩達と考えないといけないな。
俺は時計を見るといい時間になっていた。村には1個しか無かったがこの学校には1つの部屋に1つの時計がある。
俺は明日にすることを考えながら眠りについた。
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次の日になると俺は食堂で3人にに古代魔法学の部活に入る事とその理由を話した。
「なるほど、アレクはその部活に入るんだね。」
「そうだ。」
すると反対する2人。ニノとラーヤだ。
「その理由なら私達の部活に入りなさいよ!」
「アレクは入るべき。」
2人は剣術部に入る事を決めていたようで、俺を部活に入れようと必死になっている。
だけど、ラーヤの言う通り鍛錬なら剣術部の方がいいのだろう。だけど俺は強くなる可能性が古代魔法にあると思ったんだ。
「すまんが決めた事なんだ。それに、俺の噂が広まっているせいで、何故か剣術部の生徒に握手を求められるんだぞ!いきなり知らない人に握手を求められて少し怖かったんだからな!だから嫌だ。」
因みに広がっている噂は『弱きを助け強きを挫く、慈愛に溢れた理想の騎士様』だからな。
この国、スレイド王国は騎士の国と言われるほどで、騎士に憧れる人が多い。そのため俺が2人を庇って怪我をしたのがこの国の人の涙腺に触れたようだ。
「むう。」
「それは、そうね。」
「それに、皆んな勘違いをしている。俺はお前らが大事だから助けたし、それにこの2人は守られるほど弱くないんだよな。はぁ。」
俺がため息を吐くとサンアが苦笑いをしながら言う。
「アレクは自分の言動を理解した方がいいよ。」
「何がだよ?」
「なんでもないよ。ただ、いつか君に義兄さんと言われる日が来るかもと思っただけだよ。」
俺はサンアの言っていることの意味が分からなかった。
「意味分からんな。まあいいや、俺はもう行くな。ニノとラーヤも俺は剣術部に入らないからな。」
そう言って2人を見るとどちらも顔を下に向けていた。
2人に声が聞こえているか分からなかったがもう時間なので俺は古代魔法学に向かった。
後ろから、サンアのため息が聞こえたような気がしたが気のせいだろう。
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古代魔法学の教室に着くと俺は男の先輩達に弄られた。俺はこの人達がいる部活に入るのかと思うと少し憂鬱だ。
それから、俺は部活に入る事を先輩達に伝えると先輩達はとても喜んでくれた。
そして先生の授業が終わると俺は先輩達に部室に案内してもらった。
部室内は古代魔法を調べる部屋と実習用の部屋があった。そこで、俺は古代魔法を調べるために使う魔力は自分の魔力を使うようにして欲しいと伝えた。
そして先輩達と時間ギリギリまで古代魔法を調べて議論しあい1日が終わった。




