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3_教室なんて無理

フレスベルは嬉しかった。

あんなに、心配していたのに、ぐっすり眠れたのだ。

相部屋のファラよりはやく起きたが、布団があったかかったのでのんびりしていた。

こんな気持ちになれたのも嬉しかった。

(ファラを起こすのが怖くて動けないってきっと思うはずだもの)

すると、ファラの方からごそ、ごそ、ぎし、ぎし、と音がする。

ファラも起きたのだ。

フレスベルも起き上がる。

「フレスベルさん、おはよう」

ファラはあくびを手で隠しながら言う。

「あら、はしたなかったわ、ごめんなさい」

「っおはよう…ございます…」

まただ。

きっとここにきている令息令嬢はこんなことで、嬉しくなったりしないのだ。

おはようと、言われるだけで、もう、こんな喜びがあるのかと、目の奥が熱くなるなんて。

「また、おもしろいことを考えているの?

はやく、身支度をしましょう。

今日はクラスメイトとの顔合わせのはずよ」

(クラス…?)

フレスベルは、支度品を整えてもらい、学校行きの馬車を手配されただけなのだ。

「わからないって顔ね。

クラスの張り出しは掲示板にあったわ。

準備が整ったら、見に行きましょう。」

ファラはどこか戸惑いか何かを感じるものいいがあったが、何も聞いてこなかった。





フレスベルは、着こなしに慣れない制服に着替え、

どうせまた毛虫になってしまうだろう、と思いながら髪をとかし、

朝ごはんを食堂で食べ、

ファラに掲示板に案内してもらった。

「うれしい!私とフレスベルさん、同じクラスよ」

ファラは自分の頬のあたりを温かくして、体を軽くする言葉ばかり言ってくれるので、

フレスベルは毎回どうすればいいのか分からなくなるのであった。





(どうしよう…)

「ファラ・バーネングです。趣味はお洋服を選んだり、髪やお肌のお手入れすることです。よろしくお願いいたします。」

(どんどん、順番が近づいてきてる)

(自己紹介なんて、絶対無理)

(台本があってもできない)

「…レスベルさん。」

(あんなにやさしいファラにすら上手に話せないのに)

「フレスベルさん?」

「はっい…!」

教師に呼ばれて気づいた。

自分の順番はとうに来ていたようだ。

逃げ出したくなる形で順番が回ってきてしまった。

確実に悪目立ちしている。

「フレスベル・フォーリッツです…。よろしくお願いします…。」

教師はそれだけ?という顔をしていたが、フレスベルはすぐに座った。





フレスベルは恥ずかしかった。

みんなのように自己紹介もできない。

美しいファラがとなりにいるのに、見た目は毛虫。

今は、休み時間で、おそらく、みな、クラスメイトの雰囲気を見て友達作りをしているのだろう。(想像でしかないが)

ファラに話しかけたい人も、ファラが話しかけたい人もいるだろう。

それでも、ファラは自分に話しかけてくれる。

「フレスベルさん、気になる授業はある?」

「あまり、ないです…」

「そうなのね」

こそこそとファラの口が耳に近づいてきて

「フレスベルさん、婚約者はいらっしゃるの?」

「えっ」

「将来を誓い合っている殿方よ」

フレスベルは硬直した。

(また、会いに来るよ)

何度も思い出すあの声がよぎる

あれは誓いではない。

「い、ません…」

「ファラさん、とフレスベルさん。混ぜていただいて、よろしくて?」

クラスの女生徒が3名ほど近くに立っている。

「ええ」

ファラはとても美しく微笑む。

そのあとの話は全く頭に入ってこなかったが

ファラのような美しさが自分にあれば、と、

初めて物語の人物以外にあこがれたフレスベルだった。





「今日は疲れた?フレスベルさん」

フレスベルは直球のたのしかったとかうれしかったかとかじゃない質問にいつも答えられない。

「疲れたわよね」

「ファラさんは…疲れましたか?」

ファラは目をぱちくりさせた。

「嬉しいわ!疲れたことなんてどうでもよくなっちゃったわ。

フレスベルさんが私に質問してくれたわ!」

フレスベルはファラが好きだ。

とても話し上手だ。

相手に興味をもっている。

自分と比べて分かったが、とても美しい。

比べてなくても美しかったのだが。

「ほかに私に何か質問ある?なんでもして!」

「えっ」

(なんでも…)

(聞いてしまおうか)

「どうして、そんなに、きれいなんですか」

ファラは目をぱちくりとさせ、頬を赤らめ、恥じらう。

「わたしのこと、そんな風に見てくれてたの?

