決闘
稽古服着替えさせられた俺はニノとラーヤに連れられて剣術実習室に来ていた。
ニノとラーヤが俺の腕を逃げられないように掴んでいたせいで周りの生徒からギョッとした目を向けられる。
そして嫉妬の混ざった目も向けられた。まあ、そうだよな剣術学にくる女生徒なんて少ないもんな。おまけに2人は美少女だ。それは嫉妬されるよな。
俺は居心地の悪さを感じながら何をすれば良いのか聞いた。
「それで、ここでは何をするんだ?」
「最初は素振り、その後に模擬戦。」
「分かった。教えてくれてありがとうな。それで、どこでやるか?」
俺は2人に連れ去られたせいで今の時間はまだ昼食中だ。そのおかげか結構スペースがある。
「私とニノがいつもしている所に向かうわよ。」
ラーヤはそう言うと隅っこに指を差した。
「了解。」
俺達3人は入口にあった木剣をそれぞれ持って隅に向かう。
「着いたわよ、私達はいつもここで素振りをしているのよ。」
俺は周りを見たがニノとラーヤ以外が近くに居ない。この2人は皆んなから距離を取られている気がする。
俺は2人を可哀想な人を見る目で言った。
「もしかしてお前ら仲間外れにされてる?」
俺がそう聞くと、2人とも『何言ってるんだコイツ?』とでも言うような視線を送って来た。そしてラーヤが少しイライラしながら言った。
「別に仲間はずれにはされてないわよ。ただ、私達に言い寄って来る貴族がいるの、そのせいで周りの人達がこないのよ。」
その話を聞いて、納得した。誰でも厄介事に首を突っ込みたくないからな。いや、美少女すぎて近寄れないってのもあるだろうな。
「まあ、2人とも可愛いからな。」
俺がそう言うと2人とも照れていた。ニノは分かるがラーヤはなんでだ?ラーヤは褒められるのに慣れていそうだが。
「っ!」
「な、何言ってるのよ!」
「何って事実を言ってるだけだ。それと、何かあれば守ってやるよ。」
俺がそう言うとラーヤとニノは黙ってしまった。
2人が黙ってしまったのを不思議に思ったけど、しっかりと自分の事に集中しようと気持ちを切り替えた。
それに、せっかくこの授業になったのだから真剣に取り組んでやろうと思ったからでもある。
俺は剣を上から下へと一寸の狂いも無く振り下ろす。それを速すぎず遅すぎに何回も繰り返す。
素振りは速く振ろうとすると変な体勢になってしまう。逆に遅すぎると素振りの効果が半減してしまう。
だから一定の速さで剣を振る。それに一定の速さで剣を振るのは集中力がいるため結構疲れる。だけれどもその振り方がとても綺麗に見える。
俺は集中力が切れてきたのが分かったため、休憩することにした。そして、周りを見ると沢山人がいる。
多分、昼食時間が終わったんだろう。そして、いつの間にか近くで剣を振っていた2人を見る。
ニノはいつものようにとても綺麗に剣を振るう。
ただ、それ以上にラーヤの成長が剣に現れていた。前に戦ったラーヤの剣と比べ物にならないくらい動きが洗練されている。
これはニノのおかげだろう。今まで、天才と言われていて競い合える相手がいなかったラーヤにとって初めての競い合える相手。それは簡単に限界を超える。
「これは天才と言われるだけあるな。」
俺は口から思いが出ているのが分かったがそれだけ、ラーヤの成長が驚きだったと言うこと。
俺も負けていられないと思って素振りをしようとした時、ラーヤ達に声をかける男達が3人いた。
3人とも指に宝石をつけていたり、しているから商人か貴族だろう。そしてさっきのラーヤの話からこの3人の真ん中の奴が言い寄って来る貴族なんだろう。
「ラーヤ様は今日も美しいですね。」
ラーヤは横目でその男を少し見ると素振り辞めて言った。
「ありがとうございます。フーバン様。でも今は授業中、そのため声をかけなくてもいいのではありませんか。」
遠回しにもう話しかけんなって言ったのだろう。それにしてもラーヤのお嬢様言葉は違和感しかないな。
「いえいえそんなのは些事でございます。それに友好を深めるのも授業の一環ですよ。そちらのお友達もいかがですか。」
ニノに話しかけるフーバン。ラーヤが素振りを止めたのを見てニノも素振りを止めていた。
「遠慮する。」
「ニノもそう言っているので私も遠慮しますね。」
そう言って2人ともその貴族の男を無視したが、その貴族の男がいきなり怒鳴り始めた。
「下手にでていたらいい気になりやがって、調子に乗るなよ!」
俺は沸点低いな、と思ったが流石にこれ以上は周りに迷惑だろうと思って2人とフーバンの間に割り込んだ。
「まあまあ、落ち着いてください。」
「「アレク。」」
「なんだ貴様は、俺の邪魔をするのか。」
「いえ、周りに迷惑なので落ち着いてもらおうと思っただけですよ。」
「周りなど関係ない、俺が絶対だ。」
俺は周りの人が何事かと見ているのが分かっていたのでそれを伝えたのだが、どうやらこの人には意味がないらしい。
「そうだ。フーバン様が絶対だ。」
と取り巻きが言ってくる。するとフーバンが俺に聞いてきた。
「それで、貴様の家名はなんだ。」
「自分は貴族ではないため、家名はありません。」
するとフーバン達の態度が更に酷くなった。
「なら平民風情が俺に話しかけてくるな。平民なら平民らしく俺に頭を下げろよ。邪魔をしてすみませんでしたってなぁ。」
俺は少し呆気に取られていた。今まで会った中でこんな感じの貴族がいたことがないからだ。1組にいる貴族達は普通に親切だったしな。
それにしても、邪魔ねぇ。どちらかと言えば邪魔をしているのはそっちだと思うんだが。まあ、それを言えば更に機嫌が悪くなるのは目に見えている。
「は、はぁ。でもすみません。自分は後ろの2人と約束しているため、遠慮してくれませんか。」
「貴様の約束など知らん。俺が優先だ。それに後ろの2人も平民のお前よりも優秀な俺の方がいいに決まっている。」
さっき、断られたのによくそんな自信が出てくるな。俺がこの人をどうしようかと思っていると、俺の後ろにいたラーヤが言った。
「すみませんが、アレクと約束があるためお断りさせてもらいます。それにアレクの方があなたよりも優れていますし、私の友人を馬鹿にした方と話す気などありません。ですのでもう私達に話しかけて来ないでください。」
「止めて欲しい。」
そして、止めを刺すようにニノが言い、ラーヤと一緒にフーバンを一刀両断した。そしたらフーバンが激昂した。
「ふ、ふざけるなよ!俺がそこの平民よりも劣っている、だと、おい!平民、決闘だ!俺と戦え!」
はあ、断りたいが、もし俺がこの決闘を断ればラーヤの名に傷が付く。それに俺も素振りを邪魔されてイライラしていたし戦うか。
「わかりました。受けましょう。」
こうして、決闘を受けることになった。




