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03 朝霧月那と月並み部

「ここに来たということは君が次の相談者なのかな?」


 そう言う彼女は俺の目的があってこの場にいると思っているのだろう。


 だが、俺は特に理由があってここに来た訳ではない。ただ、なぜか妙にこの教室へと招かれた気がしたのだ。 

 だから中に人がいて、さらにこんなことを問いかけられるなんて予期していなかった。


「え? いや、別に俺は……」


 動揺しているのが声色に表れてしまった。恥ずかしい。初対面の相手かつ同じ学校の女の子にダサいところを見られたという事実。悔やんでも、悔やみきれないな。


「さあ、君の悩みを私に話してごらん?」


 そう俺に問う彼女。

 悩みを話せ? 初対面の人にそんなこと話せるわけがないだろう。 

 そもそも俺に悩みなんて__まあ、ないとは言えないが。けどそれは軽々と人に話せるものではない。 

 俺の人生に関わる問題なんだ。ここは悩みはないとはっきり断っておこう。


「今の俺には特に悩みなんてないが……てか、初対面の相手にそんなこと話すわけないだろ?」

「いや、ここにきた時点で君にはあるよ絶対。」


 真剣な表情でそう断定する彼女。なんでそんなことが言い切れるのだろうか。さっぱり分からない。


 そして彼女は席から立ち上がって、破顔一笑(はがんいっしょう)する。


「朝霧月那。二年生。はい、次は君の番だよ」

「ん? え?」

「自己紹介だよ。初対面の人には話せないって君が言ったんじゃないか。だから、親交を深めるためにこうしているんだよ。分からないの?」


 ちょっと一言余計だが、まあ良いだろう。


「俺は椿奏。俺も同じ二年だ」

「え? それだけなの?」

「お前もそれだけだっただろ。お互い様だ」


 自己紹介に何を求めているのだろうか。求めることがあるならそれ相応の対価を支払うべきだ。一方的な搾取(さくしゅ)は良くない。コレ、絶対。


「じゃあその『お前』って呼び方やめてよ」


 確かにそれは正論だ。女性にしかも初対面の人を『お前』呼ばわりするやつは俺自身も好きではない。

 でも、琴葉以外の女子とほとんど喋らない俺にとっては女子を名前で呼ぶのは難しすぎるっ‼︎ どうすれば__


「わ、わかった。それじゃあ……朝霧さん?」

「んー親交を深めるためなんだからそれはちょっと他人行儀すぎないかな?」


 そ、そんなものなのか。てかそもそもなんで親交を深めなければならないのだろうか。


「だ、だったら、月那さん?」

「うーん、もう一声!」

「る、月那ちゃん?」

「それはちょっと気持ち悪いかな」


 なんなんだよ。俺はこんなに頑張ってるというのに。


「じゃあ、月……那?」

「うん。それがいいかな。なら私は奏って呼ぶね」


 おお、かなり胸にくるな。やっぱり美少女からの名前呼びは破壊力があるな。やばい、結構嬉しいかも。


「名前で呼び合うようになったからって……奏は悩みを話そうとはならないよね?」

「まあ、それだけで話そうとは思わないな」

「やっぱり悩みあるんだ」

「あ」


 やってしまった。これでもう言い逃れができなくなってしまった。何やってんだ、俺。


「まあでも、悩みがあるからと言っても話してもらわないことには意味ないよね」

「そう……だな」

「だったらもっと親交を深めよう。奏、月並み部に入ってよ」

「え?」

「その方が手っ取り早いでしょ?」


 この際、仲を深めるのはいい。女子と関わりを持つことで今の自分から変われるかもしれないからな。 

 だが、大きな問題がある。


「一つ聞きたいんだが、いいか?」

「ん? なにかな」

「月並み部っていうのは正式な部活動なのか? 学校からは認められているのか? 部活動の承認には最低五人以上必要のはずだが……」


 俺は怪しげに月那の方を見る。


「うん、月並み部は正式な部活動ではないからね」

「は?」


 こいつはそんな得体の知れない活動に俺を参加させようとしたのか?