うれしいわ」

「そうね、わたし、お母さまやメイドに身なりを整えてもらう時、きれいね、かわいいねって言われていたの。

それで自分の髪や肌にも、きれいねって思いながら手入れをしているわ!」

フレスベルは、自分とスタート地点が違いすぎて悲しくなったり、うらやましくなった。

そして、最後には、

(わたしにもできるかしら)

と思った。

よほど、百面相をしていたらしい。

「フレスベルさん、おしゃれに興味はおあり?」

ファラの目は輝いている。

ごそごそと荷物から何かを取り出しだす。

「わたし、髪を整えることやメイクがとっても得意なの」

ハサミが輝く。

「フレスベルさんが自分でも整えやすくしましょう!どう?」

フレスベルは、ファラのようになれるかもしれないと思うといてもたってもいられなかった。

しかし、どう伝えればいいかわからなかった。

ファラはクスリと笑う。

「フレスベルさんの顔で伝わったわ。おしゃれしましょう?」




フレスベルは鏡を何度も見た。

そこに毛虫の面影はない。

でも気になることがあった。

フレスベルはまゆの形が短くて太くとても個性的なのだ。

毛虫だった理由の半分くらいがそれを隠すためなのだ。

(恥ずかしい)

しかし、なにも言えなかった。

「フレスベルさん、とってもかわいいわ!

眉毛の形も素敵!」

かわいいわ

かわいいわ

かわいいわ

かわいいわ



かわいい

フレスベルはまた、泣きそうになるのをこらえてうつむいた。

「フレスベルさん、湯あみのあと、頭皮が乾燥するのは良くないから、できるだけ、水気は自然乾燥以外でとってね。」

「あっりがとうございます」

(自然乾燥以外とは何だろう)

ファラは少し、力が入った声で話す。

「フレスベルさん、わたし、あなたのこともっと知りたいわ。」

フレスベルは胸が高鳴り。ファラの方を見た。

「だから、呼び方だけ変えてもいいかしら?

フレスベルと呼んでも?」

フレスベルは涙がやっぱり出てしまった。

「はい…」

こんなに優しく名前を呼ばれてもいいのだろうか。

「また、おもしろいことを考えているのね。

せっかくかわいくしたのだから笑顔も見たいわ」

「ごめんなさい…」

「そうね、わたしのことをファラと呼ぶなら考えるわ」

(どうして)

(ファラはこんなに)

(わたしが嬉しくなることをいえるのだろう)

「はい、ファラ」





その日、フレスベルは、決してサラサラではない髪に

(きれい…ではないから)

(きれいになれ)

と願いながら、ファラにもらった櫛を通した。




朝、ファラより早く目が覚めて、櫛をまた通した。

ファラが起きてきて、フレスベルを見て言った。

「フレスベルの髪本当にきれいになったわね。

あなたの手を見たときも魔法がかかったみたいだと思ったの」

そして、もう一歩近づいてくる。

「本当に魔法を使っているんじゃなくて?」

使い方など分からない。

兄弟に引き立て役に魔法の講義の実践に参加させられたが、自分が魔法を使ったら何が起こるかわからないのに使えるはずもない。

(約束を破ってしまうもの)

「使ってない…です」

「そうなの。

まあ、そうよね。

自分の身支度に精霊様を呼び出すなんて傲慢だもの。

でも、魔法のかかった道具があればできるなんていう絵本も見たことあるわね」

何を言っているかわからなかったが、自分が悪いことをしているわけではないと分かり安心したフレスベルだった。





フレスベルは嫌だった。

教室でものすごく視線を感じるのだ。

怖かった。

視線を感じるときなど、兄弟がどうやって自分をいじめるかニヤニヤしているときくらいだったのだ。

クラスの女生徒が近づいてくる。

「もしかして…」

「フレスベルさん!?」

「はい…」

ファラがすごく嬉しそうだ

「かわいくなったでしょ!私とやったのよ。」

クラスメイトははしゃぐ

「ええ、とても。」

「ファラさんの腕も素晴らしいですのね。

私もいつかお願いしようかしら」

「ええ、ぜひ」

フレスベルはファラを他の令嬢の理髪に取られるのはおもしろくなった。

しかし、令嬢たちが理髪を依頼しようというのが、社交辞令だということに気づけなかった。

また、自分が校内屈指の名家の娘で、

ファラは意図せずその娘の身なりを整えて信頼を勝ち取っているということにも

気づかなかった。



挿絵(By みてみん)

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