身体強化の可能性
ニノに身体強化を教えてから一週間がたった。身体強化を使う様になってから俺は体術では一度も負けなくなったが、剣術では一度も勝てていない。
「フッ!」
「甘い。」
そうして俺が繰り出した剣技をいとも容易く受け流し、ニノは俺に強烈な一撃を叩き込み俺は吹き飛ばされた。
「参った。それにしてもニノ、めちゃくちゃ強くなってないか。」
身体強化を教えてからニノが物凄く強く感じる様になったのだ。身体強化無しの訓練では後少しで追いつくくらいだったのに今ではろくな反撃が出来ない。
「そう?」
「なんでだ俺も身体強化を使っているのに。逆にニノの剣技に追いつかなくなったんだが。」
「多分、私の理想どうりな動きが出来ているからだと思う。」
「なるほどな、身体強化によってニノの理想に体の動きがついてきたと言う事か。」
だとしたら今まで俺が身体強化なしで戦っていたのはニノの本気じゃ無かったって事かよ。そう俺が少しへこんでいると、ニノが言った。
「これもアレクのおかげ。」
なんだろう。純粋なニノを見ているとへこんでいる事がどうでもいいと思えてくる。
「ニノ、もう一度勝負だ。」
確かに俺は、ニノより才能は無いかも知れない。それでもニノは言った。世界最強を目標とすればいいと。だったらこんな事でへこんでいる暇は無い。
「望むところ。」
そうして俺はろくな反撃も出来ずまた負けた。
「はあ、また負けた。」
「それは仕方ない、アレクよりも私の方が剣を触っている時間は長い。」
「それでもさ、勝てたのが身体強化無しの最初の1回だけってどうよ。それなのにニノは俺に体術で勝つだろう。」
「でも、身体強化を使う様になってから一度もアレクに体術で勝てなくなったのは事実。」
「それは、そうだけど。」
「それに、アレクは魔法が使える。もし使われたら私じゃ勝てない。」
ニノの言う通りこの世界では、魔法使いが剣士よりも強いと言われている。何故なら魔法を撃たれたら剣士は避けるか身体強化を高めるしか無いからだ。ただ、避ける場合は避けた先で次の魔法がくるだけでそのうち体力が無くなり負ける。
もう一つの身体強化を高めるやり方は魔法は防げるが魔力消費量が多く、そのまま魔力切れになり負ける。
だからと言って剣士が必要無いと言う訳じゃ無い。何故なら魔法使いは近づかれたらほぼ負けだからだ。
理由は二つある。
まず一つ目は敵に向けた魔法の範囲内に自分がいる事。
もしそんな状態で相手を倒すほどの魔法を撃ったら自分も巻き込まれてしまうからだ。
そして二つ目、距離が剣士の間合いなら魔法を撃つ前に斬られる。
よって魔法使いを守る為に剣士が必要なのだ。
これらが魔法使いの弱点だが、それでも強い。もし遠距離ならまず剣士に勝ち目は無いだろう。剣士が父さんみたいな規格外なら違うだろうが。
「ニノ、諦めるのはまだ早いぞ。俺はな魔法使いへの距離の詰め方を考えたんだ。」
俺は自分が魔法使いでもあるがその前に剣士でもあるからな。その対応策を考えるのは自然な事だ。
「本当?」
「ああ、さっそくだが話すぞ。それはずばり、避けないで魔法使いまで止まらずに走るだけだ。」
そう俺は言ったがニノにとても呆れた顔をされた。
「アレクはバカ?そんな事をしたら攻撃されてすぐに魔力が無くなる。」
「そう、その通り。だけどニノ、身体強化を使っていて不思議な事はないか。」
「無いと思う。」
「まあ、その反応も無理は無いか。俺が身体強化を使っている時、ふと疑問に思った事があったんだ。」
「何?」
「それは、何故身体強化で攻撃された側がより大きく魔力を削られるのかと。あっ、因みにこれは魔力を込めずに普通の身体強化状態で殴られた時のことな。」
「うん。」
「それで分かった事があった。それは面で防御して点で攻撃された事により魔力の削れ方が変わっていたんだ。それで俺はその点を防御に活かせないかと考え、俺は身体強化の一部分を強化する事に成功した。」
そう言い俺は身体強化を発動し魔力を胸の一点に多く集めた。
「ニノ、俺の胸の部分を身体強化を使って殴ってみてくれ。」
