ニノの身体強化
俺が目を覚ますと母さんの顔が目の前にあった。どうやら俺は膝枕をされているらしい。
「目が覚めたのね。心配したのよ。」
「そうか、俺は気絶したのか。それで父さんは?」
俺がそう母さんに聞くと、指を差して言った。
「ほら、あそこにいるでしょ。」
俺が母さんの指先を見るとそこには正座されられている父さんがいた。よく見ると父さんの下の地面が割れて凹んでいる。
「えっ、何やってるの。それに父さんの下の地面が
凹んでるんだけど。」
「罰を与えているのよ。」
そう母さんは淡々と言う。
「なんで?」
「加減も出来ない馬鹿にはこれくらいしないといけないのよ。」
俺は父さんの顔を見るとこちらに助けを求める様な視線を向けているのが分かった。
「母さん、辞めてあげてよ。」
「アレク、甘やかしては駄目よ。前にも同じ事があったと言うのに反省していないのかしらね。さっ、アレクお家に入りましょう。」
「えっ、うん。」
俺は反射的に応えてしまいそのまま家に入った。
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「そう言えば母さん。俺はどのくらい気絶してたの?」
俺は時間を気にして母さんに聞いた。
「ほんの数分よ。だから心配しなくていいわよ、ニノちゃんとの時間には間に合うから。」
そして母さんは昼食をテーブルに並べてくれた。俺はそれらを食べ終わると剣を取り玄関で靴を履いた。
「それじゃ、行って来ます。」
「いってらっしゃい。」
玄関から出て庭の方を見ると正座させられている父さんがいる。
俺は助けられなくてゴメンという思いを込めて頭を下げ、いつもの場所に向かった。
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「よっ、ニノ。」
俺よりも早くにいるニノに軽く手を上げた。
「ん。」
「今日は素振りをしてないんだな。」
珍しいことにニノは素振りをしていなかった。いつもは剣を振っているのに。
「アレク、少し話しがある。」
唐突にニノがそう聞いてきた。
「なんだ、ゴブリン殲滅の話か?」
「違う、私の身体強化について。」
「どこかおかしいのか。」
俺は昨日の一件で何かあったのかと思い少し言葉が早くなった。
「おかしいのは確か、でも心配する様な事にはなってない。」
「そうか良かったよ。なら、何がおかしいんだ。」
「説明するのは難しい、だから見て。」
そう言ってニノは身体強化を発動させた。その身体強化は魔力の密度が高く、乱れが一切ない。
「凄いな、俺の身体強化を軽く超えてる。」
「アレク、この身体強化を見て何か分かる?」
俺は身体強化をよく観察すると魔力の色が少し濃い事が分かった。俺は気になる事があったのでニノに木を殴って貰うことにした。
「ニノ、少し木を殴ってくれないか。」
「分かった。」
ニノがそう言って木を殴ると木が折れる。
「俺も殴ってみるぞ。」
俺がニノと同じ魔力量を身体強化に込めて殴ると木にへこみができた。
「何か分かった?」
「ああ、ニノの身体強化はレベルが上がったんだ。」
「レベル?エルフ語?」
エルフ語は英語に近しいものだからレベルって単語はあるだろう。
「分からないか。分かりやすく説明すると冒険者のランクがあるだろう。」
「うん。」
「そのランクが1つ上がったって事だ。」
「身体強化が1つ分、強くなった?」
「そう言うこと。もしかすると身体強化のランクが上がったのはニノが世界初かも知れない。」
俺はそう言い思い出す。俺の父さんも俺と同じ色の身体強化だったし、母さんの身体強化も同じだった。
「なら、私は強くなったの?」
ニノが心配そうに聞いてくる。
「勿論、まあ身体強化は自分の身体能力が高ければより強くなるから、体が出来て無いうちは十分な力が発揮できないけどな。だから心配しなくていいはずだ。」
