決闘2
決闘を受けることにした俺は木剣を持った。
ただ、俺があっさりと決闘を受けたことが不満なのか貴族の男、フーバンが見下しながら話しかけてくる。
「なんだそのすました顔は!あまり調子に乗るなよ平民!貴様は俺にただ倒されるだけの存在なんだ!」
俺は少し相手にするのが面倒だと思いはじめてきた。少しイラついていたとはいえ、もう少し穏便に済ませる方法はあったと思ったが、後悔しても仕方がないと思うことにした。
「分かりました。だったら早く始めましょう。」
「俺に命令するな!」
そう憤怒を浮かべるフーバン。だけど、フーバンも俺と同じ思いのようで剣を構えた。するとフーバンが言う。
「俺が勝ったなら、平民、貴様は退学しろ!まあ、俺の勝ちは約束されたようなものだがな!」
俺は何を言い出すのかと思ったが前にサンアから聞いたことを思い出した。
貴族が行う決闘とは互いに条件を出して勝った方の条件に従うだったかな。それが貴族の中での常識らしい。
平民の俺には関係ない気もするけど、もうこんなことが起きないようにするくらいにはしないとな。
「なら、俺が勝ったらニノとラーヤに関わるのを止めて貰おうか。」
俺が交換条件という形で言ったらフーバンは更に怒り出した。
「平民風情が俺に条件なんて出すのを止めろ!お前は俺より下なんだよ!」
そう言うと、フーバンが斬りかかってきた。いつのまにか決闘は始まっていたらしい。母さん達からこの国の貴族は他の国の貴族よりもましと聞いていたけどそんな事は無かったな。
いや、サンアやクラスメイトたちを考えるとそうでも無いか。
俺はそんな事を考えながらフーバンを観察するが、全然ダメだ。
剣先が安定していなし、体の動かし方もなっていない。それでも何か盗めるかもしれないと思い、俺は防御にまわった。
フーバンからの攻撃を防御防御防御。すると何を勘違いしたのかフーバンが言い出した。
「平民風情が調子に乗るからだ!お前はこのまま惨めに負けるんだよ!貴様のそのお友達とやらは後で俺が可愛がってやるよ。」
俺はその言葉にカチンときた。それに少し剣を交えて分かった。この男から盗めるものは何も無いと。
俺はこの決闘を終わらせるためにわざと隙を作った。勿論、俺が負ける為じゃない。
フーバンは俺の防御が崩れたと思い、俺が作った隙に剣を振り下ろす。
「終わりだ!平民!」
俺はそれを逆手で持った剣で攻撃をいなして、フーバンの体勢を崩し、剣で吹き飛ばした。
吹き飛ばされたフーバンは受け身を取れずに、地面を滑っていき3メートルほどで止まった。
「これで、私の勝ちですよね。」
俺はフーバンの取り巻きに敬語でそう言った。だけど、取り巻き達には意味がなかったようだ。
「貴様!こんなの無効に決まっているだろう!」
「そうだ!貴様がズルをしたに違いがない!」
そう取り巻き達がギャーギャー騒いでいるとラーヤがやってきて言い放つ。
「アレクはズルをしてないわ。それと、言いがかりも辞めなさい、さもないと貴方達を潰すわよ。」
ラーヤが怒りを込めてそう言うと取り巻き達は黙り、すると周りの人達が歓声を上げ始める。
だからだろう、俺はフーバンが魔力を何かに流している事に遅れて気づいた。
俺はフーバンが魔力を流しているものを見ると、それは前にニノと一緒に道具屋で見た魔力を流すことで魔法が発動できるものだ。
そして発動した魔法は風の中級魔法『エアカッター』だ。俺は確認するとすぐさま、神経強化と身体強化を全力で発動させた。
そして、周りがゆっくりに見える。だいたいの人は魔法に気づいていなくて、歓声を上げているが、フーバンの近くにいた人は魔法に気づいたようで驚きの表情を浮かべている。
そして、ニノとラーヤも気づいたようだが、このままじゃ2人は避けられない。そう、避けられないんだ!