「分かった。」
そうして殴ったニノだったが。俺が予想していた事が起きずニノのパンチが跳ね返ったのだ。
「は?」
「凄い、跳ね返った。」
ニノは淡々と言って少し驚いていたが俺はそれ以上に驚いていた。
「ど、どう言う事だ?俺の予想と違うんだが。」
「違うの?」
「あ、ああ俺の予想では跳ね返らずに殴られた側は殴った側と同じ量の魔力量が失われると予想していたんだ。」
「そうなんだ。だけどこれは使える。」
そう言ったニノは目が燃えていた。多分、戦闘に活かせる事が分かり練習しようと考えているのだろう。
「確かに、これが使える事は事実か。ただなニノ、これには弱点があるんだ。」
「弱点?」
「ああ、これはな魔力を一点集中する代わりに他のところの魔力が薄くなるんだ。だからそこを攻撃されたら痛みを感じるだろう。」
「別に平気。そこを攻撃されなければいい。」
「攻撃されなければいいと言ってもな。弱点が大きすぎる。」
正直に言ってこれは攻撃がくる場所が分かれば逆にチャンスを作れるが、高速戦闘中にそんな判断出来ないと思う。それどころかもし薄い所に攻撃をくらえば痛みで動きが鈍くなるだろう。俺が無理だと思っているのがニノに伝わったのか。ニノが言った。
「なら、アレク私と勝負しよう。」
「いきなりだな。まあ、戦わないと納得しないんだろ。」
「うん。」
「分かったよ。」
こうして勝負が始まった。
それから両者10メートルくらい距離を離して構えた。
「それじゃ、始める。」
ニノがそう言い、勝負が始まった。
まずはお互い迂闊に攻めない迂闊に攻めると反撃をくらうと分かっているからだ。だけど攻めなきゃ始まらない、今回は俺が攻める事にした。
まずは、身体強化のおかげで距離を一気に詰めれるから詰め、目の前でフェイントをかける。
「流石に引っかからないか。」
俺は右に重心を寄せて右に攻撃させると思わせ、左に攻撃するフェイントをかけたのだが。ニノは即座に俺の左への攻撃に合わせて攻撃してきた。それを俺は回避してニノも俺の攻撃を回避した。
「何回もやられたら流石に学ぶ。」
「そりゃそうか。」
そう話しながらも俺達は攻撃しあっている。そこで俺はわざと攻撃をくらい隙を作った。だがニノは俺から何か感じ取ったのかすかさず追撃の大振りの攻撃をやめ、距離をとった。
「気づかれたか。」
「やっぱり、何かしてた。」
「さあ、どうだろうね!」
そう言うと同時に俺は距離を詰めてニノに殴りかかった。それをニノは攻撃がくる事が分かっていたのか躱し、隙だらけな俺を殴ろうとしていた。
「これで、終わり。」
「それはどうかな。」
そう俺は言い、空中で体を逸らし、ニノの攻撃をギリギリで躱してニノを蹴り上げた。
はずだった。
なんと、俺の蹴りはニノに当たったと思ったら跳ね返り、俺は吹き飛ばされていた。
「なっ!」
俺が驚いているとニノが言った。
「私はさっきの隙がわざとだと分かってた。」
「なるほど、はめたのは俺じゃなくてニノだったと言う事か。」
俺は、完璧に騙されていた。言い訳するつもりじゃ無いが俺は無意識のうちに油断していたのだろう。
「私の勝ち。」
「まあ、確かにまともな一発貰ったからな。」
跳ね返りでも一発は一発、それどころかそのまま追撃を貰っていたら避けきれなかっただろう。
「アレク、これは使える。」
「ああ、そうだな使えるかどうかの話しだったな。まあ、相手の攻撃を誘導できるならより確実に使えて攻撃にも転じる事ができるからな。それに跳ね返ったことからもしかしたら魔法も跳ね返るかもな。」
「確かに。」
「確証はないけど、もし魔法を跳ね返せたら剣士の方が強いことになるかもな。」
「これが使えたら魔法使いとも戦える。」
「まあ、世界最強になるなら魔法使いも倒せないとな。」
「その通り、だから魔法を使うアレクを倒す。」
「俺が手加減できるくらい魔法が使える様になったらな。それに俺はニノに剣でも勝つつもりだからな。」
「それは望むところ。」
「それじゃ、訓練しようぜ。」
こうして俺達の今日の訓練は終わった。




