ゴブリン殲滅10
俺達が父さん達の所へ到着すると、そこにはゴブリンの死体だらけだった。奇妙なのは円を描くようにゴブリン死体がある事だろうか。
その中で大きな存在感を出す死体が一つあった。多分これがゴブリンキングなのだろう。
ざっと見た所、体長5メートルくらいあり、肩から胸にかけてザックリと大きく斬られている。父さんかグレンさんのどちらかが斬ったのだろう。
俺達に気づいた父さんが手を振りながらこちらに向かってきた。
「アレク、そっちは大丈夫だったか。」
「大丈夫だったよ。それにリガルドさんとニノもいたからね。それよりも大丈夫だった?リガルドさんに少し異常と聞いたけど。」
俺と父さんが話しているとリガルドさんも話に入ってきた。
「アレクの言うとおりだ。野生のゴブリンにしては知恵が回っていたからな。」
「そうか、リガルド達も異常だと感じたか。」
「父さんも異常を感じたの?」
「ああ、と言ってもこの部屋に来た時だがな。話すと長くなるが、俺達は順調にゴブリンどもを蹴散らしてこの部屋まで来たんだがこの部屋にいたのはコイツだけだったんだ。」
そう言い父さんはゴブリンキングを指差しながら言う。
「それの何がおかしいの?」
「アレクは知らないか、普通野生のゴブリンは集団で固まっているんだ。だからこそコイツが一人でいるのが不思議だったんだ。」
なるほど、だからゴブリンは基本、集団で襲って来たのか。でもボスが一人でいるのって普通じゃね?そう俺が不思議に思っていると、俺の考えている事が分かったのか父さんが言った。
「アレク、コイツは普通は一匹でいないんだ。本ではそう書かれているが実際じゃ普通に手下を連れているぞ。なあ、リガルド。」
「そうだな。私がまだ騎士だった頃、入って来た新人がよく勘違いしていた。」
そうなのか、確かに普通に考えてボスが一匹でいる訳ないな。命を狙われているのに不利な状態で戦う訳がない。
「だから、一匹でいるのは不思議だったんだ。それでも殺さないといけないから攻撃したんだが、そしたら横穴からゴブリンが沢山来て囲まれたんだよ。だから異常だって分かったんだ。」
「それでその後どうなったの?」
「まあ、少し面倒だったが殲滅できたな、それに大空達も来たからな。」
「そうなんだ。」
レイさん達の話しが出て来たから、俺はレイさん達の方を見た。するとニノと話しをしているようだった。
多分ニノが話しを聴きにいったんだろう。そう言えばリガルドさんの親バカは大丈夫かな。
俺が恐る恐るリガルドさんを見ると何かを考えているようで気づいていないようだ。
俺はグレンさんがいない事に気づき、周りを見るとグレンさんがゴブリンを燃やしているようだった。
「父さん、グレンさんは何をやっているの?」
「ん?ああ、燃やす事によって他の魔物がゴブリンを食べに来ないようにしているんだ。」
「あれ、魔物って売れるんじゃないの?」
「ああ、別にゴブリンの討伐じゃなくて殲滅だからな、殲滅なら依頼主から殲滅を確認したと証明書に名前を書いて貰って完了で、討伐は魔物の一部を持って帰れば証明になる。」
なるほど、これが殲滅と討伐の違いか、でも魔物の素材は金になるって聞いたんだが、どうなんだ。
「父さん、魔物ってお金になるんだよね。なら燃やさなくてもいいような?」
「ああ、ゴブリンは金にならないんだよ。まあ、ハイ以上なら睾丸が金になるか、それとキングの魔石だな。」
「そうなんだ。なら、俺はグレンさんの手伝いをしてくる。」
「分かったが迷惑かけるなよ。」
「分かった。」
俺はグレンさんのところまで行き燃やすのを手伝うと言った。
「師匠の息子さんに言われたら断れねぇす。なら初級で燃やしてくだせぇっす。強すぎると周りに死体が吹き飛んで行くっすから。」
グレンさんは手に何かを持っており、それに魔力を込めて火の魔法を発動させているみたいだ。
「分かりました。あっ、確認なんですけど睾丸とか全部取りましたか。」
「取りましたっす。遠慮無く燃やしてくだせえっす」
「分かりました。」
俺は魔法を発動させようとしたが少し考えて辞めた。チマチマ燃やすよりも火炎放射器みたいに長い間燃やすようにするか。
この世界の魔法って英語で発動させたい魔法の要素を言えば発動するんだよね。
『ロング タイム フレイム』
俺がそのまま言うと俺の手の平から炎が放出された。
これは実験成功かな。そう思っていると魔力を凄く食う事が分かった。こんなに魔力を消費するのか。これは失敗だな。周りが安全じゃないと使えないし。
「早めに終わらせるか。」
俺はこの魔法の考察を後にしてゴブリン達の死体を燃やしていった。
俺はゴブリンを燃やしながら考える。
俺ってこんな簡単に生き物を殺せるのか。ニノに言われたからと言っても、こんなに早く殺そうって切り替えられるなんて。
でもこの世界の人達にとってはそれが当たり前なんだよな。この世界で、こんな事を考えている俺が異常なんだろう。
もしも、もしもの話しだがこの体にはアレクと言う人格がいるのかもしれないな。この世界で努力できたのも、生き物を殺すと切り替えられたのもアレクのおかげかも知れない。
よく考えてみればこんなに苦しい努力なんて転生しても普通やれないしな。
前世の俺でも一応はある程度努力はしただろうが、こんなに努力はできるものなのだろうか?
