感情
父さんと別れてからニノに会いにいつもの場所に向かったら素振りをしているニノがいた。
「悪い、少し遅れた。」
そう、俺が言うとニノは目線を少しだけ俺に向けて言った。
「私も今来た所。」
そう言ったニノはそのまま素振りをし始める。
「それにしても、綺麗に振るよな。俺も自主的に振ってるけどニノみたいにできないんだよな。」
「そう?アレクも綺麗だと思う。」
知らぬは本人だけか。ニノから見たら俺と同じに見えるのかもしれないが、第三者に聞けば一発でニノの方が綺麗と言うだろう。
「ニノ、俺も隣で素振りをしてもいいか。」
「いいよ。」
俺は少しでもニノから何か盗めないかニノを見ながら素振りをした。
それから1時間後、俺達はいつもの様に戦っていた。
俺も少しは成長しているのか、ニノと喋りながら剣で打ち合える様にはなった。
「それでさ、ゴブリンを殲滅する為に父さんが3日後家を朝早く出るから3日後朝からここに来ない。」
俺はさっきあった父さんとユークさんの話をニノにしていた。
「その話ならお父さんも言ってた。」
「お父さんって確かリガルドさんだっけ?」
「そう、だからその日、私もゴブリン殲滅に行くの。」
「えっ?」
俺は驚いてしまい、隙を作ってしまった。
そこを見逃すニノじゃない。そのできた隙にニノは突きを放った。
俺は慌てて防御するも間に合わずに、突きを貰ってしまう。
「私の勝ち。」
俺は負けた事よりもニノのさっきの言葉が気になっていた。
「ニノ、ゴブリン殲滅に行くって本当か。」
「うん。だから、アレクも行かない?」
ニノが行くのなら俺も行きたいと言う気持ちがあったからその誘いは俺にとって好都合だ。
だけど母さんが許可をくれるかどうか。父さんならいいぞって言いそうなんだけどな。
「あ〜、俺も行きたいんだが母さんが許可をくれるかどうかだな。」
「なら、一緒に行けるといいね。」
「そうだな。」
こうして疲れるまで俺達は戦いあった。
「はあ〜疲れた。ニノも座れよ。」
座りながら俺は木に寄りかかっているニノそう言った。
「分かった。」
そう言いニノは俺の隣に座る。
のどかな風を感じながら俺はニノに聞いた。
「そう言えばこの森の奥ってどうなってるんだ。」
「分からない。」
「なら行ってみようぜ。」
「うん。」
こうして俺達は森の奥へと進んで行く。
それから数分後。
「さっきから何してるの?」
俺がジャンプしながら枝を折っている時にニノから質問された。
「ああ、迷わない様に印をつけてるんだよ。周りの木は枝が上にあって下に枝がないから、折って垂らしていれば分かりやすい印になるだろ。」
そんな俺をニノは感心しながら見ている。
「アレクは冒険者に向いてる。」
「だろ。」
ニノと雑談しながら歩いていると何かが見えてきた。
「何だこれ。」
俺達の前には有刺鉄線らしきものが木と木に巻きつけられてバリケードになっていた。
「多分魔物避けだと思う。」
「魔物避け?」
「前にお母さんが言ってた。魔物が侵入できない様にする為にって。」
「へ〜。まあ確かに、森の中から侵入されたら見つけにくいからな。待てよ?それなら村全体を囲んだ方がいい様な気がするんだが。」
俺の疑問にニノが答えてくれた。
「例外はあるけど人の生活圏に魔物は近づかない。」
「なるほど、だからか。それに村を囲むとなると金もかかるからな。ニノ、それで例外ってなんだ。」
「それは、とても強い魔物とかとても知能が低い魔物とかがそう。」
「知能が低いってゴブリンとかがそうか?」
「うん。」
「そうなんだ。それじゃ森の奥の事も分かったから帰って鍛錬の続きでもするか。」
「分かった。」
そうして帰ろうとした時魔物避けの先から草の擦れる大きな音がした。
「ニノ。」
「アレク。」
俺達2人は落ち着いて持ってきていた木剣を構え、身体強化を発動させた。
俺達2人は音がした方から一切目を離さずに見ていた。
そして俺達が見ていた所から頭が上がるのが分かった。その正体は。
「ホーンラビットか。」
ホーンラビット、額に角が生えていてその自慢の角で突き刺すのが攻撃方法。だけど、目で追えるスピードであり、身体強化を使用していればダメージを受けない。
「アレクどうするの。」
剣を構えたままのニノが聞いてきた。
「こちらに来るのなら倒す。まあ、魔物避けがあるから来れないと思うが。」
話し声が聞こえたのかホーンラビットは俺たちに気付いた様だ。
ホーンラビットはこちらを見た瞬間、一目散に森の奥へと走って行った。
「逃げた。」
「逃げたな。」
俺達は身体強化を解き、構えをやめた。
「はあ、それにしても初めて魔物を見たかも。」
俺は胸に手を当てながら言った。
「そうなの。」
「ああ、俺は基本的に家で特訓してたからな。」
「そうなんだ。」
「ニノはどうなんだよ。」
俺はニノが全く動じないのを見てどうだったのか気になって聞いた。
「私は何回も見た。それと魔物も倒した。」
俺はその言葉に驚きを隠さなかった。
「えっ、ニノって魔物倒した事あるの。」
「うん。」
「まじか。」
「マジ。」
そうなのか、なんかニノに置いてかれた気分だ。
「それならニノは魔物を倒した時に何か感じた。」
「何かって?」
「ほらこう、気持ち悪いとか、可哀想とか、悲しいとか。」
「特に無い。魔物は魔物。」
俺はその言葉にこの世界と俺のいた世界は違うんだと感じてしまう。
「そう、か。」
「それがどうかしたの?」
「いや、なんでも無いんだ。それより早く帰ろうぜそれで鍛錬の続きをしよう。」
俺は気持ちを切り替える為に少し強めに言った。
それからいつもの様に鍛錬をする。
「アレク。もうそろそろで終わりの時間。」
「そうだな。」
「アレク、やっぱり変。どうしたの。」
ニノに気付かれない様にしていたんだけどな。直さないと。
「大丈夫だって。そんな心配すんな。」
「嘘。」
「ちょと疲れただけーー。」
「嘘。」
「はあ、ニノには嘘が通じないか。」
「それで、どうしたの。」
「いや、ちょっとな。森で話した魔物の話で、なんか感じたんだよ。」
「?」
「ごめん分かりにくかったな。なんて言うか魔物に感情移入したんだよ。もし俺が魔物なら死にたく無いって思ったのかなって。」
「アレク、その考えは危ない。もし実戦でそんな事を考えていたら殺される。」
「分かってるんだけどさ。」
ニノは少し真面目な雰囲気を作って言った。
「アレクは優しいから、そんな事を考える。だから、こう考えて欲しい。もしこの魔物を逃したら他の人が沢山死んでしまうと。」
そうニノに言われたがニノは俺のことを少し勘違いしているようだ。
「別に俺は優しくなんて無いよ。ただ、大事な人が無事でいればいいと思ってるから。だから知らない人とニノなら俺は迷わずニノを助けるよ。」
「…。」
「ニノ?」
俺が顔を上げるとニノが顔を背けていた。
「なら大事な人が危険な目にあうかもしれないと思えばいい。」
そうニノは早口で言った。
「そう、だな。少し気持ちが楽になったよ。それに世界最強を目指すなら魔物くらい倒せないとな。」
こうして俺達の今日が終わった。