ニノも子供だもんな、自分の体に変化が起きて心配だったのかも知れない。
「アレク、ありがとう。」
「大した事はしてない。それと、明日ゴブリン殲滅だからな頑張ろうぜ。」
それから俺たちはいつもの様に戦いあった。勿論ただの身体強化を使った戦いは俺が全て負けたが。
「はあ、身体強化を使った戦い、ニノに体術でも全て負ける様になった。」
「アレク、なんで神経強化を使わなかったの。」
俺は自分の神経強化のことをニノに教えていた。だから俺が使わなかったことに疑問を持ったのだろう。
「神経強化を使うと気絶するんだよ。軽めなら大丈夫かもしれないけどもし気絶したらニノに迷惑が掛かるじゃん。それに明日は神経強化を使わないつもりだから。」
「そうなんだ。なら、ここに来る日は最後にアレクが神経強化を使って戦おう。」
「う〜ん。」
「駄目?」
「いや、駄目じゃ無いけどもし気絶したらどうしようかと考えていて。」
「それなら私がアレクを家まで運ぶ。」
「いや、それは…」
遠慮しようとしたらニノが被せて言った。
「運ぶ。」
「だか…」
「運ぶ。」
「はい。」
俺は根負けしてお願いすることにした。まあ、気絶しないかもしれないからな。
「そう言えばさ。」
「何?」
「最近、本の話し出来てないよな。」
「うん。でも新しい本が無い。」
「そうなんだよな。行商人も本は売ってないし。」
「私がお母さんに頼めば売ってくれる、かも。」
「なんで?」
「私のお母さん商家の娘だから。」
「そうなんだ。なら頼んでくれない。」
「分かった。それに私も本を読みたいし。」
「ありがと。それじゃ帰りますか。」
「分かった。」
こうして俺たちはそれぞれの帰路についた。
それとまだ父さんが庭で正座していたからお母さんに解いて貰う様にお願いした。それでも迷っていたからゴブリン殲滅の話しをすると解いてくれた。
それからいつもの様に夜を過ごして寝ることになった。俺は寝る時いつもの様に魔力を空にしている時、思った。神経強化を使って気絶するかを確認しようと。
結果から言うと気絶はしなかった。ニノと戦った時の神経強化を使ってもだ。ただ痛くて少し声をあげてしまったが。ニノと戦った時はアドレナリンが沢山出てたおかげで痛みで声が出なかったのかな。
俺はこれ以上の強化をしたらどうなるのか気になって試してみた。
「あああっ!」
そしたらあまりの痛さに大声を出してしまった。どうやら痛みは倍々的に増えているのではなく、強化の強さによって痛みが増している様だ。
「「アレク!」」
俺が大声を出したことによって両親がやって来た。
「アレク、目から血が出てるわよ!どうしたの!
とにかくすぐに治すわ。」
母さんは俺が目から血が出ているのに気づきすぐに回復魔法を使った。
父さんはどうやら周囲の警戒をしている様だ。
「母さん、大丈夫だよ。」
「そう、良かったわ。それで何があったの。」
「自分の限界を確かめてだんだよ。」
俺は心配させまいと嘘をついたが、すぐに思い浮かぶはずがなく変なことを言ってしまった。
「どう言うこと。」
どうしようかと悩んでいる時、思い出した。俺は魔力が無い状態で魔法を使ったら痛みが出ることを。
「魔力が無い状態で魔法を使ったらどうなるのかと思ってやったんだ。そしたら痛みが襲って来て。」
そしたら母さんがハッとして申し訳なさいと言う顔をした。
「教えて無かったわね。魔力が無い状態で魔法を使うと頭に物凄い痛みが走るのよ。これは教えていなかった私が悪いわね。」
「そうなんだ。心配かけてごめんなさい。」
「分かったら魔力切れの時は魔法は使っちゃ駄目よ。」
「分かった。それじゃおやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
「しっかり寝るんだぞ明日はゴブリン殲滅に行くんだからな。」
「分かった。父さんもおやすみなさい。」
こうして少しハプニングもあったが今日が終わった。