もし、俺の中にアレクの人格がいて、入れ替わろうとしてきたら変わるとしよう。この人生は元々はアレクのものなんだし、この世界での異常は俺なんだから。
そう考えていると半分のゴブリンに火をつける事ができた。
「グレンさん終わりました。」
俺がそう言うとグレンさんは言った。
「流石はリリアさんの息子すっね。そんな魔法見たこともないっす。」
「まあ、今考えた魔法なんですよ。それに魔力消費が大きくて全然使えないんですよ。」
俺がそう言うとグレンさんは驚いた顔をして言った。
「それ本当っすか!凄いっすね。流石はリリアさんの息子さんっす。」
するとグレンさんの声になんだなんだと父さん達が近づいて来た。
「どうしたグレン?なんかあったか。」
「あっ、師匠。息子さんが凄いっすよ。なんでも今新しい魔法を発明したんです。」
「何?アレク本当か。」
「えっ、うん。まあ、今さっき自分で考えたのは本当だよ。だけど多分どこかに、俺と同じ魔法を発明した人はいると思うけど。」
「そうか、なら帰ったらリリアに聞いてみるか。」
「アレク、どんな魔法か見せてくれない。少し見て見たいんだけどいいかな。」
そう言いって可愛くお願いしてくるシンシアさん。
「別にいいですけど、これ物凄く魔力を食うんですよ。だからあまり使えなさそうなんですよね。」
「そうなのかい?」
「そうなんですよ。まあ見ててください。後俺の魔力量も。」
そう言い俺は10秒間魔法を発動させた。
「確かに魔力の減りは早いけど、それよりも驚く事があるんだよね。」
「何ですか?シンシアさん。」
「いや、アレクの魔力量だよ。見るまで気づかなかったよ。それとよくそれほどの魔力量を隠せたね。」
「えっ、俺は隠してるつもりは無いんですが、ただ魔力を制御しているだけですよ。それにニノも俺と同じくらい魔力量がありますよ。」
そう俺が言うとシンシアさんはニノの魔力量をみた。
「えっ、本当だ。二人とも魔力が多いね。もしかしてまだ魔力が伸びるの?」
「まあ、伸びますね。」
俺がそう言うとシンシアさんが膝をついて項垂れだす。
「アレクとニノちゃんに負けた。」
「シンシアは大袈裟だな、ごめんよアレク、ニノちゃん。」
「いえいえ、気にして無いですから。」
「私も。」
「それよりも僕でもアレクの魔法は見たことがないよ。もしかしたら本当に魔法を発明したかもだね。」
「それが本当なら嬉しいですね。それに魔法使いとしても認められますし。」
魔法使いと認められるには中級魔法の習得か魔法の発明だ。そして一流と認められるのが上級魔法の習得と魔法の発明だ。
俺はまだ上級魔法を完璧に操れていないため、まだ魔法使いだ。
「話しはそれまでにして、帰るぞ。それとゴブリンの生き残りがいるかも知らないから横穴から帰るようにな。」
父さんがそう言うと皆んなは帰る準備を始めた。
「ジーク、私達は来た道から帰るようにするがいいか?」
「ああ、ゴブリンも燃やさないとな。それと心配はないと思うがアレクを頼むぞ。」
「分かった。」
こうして俺達のゴブリン殲滅戦は終わった。




