貴族の男1
ニノと別れた俺はさっきの話で自分と一緒の部屋の人が誰か気になってきた。一応、話す程度なら問題なくできるだろうが、相手がコミュニケーションを放棄して来たらさすがに無理だ。
俺はそんな一抹の不安と共に自分の部屋番号に入ったが、中には誰もいなかった。まだ、この部屋に来ていないようだ。
部屋の中はまあまあ広くて、押し入れを開けると布団が2つ程入っていた。その他には机や風呂、トイレがある程度だった。
俺が荷物を整理していると、何やら廊下から声が聞こえてきた。その声はどんどん大きくなり、俺の部屋の前で止まった。
そして次の瞬間、扉を開けて身なりのいい金髪の生徒が入ってきた。後ろには執事と思われる人とメイドが1人いた。
その人物は俺と目が合うと手を差し出してきながら自己紹介を始めた。
「僕の名前はサンア•アブソート、これから君と同じ寮部屋で暮らす一年生さ。」
アブソートって、公爵家の家名だよな。なら、このサンアって人は貴族なのか。まあ、見るからに貴族って感じだからな。でも相手が礼儀を持って接したなら礼儀で返すのは当たり前だからな。
「自己紹介ありがとうございます、アブソート様。私はアレクと申します。これから同室の者どうし、よろしくお願いいたします。」
俺は手を腹に置き礼をした。流石に貴族様の手を手軽に握る訳にはいかないからな。しかも初対面で。それに、後ろの執事とメイドがとても硬くなっていたからな。
「アレクというのか、それと僕に敬語は不要さ、サンアでいいよ。僕もアレクと呼ぶから。」
そうしてまた、サンアは手を出してきた。どうやら意地でも握手したいらしい。流石に2回目を断るのは失礼か。
「分かった。そうさせてもらう。これから宜しくなサンア。」
俺はサンアとガッチリと握手した。後ろにいたメイドと執事は顔が真っ青になっているが気にしない事にした。
「ああ、宜しく頼むよアレク。それにしても、アレクは礼儀がなっていたね、平民は皆そうなのかい?」
「さあ、わからんな。俺の友達はこれくらいならできるけど、俺も友達がそいつしかいないからな。後ろの執事さんに聞いて見ればいいんじゃないか。」
目上の人の話しを遮って話しかけるのは、マナーとして駄目だからな。その為に俺は執事さんにアイコンタクトを向けた。
俺の意図が伝わったのか、執事さんは少し礼をしてサンアに耳打ちをした。ただ、耳打ちは困るな、俺もちょっと知りたかった情報なのに。
でも仕方がない事なのか、確か貴族というのは相手に自分が無知な事を悟られてはいけないんだっけ。
まあ、サンアは思いっきり俺に質問してきたけど、だけどまだ12歳、このくらいのミスはあるか。
そして、何を伝えたのかは、わからなかったが。サンアは理解したらしい。
「すまないね、アレク。野暮な事を聞いてしまった」
何が伝わったのか分からないが、何故か謝られた。ただ、ここで否定するのも話しがややこしくなるのでスルーする事にした。
「いや、別にいいよ。それと俺からも1つ質問をいいか?」
「別に構わないよ。」
「なら、サンアは貴族なんだよな。なら貴族専用の部屋とかあるんじゃないのか?」
「あるにはあるけど、僕は寮部屋で生活するのに憧れていたんだ。だから、空いていた部屋に移動したんだよ。」
部屋が空いていたってどういう事だ?少し聞いてみるか。
「なあ、部屋が空いていたって、俺の部屋の人はいなかったのか。」
「ああ、そうみたいだね。なんでも学校に来れなかったらしいよ。だから他にも部屋が空いてあるんだ。だから、今年の1年生は3300人くらいらしいよ。」
確かに、ここまで来るのは結構大変だからな。来れなかった人もいたのかもしれない。
「情報ありがとう。それでサンアは自分の部屋を放棄してこの部屋に来たから、そこの執事さんと使用人さんに止められていたのか。」
俺が言った使用人とはメイドさんのことだ。この世界にはメイドってものは無いからな。
「そうだよ、よく分かったね。」
そりゃそうだ。だって声がこの部屋まで聞こえていたんだから。俺が呆れていると、執事さんが言った。
「よく分かったね。ではありません、サンア様。貴方様は貴族なのです。だからいるだけで皆が萎縮してしまいます。分かりますか。」
執事にしては結構きつい事を言うなと思ったが長い付き合いなのだろう。
「またそれか、じぃ。それに大丈夫だったじゃないか、アレクは萎縮なんて微塵もしてないよ。」
「アレク様はそうかもしれませんが、他がそうとは限りません。なので、お部屋に戻りましょう。」
そして、2人の譲らない話し合いが始まった。俺は傍観者でいようと思っていたらメイドさんと目があった。
流石にこう廊下の前で騒がれては周りの人の迷惑になる。だから解決する為に、メイドさんからサンアがどういう人なのか聞こうと思った。
俺はユークさんから教わった足音を出さない歩き方でメイドさんに近寄った。ただ、メイドさんが一瞬瞬きをした瞬間に近寄ってしまったせいかビクッと驚いていたが、声は出さなかった。流石は公爵家で雇われるメイドさん。
メイドさんの歳は20歳くらいで、黒髪のロングだ。
「使用人さん、サンアはいったいどんな人物ですか。人格に問題が無ければ、俺的には部屋にいてもらってもいいと思っているんですが。」
メイドさんは話すのを迷っていたみたいだったが俺の最後の言葉で話してくれたが、話しを聞く限り問題がないように思えた。
俺はメイドさんに軽くお礼を言い、俺は執事さんとサンアの話しに割り込んだ。
「2人とも、ここは廊下なので静かにしてくれませんかね。それと執事さん。サンアを俺の部屋の住居人にしても大丈夫ですよ。それと周りの生徒が萎縮してしまう話しですけど、平民の俺が普通にサンアと会話をしていたら、萎縮しないと思いますよ。それに人間は慣れる生き物ですから、いつのまにか気にしなくなっていると思いますよ。」
「確かにアレク様の言うことはもっともですが、サンア様の生活が…。」
「それは大丈夫だよ。じぃ。」
サンアはとても自信たっぷりと言った。執事さんは諦めたようにため息をついた。
「分かりました。ですが、使用人のサラをこの部屋に置いておく事が条件です。無論、アレク様の事もお世話をします。」
「それでいいよ、じぃ。じゃあ、2回目だけどこれから宜しく頼むよアレク。」
なんか、メイドさんが俺のお世話をする事に決まったが、それで解決するならいいか。
「ああ、こちらこそ宜しく頼む。それとサラさんも宜しくお願いします。」
「こちらこそ宜しくお願いします。」
こうして俺とサンアは同じ部屋で住む事になり、四六時中いるわけではないが、お世話をしてくれるらしいサラさんがこの部屋に来る事になった。




