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3月8日から11日

7日目:2020年3月8日(日)

全国の感染者数 35人

十海県の感染者数 0人


 朝からひどい雨。時間延長してネカフェに籠る。


 彼女に聞いた住所の最後に「狩野方」とつけたものを、送り先として人事の中村さんにメールした。中村さんから返信。了解。会社で書類に転記したのら、メールは削除する。個人情報だから。生真面目な中村さんらしい。あの会社でよく続いていると思う。

 来週、たぶん前半に会社から書類が届くと思うので、よろしく、と彼女にLINEを送った。

「了解!」のスタンプ。

 

 スマホで郵便局の転送届をして、とりあえず今日のところはこれで一安心。

 明日にも市役所に転居届を出しに行こう。



8日目:2020年3月9日(月)

全国の感染者数 27人

十海県の感染者数 0人


 昨日とうって変わって朝から晴れ。暖かい南風。


 とりあえず手続きが必要なのは、市役所で転居届と国民健康保険と国民年金。警察署で運転免許の住所書き換え。あとスマホと銀行とクレカの住所変更をやっておけば、それ以外はその都度でなんとかなるだろう。


 駅からまっすぐ南に3分ほど行った市役所で3つの手続きをしていると、午前中一杯かかってしまった。ショッピングモールのフードコートで昼食をすませると、ネカフェからさらに先にある警察署へ。免許の手続きを終えると、まだ午後の早い時間。なんかやたらと疲れた。貿易関連の仕事をしていたから、お役所の手続きは慣れているほうだけれど、自分の「一身上の」こととなるとどうも勝手が違う。


 スマホとクレカはWebで手続き。銀行はWebだとかえってややこしそうなので、明日窓口に行くことにする。


 プロ野球開幕延期。興味ないけど。



9日目:2020年3月10日(火)

全国の感染者数 60人

十海県の感染者数 1人


 大雨の中、朝一で銀行へ。やたらと時間がかかった。マネロンや特殊詐欺のことがあって、銀行の口座管理も厳重になっているのだろうが、ただの住所変更なんですけど。


 昼前に彼女からメッセージ。

「会社からの郵便、届いたよ!」

 ありがとう。受け取りに行くので都合を教えてほしい。

「今日はこのあと予定が入ってる。明日でもいい?」

 全然問題ないよ。

「じゃあ、明日のお昼。場所はまかせるよ」

 商店街のハンバーガーショップの「JUJU」は知ってる?

「知ってる知ってる」

 そこで12時に。

「合点承知!」のスタンプ。


 十海とおみ県で2人目の感染者が確認されたらしい。マスクの転売を政府が15日から規制する。手持ちのストックも心許なくなってきた。とりあえず交換は2日に一度にして、明日からドラッグストア巡りをしよう。



10日目:2020年3月11日(水)

全国の感染者数 52人

十海県の感染者数 0人


 2、3日晴れが続くらしい。風は強い。


 午前中は駅近辺のドラッグストア巡り。「マスク巡礼」というフレーズが浮かんできた。商店街を歩いていると「閉店します」の貼り紙がちらほら。コロナの影響だろうか。平日の午前中にしても歩いている人が少ない。


 5つめの店で、7枚入りのふつうサイズのパッケージが、残り一つだけ陳列されているのを見つけた。値段は感覚的に5倍以上。背に腹は代えられないので手にしてレジへと向かう。支払いをすませて外へ出ようとすると、さっき陳列されていたあたりに2人。スッカラカンのマスク売り場でため息をついているようだった。巡礼初日に7枚とはいえゲットできたのは、相当ラッキーなのかもしれない。


 少しブラブラして12時5分前に「JUJU」に入ると、彼女はすでに着いていた。


 カウンターで二人ともクラシックバーガーのセットを注文する。いろいろとお世話になるから、と彼女の分もボクが払い、店内奥の席に着く。

 今日の彼女は、少し派手めのコーディネート。コートもセーターもロングのスカートもブーツも、たぶんブランド物なんだろうけれど、ファッションに疎いボクにはさっぱりわからない。

「今日は夕方からお仕事なんだよ」

 どんな仕事なんだろう。お化粧も心持ち濃いような気がする。

 注文したセットが運ばれてくる。

「いやあー。相変わらずボリュームたっぷりだねえ」

 大丈夫?

「うん。このために朝ご飯抜いてきたから」


 ポテトの最後少しだけ、彼女が辛そうだったので、ボクが代わりに片づける。二人合わせて「完食」。

 手を洗いに立って帰ってくると、彼女は、肩掛けのバッグから、折り目がつかないようにふわっと丸めた定形外の郵便物を取り出した。

「はい。これだよね」

 封筒に印刷されている会社名を確認して受け取る。

 うん。これ。助かった。本当にありがとう。

「住民票は移したの?」

 うん。一昨日に。

「そうか。じゃあキミは、わたしの『バーチャル同居人』だね」と言って彼女はクククと笑った。

 なるほど、そうなるね。


 1時間ほどして店を出る。二人ともマスクを着ける。

「わたしは十海で夕方から仕事だから、これから電車で行って、ショッピングでもしながら時間を潰そうと思う」

 ボクはさっそくハローワークへ行くよ。

「お役に立ててよかった。また、連絡するね」

 それじゃあ、と彼女の後姿を見送る。


 ハローワークの手続きはスムーズに終わった。書類一式を貰って、拍子抜け気味にカウンターを後にした。支給は100日くらい経ってから。給付制限期間については知っていたけれど、受給説明会のことは知らなかった。いくら貰えるかは一週間後のその時にならないとわからない。


 夜はコインランドリーへ。元は銭湯が経営していたのだろうか。敷地の隣に煙突が立っている。


 春のセンバツが中止。これは可哀そうに思う。


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