17 休まらない一日
投稿期間が空いてしまって申し訳ありません……!
クラスメイトの大勢が見えなくなったその日、俺は苛酷な現実に耐え切ることができずにその場で体調を崩してしまった。
そして水門に保健室へと運ばれ、琴葉と話をするうちに落ち着きを取り戻すことができた。
やはり自分を全て曝け出せる存在が身近にいるというのはありがたいな。一人で抱え込まずに済むのだから。
でもそれによって相手に__琴葉に迷惑をかけてしまう。俺はいつも相談するたびにそのことを気にしていた。
だが琴葉はそんなことは気にしなくていいと__頼っても良いんだと言ってくれた。
俺はそれがとてつもなく嬉しかった。家族であり、兄妹でもあるが血のつながりのない俺をここまで受け入れてくれたのだから。
かといって一方的に縋り付くばかりなのは良くないよな。
琴葉は頼っても良いと言ってくれたが、こうも言ってくれた。俺たちは二人で一人、『一心同体』だと。
だから兄として、琴葉のために何かできるような存在でありたい。そのためにはまずは自分のことから解決していかないとな。
さて__どうしたものか。
「何がどうなってんだよ……」
保健室で琴葉と話をした後、水門と保健室の先生が入ってきてようやく俺は心身の状態を診てもらうことができた。かなりの時間が経過していたこともあり、特に異常は見受けられなかったようだ。
それでも大事をとって早退させてもらうこととなった。もちろん迎えにきてくれる親などいない。だからなのだろうか、違うクラスである琴葉も一緒に早退することになった。万が一を危惧した学校側の配慮だろう。こういうとき結構寛容なんだよな、ウチの学校は。流石、県が誇る優良校といったところだろうか。
帰路につき、夕飯の買い出しを済ませて帰宅した俺たちは、琴葉の要望でご飯やらお風呂やらは速攻済ますこととなった。
「兄さんは病人なんですから、今日は早めに寝るんですよ! いいですか、約束ですからね!」
琴葉は息を荒げながらそんなことを言っていた。よほど心配してくれているのだろう。
これほどまでに心配してくれているのだから、俺は琴葉のためにもさっさと布団の中に入るべきなのだろう。
だが俺は自室に入ってから今の今までずっと机の上で頭を抱えて考え込んでいた。
そう、月那の発言についてだ。
『それにそろそろかなと思っていたからね』
あいつはあの時、確かにそう言っていた。まるで俺の症状の悪化を予期していたかのように。
そもそも俺は彼女に自分のことについてはあまり話をしていない。親がいないことも、琴葉と血がつながっていないことも、人の姿が見えなくなってしまうことも、俺は何も話していない。
だがあいつは全てを知っているかのような顔で俺のことを見てきた。
本当に何だってんだ。正直言って、怖い。
今まで自分の異常な体質に怯えていた分、他人に恐怖することはなかった。でもあんな表情で、核心をつくようなことを言われたら、彼女のことを恐ろしく感じてもしょうがないと思う。
「あー、もういい。言われた通りさっさと寝るか」
一人でうだうだ悩んでいても求めている答えは出そうにないので、思考を放棄して俺はベットへと向かう。
「明日、部活の時にどうにかして月那を問いたださないとな……」
そう決意して、目を閉じた時だった。
コンコンッ
誰かが俺の部屋の扉を叩いたのだ。誰かといってもこの家には俺と琴葉の二人しか住んでいないから扉をノックしたのは彼女だとすぐに判った。
その場で声を発そうとしたが、扉の向こうから投げかけられる言葉を聞いて俺は言葉を飲み込んだ。
「兄さーん、ちゃんと寝ていますか?」
別にここで返事をしてもいいのだが、琴葉はかなりの世話焼きなので起きていると言ったら怒って説教をしてくる可能性がある。
それは少し面倒臭い。善意で行動してくれているというのは判っているのだが、月那のことで使い切った脳みそにこれ以上の負荷をかけるとパンクしてしまいそうだ。
だから、ここは寝たふりをしておくのが正解だろう。
「寝てるんですねー? 入りますよー」
ガチャ
扉を開く音がする。琴葉が中に入ってきたのだろう。
まあいい、このまま琴葉が部屋を出ていくまで目を瞑ってやり過ごそう。どうせもう寝るところだったしな。
「兄さん? しっかり寝てくれてるんですね……」
どうやら確認が取れたようだ。これで用事も済んだことだし、部屋から出て行ってくれるだろう。
「……ん。それじゃあ……お邪魔しますね……」
ん? お邪魔します? どういうことだ? すでに部屋には入ってきているというのに。
なんてことを考えていると、琴葉が驚きの行動に出た。
俺のベットの中に入ってきたのだ。
(ちょいちょいちょいちょい……‼︎ 琴葉さん⁉︎ 何やってんの⁉︎)
俺は異論を呈するように寝返りを打ってみるが、出ていく気はさらさらないらしい。
今日は月那も謎の行動をしていたが、琴葉もよくわからないことをしてくるなんて……本当に頭がパンクしそうだ……
結局その後、ドキドキして一睡もできず、頭を休ませることはできなかった。