フーバンは2人を巻き込んで俺に魔法を撃ったんだ!俺は怒りが込み上げてくるのを感じながら、魔法を避けながら2人を押し飛ばす。
だけど今の俺じゃあ、いきなりの中級魔法は完璧に避けられない。
俺は胸から肩にかけて走る痛みを耐えながらなんとか魔法の直撃を避けられた。
俺は追撃が来ることを考えてすぐさま体勢を整えた。俺の状態は制服が胸から肩にかけて破れていて、そこから血が垂れ、制服に血が滲んでいる。
そんな状態の俺を見て周りからは悲鳴が飛び出た。そして、決闘騒ぎになったから、多分生徒が先生を呼んでいたのだろう。
そのおかげで、先生がフーバンを取り押さえてくれて、フーバンからの追撃は無かった。
俺はその様子を見て、少し力が抜けて倒れそうになったが駆けつけてきたニノとラーヤが倒れないように支えてくれた。
「「アレク!」」
俺は2人の顔を見ると、ニノが泣きそうな顔になっていた。そして、ニノが俺を座らせてヒールを使おうとするがうまくいかないようだ。
「『ヒール』なんで!『ヒール』!」
感情が揺らぎすぎてうまく魔力を制御できていないんだろう。俺は血だらけの手でニノの手を取り、落ち着かせようとする。
「ニノ、落ち着け、落ち着いて発動させるんだ。しっかりと魔力を制御しろ。ラーヤもニノを落ち着かせるのを手伝ってくれ。」
「分かったわ。」
そう言ってラーヤはニノの手を握り、落ち着かせようとしている。流石にラーヤは貴族なだけあってニノよりは落ち着いている。
だけど、ニノは呼吸が乱れていて全然落ち着けていない。ニノにとっては初めての事だから仕方がないだろう。
でも、ラーヤのおかげで少し落ち着いたようだ。そして、俺はニノの手を強く握って言った。
「ニノ、落ち着け、お前ならできる。今までできていただろう。その感覚を思い出せ。」
そうニノに言うと、ニノの呼吸が落ち着き、魔力がしっかりと制御されているのが分かった。
「『ヒール』」
ニノが光の中級魔法『ヒール』を発動させると俺の傷はみるみる治っていき、胸から肩に破れた制服が残った。
それを見たニノは俺に抱きついて来て、泣き始めてしまった。俺は助けを求めるようにラーヤを見たが、そっぽを向かれてしまった。
だけど、涙が出ていたような気がしたから多分照れ隠しだろう。ラーヤも心配してくれたようだ。
俺は泣いているニノの頭を軽く撫でて2人に言った。
「ニノ、治療をありがとうな。それとラーヤもニノを手伝ってくれてありがとう。2人とも助かった。」
俺がそう言うとラーヤはこちらを向いて謝ってきた。
「私はお礼を言われる資格がないわよ。私がフーバンにあんなことを言わなければこんな事にはならなかったわ。だから、ごめんなさい。」
俺はそんなことかと思った。さっきの態度は照れ隠しの他に罪悪感もあったのか。でも決闘を受けたのは俺の意思だからラーヤが謝ることじゃない。
「ラーヤは気にしすぎだ。それに俺は気にしていないから謝る必要もない。だけど、気が済まないのならその謝罪は受け取るよ。」
「そう言われると楽になるわ。」
「おう。それより、いつまでくっついているつもりだニノ。」
「もう、アレクから離れない。」
俺がまだ俺の胸に顔を埋めているニノに向かって言うと、何故か離れない宣言をされてしまった。
「いや、離れないって、もう暑苦しいだけなんだが。」
「嫌。」
「嫌、じゃないんだよなぁ。はぁ、まったく、ならなんで俺から離れたく無いんだ?」
俺はニノを離すために理由を聞く事にした。
「…アレクが、アレクが死んで私から離れる気がしたから。」
そう言って、ニノは俺を更に強く抱きしめた。だけどそうか、俺が居なくなることを想像したのか。
「ニノ、俺とした約束を覚えているか?ニノは俺の好敵手でそして俺達は絶対に離れない約束だ。」
「…うん。」
「ニノ、俺が約束を破った事はあったか?」
「…無い。」
「だろ、だから俺を信じてくれ、ニノからは絶対に離れないから。だから安心しろ。」
「…分かった。アレクを信じる。」
そう言うとニノは俺から離れてくれた。これで色々落ち着いたと思い、周りを見ると微笑ましいものを見るかのように目をした先生達が居た。
「なっ!」
俺はとても恥ずかしい気持ちになったが、ニノも同じのようだ。そしてラーヤは呆れた顔をしていた。




