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4月20日から22日

50日目:2020年4月20日(月)

全国の感染者数 346人

十海県の感染者数  0人


 雨音で目覚める。結構しっかりと降っているようだ。窓を少し開けると、昨日の昼間の暖気に慣れた体には冷やりと滲みる湿った空気。すぐに窓を閉める。


 今日は「紳士」の日。会社の毎週月曜日の会議がかなり減ったらしく、昼食から一緒にするらしい。8時半頃起きてきて、コーヒーを淹れて飲むと、シャワールームへ。いつも通り身支度して、10時半頃完了。残っていたコーヒーをレンジで温め直して口にする。


 リングが一つ増えて、ネックレスをするんだ。

「どちらも紳士から貰ったお誕生プレゼント。彼と会うとき以外はしない」

 ハートのペンダントと、ブランド名が刻印されたらしきリング。どちらも、ボクでも知っている超有名ブランド。

「ペンダントは今年のお誕生日に、リングは去年のお誕生日に買ってもらった」

 さぞかし高かったんだろうね。

「そうでもないの。わたしからお願いしたんだ。『お小遣い2回分以内のものにして欲しい』って」

 ということは...

「調べてみたら確かに10万円以内だった」


 普段は中指のリングだけだね。

「うん。これは植田さんのお店で自分で買った。1万円くらいだったかな。メイド・イン・アマウタ。刻印されているのは、縁起のいい亀甲模様なんだって」

 なんかもっとたくさん、アクセサリーとか持っていそうな気がした。

「他にリングが4つとネックレスが一つあるよ。全部頂きもので、たまに気が向いたら、することがある」

 イヤリングとかブレスレットとか髪飾りは?

「仕事の関係で借りて付けたことはあるけれど、自分ではしない。イヤリングはなんか危なっかしい感じがして。耳たぶに穴開けるのに抵抗もある。ブレスレットは窮屈な感じ。髪飾りは、たまにヘアバンドをするくらいかな」

 マニキュアもしないんだね。

「どうしたの? 今日は随分、おしゃれ系で突っ込んでくるね」と言って彼女はクククと笑う。

「まあ、まだ時間あるからいいけど」

 いや、キミというヒトがどういう成分でできているか、気になって...

「見ての通りだよ。逃げも隠れもいたしません、ってちょっと変か...ちなみにマニキュアは、やはり仕事の関係でやってたこともあるけれど、最近はやってない。薄く色のついた、補強コートだけを塗っている」


 11時少し前、普段のブランドもののバッグより一回り大きいトートバッグを肩にかけて、彼女は出かけた。雨はほとんど上がっていた。



51日目:2020年4月21日(火)

全国の感染者数 389人

十海県の感染者数  0人


 一人で迎える朝は、起き上がるのがどうしても遅めになる。ましてやチェックアウトを気にして目覚めるネカフェと、今は違う。


 インスタントコーヒーを飲んでいると彼女からLINE。「今日はお昼まで一緒に過ごす」とのこと。


 ハムエッグとトーストの朝食、カップ麺の昼食以外は、ボケっとテレビを見て過ごす。

 3食分の食器とフライパンを洗っていると、彼女が戻ってきた。2時を過ぎていた。洗い物が終わってしばらくした頃、アクセサリを外して部屋着に着替えた彼女が、買ってきたレジ袋の中身を冷蔵庫に入れると、ダイニングのチェアーに腰を下ろした。 


 ボクの方をみて言う。

「ごめんね、遅くなって。ちゃんと食べてた?」

 別に謝らなくても...毎食食べてたよ。

「ならいいけど」

 しかし、ほとんど24時間一緒だったんだよね。

「うん。それだけじゃなくて...」

 何回?

「2回。寝る前と、朝起きてすぐと」

 ということは、やはり...

「そう。しばらく会わないことにした」


 やっぱり、コロナ?

「うん。万が一のことを考えてね。わたしはともかく、彼は立場上、感染ということになったら報道されてもおかしくないから。そうなると、とても面倒になる」

 いつまで?

「とりあえず、緊急事態宣言が終わるまでは会わない。その後どうするかは、改めて相談して決める」

 そうか。キミの生活にも、とんでもない影響が出てきてるんだね。

「帰り際に20万円くれた。いつもの分だけにしようとしたら『金は多すぎると手に余るけれど、これくらいならあって困ることはない。取っておきなさい』と言ってくれたので、いただくことにした」

 4回分だね。

「うん。しかも、いつ貰えるかわからない国の『お手当』の2倍だよ」


「それからこれ」と言うと、彼女はトートバッグから箱を2つ取り出した。

 ふつうサイズのマスクと小さめサイズのマスク、50枚入り一箱ずつ。

「マスクでも、国よりはるかに手厚くしてもらえているね。キミの分まで考えてくれている」

 仮に買えたとしても、今だと1箱4000円くらいが相場らしい。こんなにしていただいて、なんか申し訳ないような気もする。


「そうそう。雑貨店の植田さんから、メールがきてた」

 どうだった?

