貴族の男2
サンアが俺と相部屋になって、ご飯まで話しをする事にした。そしてサンアと話しているとドアをノックされる。
そしたら、メイドのサラさんが対応しに向かった。サラさんは俺とサンアが話している時、ずっと壁の側にいたからだ。
そして、対応から戻ってきたサラさんがサンアに言った。
「サンア様、新学年の代表挨拶を受けてくれませんかと話しがきました。どういたしますか。」
「受けると言っておいてくれるかい。」
「畏まりました。」
そう言ってサラさんは、廊下で待たせていた人にサンアが了承した事を伝えていた。
俺はどうやって代表者を決めているのか気になったため、サンアに聞いてみたら普通に答えられた。
「それは、アレクも受けた試験の点数だよ。その点数により、代表者が決まるんだ。そして、点数が同じの場合は爵位が高いものから選ばれるんだ。」
「へー、そんなふうに決まっているのか、なら、サンアは試験の点はいくらくらいなんだ?」
サンアは少し考えると当たり前のように言った。
「全て満点だろうね。」
「おー、自信満々だな。」
「まあ、そうだね。」
そう言ったサンアの表情は少し困ったような顔をしていた。俺は少し考えて分かった。多分、サンアは理由を言うと嫌味っぽくなると考えたのだろう。
「あー、すまんな答えにくい事を聞いて、考えれば分かる事だったな。貴族や商人は金がある。だから、その分いい教育を受けられるって事くらい。」
「そうなんだよね、だからさすがにアレクの前で言うのはちょっとって思ったんだ。」
「まあ、俺は気にしないが、そんな事を言われたら嫌味だと思われるだろうな。」
「ははは。」
「まあ、それにしてもあれだな。商人や貴族にとってあの問題は簡単な部類に入るんだろうな。」
「まあ、そうだね。それでアレクはいくつくらいだと思ってるんだい?」
「あー、俺も満点だろうなって思ってるな。でもサンアの話しを聞いて自信がなくなってきたから、ちょっと解答みてくれないか?一応問題文にも答えを書いていたから。」
これは前世の癖で、家に帰って答え合わせをするために問題文に解答を書いていたのだ。それがこんなところで役に立つとは。
…あれ?俺って前世でこんな事をしていたのか?前世の俺と俺が知っている前世の俺とのイメージの違いに違和感があるな。
「アレク、大丈夫かい?」
「えっ、あ、ああ大丈夫だ。」
少し、考えすぎたな。
それから、俺は荷物から問題を取り出してサンアに見せる。サンアは俺の問題文を全て見ると言った。
「僕が見た感じでは満点だったよ。」
「サンアに言われたら安心だわ。」
俺がそう安堵しているとサンアは難しい顔をして言った。
「ただ、少しまずいかもしれないね。」
「何が不味いんだ?」
「アレクはこの試験の上位30名が全校生徒の前で発表されるのは知っているかい?」
その言葉は初耳だった。俺が首を振ると俺が知らないと分かったサンアが続けて話し始めた。
「満点だとまず間違いなく発表されるだろう。そうすると、発表者に選ばれなかった貴族や商人が文句を言ってくるだろう。自分の努力が足りなかっただけだと言うのにね。」
そう、サンアは呆れたように言った。ただ、その話しを聞いて心底面倒だと思った。
「要するに俺が虐められるって認識でいいか。」
「まあ、そういう事だね。それで、どうするんだい、なんなら僕の庇護下に入るかい?僕は存外アレクの事を気に入っているんだ。それにアレクは優秀そうだしね。将来的には僕の右腕として雇ってもいいくらいには。」
多分、ここでサンアの庇護下に入れば虐められる心配もないのだろう。ただ、入ったら最後、サンアの所で働く事になりそうだが。
でも、俺にはニノと冒険者をして世界最強になる約束があるからな。まあ、世界最強になったら、サンアの所で働くこともやぶさかではないけどな。
「それは勧誘か?俺的には将来的にサンアのところで働くのは別にいいが、約束があるからな。」
「それは、一緒に来たっていう友達かい?ならその子も一緒に働いて貰おうかな。」
俺は、事務仕事をしているニノを想像してみたが案外似合ってると思った。でも、ニノは剣を振っている時が一番生き生きしてるからな。
「いや、遠慮しておくよ、普通の人からしたら貴族の元で働けるのは凄い事なんだろうけど、生憎と俺と俺の友達は頑固なんだ。だから、すまんな。」
俺が謝ると気にしなくていいという態度でサンアが言った。
「そうかい、まあ、最初から振られると分かっていたからね。別に構わないよ。それでどうするんだい。僕の庇護下が駄目なら、対処する方法は2つ。圧倒的な力を見せつけるか、虐めを耐え忍ぶか。最後のは対処とは言えないかもしれないけどね。」
「端的に言うと、権利、力、我慢ってことか。」
「そんなところだね。それで大丈夫そうかい。」
俺は自惚れで無ければ結構強いと思う。多分冒険者のBランクくらいには余裕で勝てると思う。そして、Aランクにもニノがいれば互角くらいには戦えると思う。
俺達は、村を出る前にリガルドさんと父さん1人ずつと2人で戦って互角までは戦える事が分かった。俺の父さんはSランク間近と言われた人だし、リガルドさんも腕を斬られる前なら、父さんに勝ち越していたらしいしな。それに負けそうなら最悪逃げるという選択肢もある。
「サンア、なんとかなりそうだ。それに最悪逃げれば良いだけだしな。」
俺が自信満々に言うとサンアは呆気に取られたようだ。そしてクツクツと笑い出した。
「確かにアレクなら、なんとかしそうだと思ってしまうよ。まあ、何か困った事があったら言ってくれ、僕は力になろう。」
「サンアの元で働く事にはならないよな。」
俺が警戒心たっぷりで聞くとサンアは笑いながら言った。
「そんな騙し討ちはしないさ。それじゃあそろそろ夕食だし、食堂に行こうか。」
そうして、俺達は食堂へと向かう事にした。
俺とサンアが隣同士で話してサラさんが後ろから着いてくる、そんなふうに歩いていると何やら騒がしいところがある。
そちらを見ると看板があり、そこには自主訓練室と書いてあった。
「何か、あったみたいだな。」
「そうみたいだね。だから、覗いてみようか。」
俺は野次馬根性を発揮してるサンアを呆れて見ながら向かって行ったサンアの後ろについて行った。
そして中に入ると観戦場みたいに椅子が並べてあり、真ん中がグラウンドになっていた。そして下から入れる所と上から入れるところがあった。いま俺達は上から入れる所にいる。
そしてグラウンドの方を見ると他の自主練習していた。先輩方と思われる人達が端によってグラウンドの真ん中に視線を送っていた。その視線の先を見るとグラウンドの真ん中で模擬戦をしているニノがいた。
相手はこれまた金髪の少女であった。俺とニノは金髪に縁でもあるのだろうかと思いながら現実逃避をしていた。
そして、とうとう、結果が出たようだ。ニノが相手の剣を弾き飛ばして喉元に寸止めで剣を止めた。
その金髪の少女が両手をあげて口をうごしているのが見えたが、多分まいったとでも言ったのだろう。そして、この訓練場に歓声が響いた。