「じゃあ、なんなんだよ?」

「私が勝手にこの教室を使って、勝手に相談室を開いているだけだよ」

「そんなんで大丈夫なのか? 活動として成立しているのか?」


 どんなに人望のある人だろうが、誰にも知られていないのにお悩み相談なるものをするのは無理があるだろ。


「成り立っているよ。私が何か行動を起こさなくても、奏みたいにみんな相談に来るからね」


 俺は最初から疑問に思っていた。

 なぜ俺がこの教室に入ってきたときから悩みを話せとばかり言ってくるのか。


 まあ、ここを相談室にしているようだし、悩みについて聞いてくるのはわかる。

 でも、ここに来る人が皆悩みを持っていると言い切れるのは流石におかしい。


「なんで悩みがある奴だけがここにくるとわかるんだ?」

「それはね……」


 月那の真面目な表情に息を呑む。


「そういう能力があるからかな」 

「へ?」


 俺の口からそんな素頓狂(すっとんきょう)な声が漏れた。


 俺の抱えているこの病気も非現実的だと思っていたが、まさか他にも常軌を逸したものを持っている人がいるなんて……。思ってもみなかったな……。


「なんか真剣な顔してるけど……ただの冗談だよ?」

「冗談かよっ‼︎」


 まあ、そうだよな。他にも俺みたいなことになっている人がいるなんてな。あるはずない。もし、他にもいるとしたら……いや、駄目だ。そんなことは考えるな。


「ご、ごめん。まさか奏の深いところに触れることだとは思ってなくて……」

「別にもういいよ。で本当の理由はなんなんだ?」


 でも、非現実的なことでもないとしたら全く見当もつかないぞ。


「んー、それはまだ秘密かな」

「なんだそりゃ」

「ふふっ。ごめんね」


 そんなことを言い、爽やかな笑みを浮かべる月那。


 やはり美人だ。だからといってやっていることは見た目からは想像もできないことだけどな。


「あ、そうだ。奏、妹さんいるよね」

「は? なんで知ってんだよ」

「私にはそういう能力が__」

「それはもういい」

 

 月那の言葉を遮るように言う。さっきのネタがそんなにハマったのだろうか。ちょっとめんどくさい。


「それで、妹さんいるよね?」

「ああ、いるが。それがどうした」

「明日、ここに来るついでに連れて来てくれないかな?」


 なぜ琴葉を連れてくる必要があるのだろうか。全くの無関係者だというのに。


「なんで連れてくる必要がある」

「あーそれはあれだよ。かくかくしかじか的な?」

「略すな」

「ごめん! 詳しいことは言えないけどお願い!」

「あーわかったよ。連れてくればいいんだろ。ただし、あいつが了承したらな」

「ありがとう!」


 明日ここに琴葉も連れてこなくちゃならないのか。なぜだろう。いつもはめんどくさいと感じる場面なのに、今は不思議とそうは思わない。


「じゃあ、奏。部員第二号として明日からよろしくね」

「ああ、ってまだ誰も入るとは言っていないが。また明日な」

「え、うそ。入ってくれるよね。待ってかな__」


 俺は月那の言葉を遮って教室を出る。全く、厄介なことになったもんだ。

 そして俺は靴箱の方へと歩き出す。







「兄さん? 何していたんですか⁇」


 あ、これまずい。琴葉さんがガチギレしていらっしゃる。


「ノートを提出しに行くだけと言ってましたよね? それがどうしてこんなにも遅くなったんですか⁇」

「そ、それは……とある人に呼び止められて____」

「言い訳は後で聞きます。さあ、早く帰りますよ。説教案件です」

「はい……」


 もちろんこのあと俺がパンを奢らされたことは言うまでもない。

 さらば、我の親愛なる野口よ……



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