「しばらく休業することにしたって。再開するのは緊急事態宣言の具合と、人出の回復の状況を見ながら決めるらしい」

 どこも同じようなんだね。

「植田さんの場合、飲食ではないから、協力金が出るかどうかはわからないんだって」

 休業要請の対象の業種じゃないってことか。

「植田さんと電話番号を教え合った。今度電話でお話ししてみようと思う」


「しばらく横になるね。6時になっても寝ていたら起こして」と言うと、彼女はベッドに身を横たえた。


 例によって、ボクが起こさずとも彼女は指定の時間に起きてきた。

 コーヒーを淹れて、飲み終わると立ち上がって言った。

「今日はカレー用の牛肉買ってきたから、カレーを作って差し上げます」

 それは嬉しい。

「お利口にしていたご褒美に、これくらいはしてあげなくちゃね」

 クククと笑うと、彼女は珍しくエプロンを身に纏った。



52日目:2020年4月22日(水)

全国の感染者数 446人

十海県の感染者数  2人


 バイトに出かけた彼女がいない部屋で目覚めるのは、これで何回目だろう。

 窓を開けると、雲間からときどき陽が射す。


 彼女はいつも通り、11時半頃に戻ってきた。昨日の残りのカレーを温め直してお昼ご飯。

 コンビニは通常営業?

「今のところは。けれど深夜の人通りがほとんど無くなったので、営業時間短縮を考えているらしい。シフトの調整がつき次第、夜11時から朝5時まで閉めるんだって」

 キミのシフトに影響は?

「少し減るかもしれない」


 お昼が終わると、彼女は仮眠をとる。夜の「仕事」が無くなったので、起こす時間の指定はなくなった。それでも彼女は3時には起きてきた。


 コーヒーを淹れて飲む。

「夜まで時間ができちゃった」

 あくびを一つ飲む込む仕草がなんともチャーミング。

「インスタも飽きたし。そうだ、久しぶりにポケモンしよう」

「そうしよう」「そうしよう」と歌いながら、彼女は本棚の中段に置いてあったゲーム機を手にして電源プラグにつないだ。

 ポケモンなら任天堂だね。SWITCH?

「3DSだよ。SWITCHはハードが複雑な感じがして、買えないでいるの」

 ベッドの端に腰かけて、起動画面を見つめる真剣な面持ち。ちゃぶ台の自分用のクッションの上にあぐらをかいて、彼女を見つめるボク。

なんでこの人は、どんな表情も美しく、絵になるのだろう。


 しばらくディスプレイに集中していた視線をボクのほうへ向けて、彼女が口を開く。

「キミはポケモンしないの? ソフトなくても、スマホでポケGOとかできるよね」

 そもそもゲームとは、ほとんど縁のない人生。

 小学生の頃友だちの家で、少しだけポケモンをやらせてもらったことがある。たしかゲームボーイアドバンスだったかな。

「わたしは小学校に入った頃から妹とカードゲーム。ときどき加わる父親が一番はしゃいでいた。小学6年生のときに、DSを妹と同時に買ってもらった。ソフトは妹が『ダイアモンド』で、わたしが『パール』。父親のいない初めてのクリスマスの、母親からのプレゼントだった」

 遠くのほうへ視線をやる彼女。

 いろんな思い出がポケモンに引っ付いているんだ。

「それから『ホワイト』、ハードが3DSになって、今も持ってる『X』。そして一人で暮らすようになって初めて買ったのが、今やってる『ムーン』」


 しばらくまたプレイに集中する彼女。スマホを取り出して見るふりをしながら、ボクは、ゲーム機を一心に見つめる彼女の顔を、一心に見つめていた。

 プレイが一区切りついたのか、彼女が顔を上げてボクに視線を合わせた。

「ほとんどやったことのないキミでも、ピカチュウはさすがに知ってるよね」

 うん。知ってる。

「他には?」

 覚えているのでは、ヒトカゲというのが可愛かった。そうそう、見た目もぱっとしなくて、むっちゃ弱っちいコイキングというのが印象に残っている。

「ルミ女の友だちに、コイキングのコアなファンがいたんだよ。進化すると、ギャラドスって見た目もカッコいい強力なポケモンになるんだけれど、『コイキング愛』が強くて、わざと進化させないでコイキングのまま持っていた」

 キミの好きなポケモンは?

「月並みだけどイーブイかな」

 どんなの?

 しばらく3DSを操作してから、ディスプレイをボクのほうに向ける。

「この子だよ」

 彼女のほうに少し近づいて見る。

 たしかに可愛いね。


「キミのところは厳しいおうちだったんだね」

 兄貴とボクには、ゲームなんてとんでもない、という方針だった。けれど妹だけは特別で、DSを買ってもらっていた。

「そうやって男女で差をつけるのって、あまり好きじゃないな」

 妹もひどいもんで、兄貴が、社会勉強だ、と言うとホイホイと貸すくせに、ボクが、社会勉強させて、と言うと貸してくれないで何て言ったと思う?

「なんて?」

 社会勉強の前に、学校の勉強やったら?

「キミには悪いけど、それ、ウケる」

 そう言って彼女はクククと笑った。


 換気のために、夕方に窓を開ける。ここ数日の暖かさに慣れた体が、入り込んでくる冷やりとした空気に身震いする。明日の朝に向けて、気温が一段と下がるらしい。


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