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8_精霊に愛された子(2)

フレスベルは危機だった。

「お嬢ちゃん、魔法学校の制服ってこたあ、ご貴族さまだよなあ」

「命がおしけら、じっとしてな」

裏通りに連れ込まれ、口をふさがれ、

男の持っているナイフが光る。

(な、な、なんでこんなことに…)

すぐそこにある恐怖。



ー--昨日の夜

「フレスベル!明日は、テスト終わりで休みよ!」

ファラが嬉しそうに言う。

「わたしは、滞在時間は短いけれど、実家に帰るわね

顔を見せてあげなきゃ。」

フレスベルは

(帰ることができる実家がある人もいるんだ。)

とうらやましかった。

ファラがフレスベルの表情がかげったことに気づき、

「そうだわ!学校の外の街で買わなくてもいいから、ウィンドウショッピングなんてしたらどう?」

「ウィンドウショッピング…?」

ファラはフレスベルがあまりお小遣いをもらえていないことは知っていた。

「そうよ、フレスベルの興味のあるものがあるかもしれないわ!」

(興味のあるもの…)

(そういえば)

ハッとするフレスベルだった。

「わたし、ずっとほしいと思っている絵本があったわ」

「絵本!素敵じゃない。大きい本屋さんもあったはずよ」

こころが踊る。そして、フレスベルは聞いていなかったのだ。

「ごろつきみたいな人も多いから、あなたみたいな貴人は決して、大通りから離れてはだめ。

本当だったら、複数人で行った方が…」



フレスベルはさっそく道に迷い、ごろつきに捕まってしまったのだ。

ナイフが近づいてくる。

(だれか…)

声も上げられない。

絶対に使いたくない手を思いついてしまった。

(魔法でっ…炎弾で、あの時みたいにするしかないの…?)

だれか…



(精霊様…)



「ぼくの連れなんだ。手を放してくれる?」

(誰…?)

フレスベルは目線しか動かせない。

金髪の肩にかかるかくらいの髪の長さの青年がいるらしいことはわかる。

「ああん?」

ごろつきに対して青年は何も持っていないようだった。

「きれいな兄ちゃんよお、お前がこの嬢ちゃんから巻き上げられる分くれるのかあ?」


「もちろん」

にっこりと笑う。

「これをあげるよ。」

大きな、美しい石。

フレスベルが持っているのに似ている。


「その前に、連れを離してくれるかな。」

チッと舌打ちしてごろつきはフレスベルを青年の方におしだす。

つまずきそうになる。

「きゃ…」

「こわかったね」

青年と目が合う。

赤い、宝石みたいな…赤…

「おい、さっさとよこしな」

「ああ、悪かったね。」

「じゃあっね!」

青年は石を裏通りの奥に向かって投げた。

「てめえ!」

といいながらごろつきは石を追って走り去っていった。


(足が動かない)

「ぼくたちもいかなきゃね」

青年はかがんで、フレスベルを抱きかかえた。

(こ、これは…)

(お姫様抱っこというものですか…!?)

青年は「はっはっは」といいだしそうな笑顔で裏通りを走り抜けた。

表通りに出た。



「あっあの」

「礼には及ばないよ」

「じゃなくて」

フレスベルはもじもじという。

「おろしてください…」

「ああ、悪かったね。フレスベルさん。」

フレスベルを青年は下ろす。


「えっ、どうして、わたしの名前を?」

「あー、ぼくも、学校の生徒なのさ。

うちの学校で君を知らない人はいない」

「…」

(そうなんだ…はずかしい)

(じゃなくて!)

「ありがとうございました。いったい、どうお礼すればいいか…。あの宝石もわたしのせいで…」

(最近、人にもらいすぎだもの。)

「うーん」

青年は、考え、にこりと笑う。

「ぼくと一日、デートしてよ。それで、ちゃらだ。

(でっ)

「デートですか…!?」

なにをすればいいかわからない。

デートなんて知らない人とするものなのか…と思ったとき。

本当に知らないのか?という疑問がよぎった。

似すぎている。

あの、わたしにネックレスをくれた少年に。

(あ、あの…私とどこかで会ったことありませんか)

なんていったらナンパにナンパを返しているようなものだ。

でも、青年が彼と一緒だとしたら、もうわかっているはずだ。

それでも、もしかしたら、という思いで胸がどきどきとする。



「リラックスするために、お茶でも飲まないか?」


フレスベルが百面相しているうちに青年はデートコースを決めてしまったようだ。

「お、おかねが…」

フレスベルは本当に恥ずかしかった。

ごろつきに捕まったのにもかかわらず、外食するほどの手持ちはなかったのだ。

(お洋服を剥がれてたかも…)

ナイフのヒヤリとした輝きを思い出し、ゾッとする。

すると、視界が覆われた。

青年がフレスベルを柔らかく抱きしめたのだ。



「怖かったね」


(やっぱり)

(あなたは)


(彼じゃないの…?)


(って!)

「ここ、人がとおりますから…」

「ああ、ごめん。」

フレスベルから離れる。



青年は「だきしめてもよかったんだ」と小声で嬉しそうに言ったのはフレスベルには聞こえなかった。


「お金は気にしないで。

と言いたいところだけど、

フレスベルさんは気にするよね。」

青年は考え込む。

「少し待っていて。絶対に動かないこと」

青年は何かのお店に入った。

戻ってきた。


「はい」

マグカップだ。

「あのベンチに座ろう」

二人はベンチに並んで腰かけた。

「はい。」

青年がマグカップを差し出した。

(すごい、いい香りのお茶が入ってる…!)

「このマグカップは僕のものだし、

このお茶は僕が今、すべて魔法で淹れたものだ。」

(あのクォーツだって味やにおいはつけられないのに…!)

ふーふーと、冷ましてから飲む。

「おいしい…!」

「よかった。植物から作るお茶葉くらいなら再現できるんだ。」

稀代の魔法使いと言われている自分より、高度なことをしているのではないか?とフレスベルはおもわずにはいられなかった。

「あっあの、わたしより…」

「じゃあ、次行こうか。マグカップは元の箱に片づけるよ」

青年はフレスベルの言葉を最後まで聞かなかった。



「お腹がペコペコになる前にいろんなところ行かなきゃ。」


いたずらに青年は笑った。

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