15 忽然としてそれは突きつけられる
お待たせしました、第二章開幕です!
学校に到着していた俺はわかりやすく動揺していたと思う。
俺自身もこんな経験は初めてだったから。
新学期の初登校日に琴葉が心配してくれたように今まで何度も休み明けなどに人も姿が見えなくなることはあった。
だが今回はそんな経験を凌駕するレベルの異常事態だ。
__半分以上のクラスメイトの姿が見えない。
最初は俺が早めに到着しただけなのかと思ったが、皇先生が教室に入ってきた時点でそれは否定された。
そこで俺はみんながいないのは何かしらの感染症になってしまったからなどという最低な考えをしてしまっていた。
だがそれほどまでに追い込まれているのだ。この異様な風景に。
「えーお前らおはよう。今日も月那は休みか、まあ校内にはいるだろうが。他はちゃんと揃っているな、ならよし。委員長、号令」
「起立、礼、ありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
「一日、しっかりやれよお前ら」
そう言って教室を皇先生は颯爽と出ていく。
「んーやっぱり生徒のことをナチュラルにお前らって呼ぶのはどうかと思うぜ。なあ、奏?」
「あ、ああ、そうだな……」
「ん? 奏、どうした? めちゃくちゃ顔色悪いぞ」
水門はいつものように俺に話しかけてくる。
この様子を見るに本当に昨日のことはもう平気なのだろう。
「もう完全に回復したんだな」
「だから、ずっとそう言ってるだろ? 俺はもうすでに快調! ってか、今はどう考えてもお前の方がヤバそうじゃねえか!」
あの能天気な水門がここまで言ってくるということはそれだけ惨めな姿を晒しているのだろう。
けど、今の俺にはどうすることもできない。
原因が判っていても、解決できないことなんてこの世には腐るほどあるんだ。
解決できないならその事実をできるだけ最小限のものにする。
そうすればそれはいつか問題ではなくなる。
それまでの辛抱なんだ。
「いや、大丈夫だ。ちょっと朝に飲んだ牛乳があたっただけだ」
「は? 何言ってんだよ! 昨日あんな姿を晒した俺が言うのもなんだけど、今の奏、本気でヤバいよ! 絶対に腹壊したとかいうレベルじゃない。こんなにも震えてるじゃねえか! 何かあったんだろ? 俺には話さなくてもいいが、せめて琴葉ちゃんだけには話してやるんだぞ、わかったか!」
「あ、ああ、わかった」
なぜこいつが琴葉のことを気にするのかはわからない。
だが元々、琴葉は俺の秘密を一緒に抱え込んでくれているのでこのことを話さないわけにはいかないよな。
話したらまた、琴葉を不安にさせてしまうんだろうな。
ああ、うまくやれるようになったと思ったらこれかよ。
どうやら神様は俺の願いも俺という存在も認めてくれる気はなさそうだ。
「とりあえず奏、ほら!」
「え、なんだよ」
水門はその場で屈んで俺に背中を向ける。
「は? 何っておんぶに決まってんだろ」
「いや、そこまでは……いいよ別に」
「いいや、だめだ! 俺は今からお前をおぶって保健室まで直行する!」
「いや、だから__おおっと!」
俺は無理やり水門に担がれた。
クラスメイトの注目を集めてしまっている。まあ無理もないか、急におんぶされてるクラスメイトがいたらそりゃ凝視するわな。
「よしゃ、行くぞ! ゴー‼︎」
「って、おおおい‼︎‼︎」
そのまま水門は俺を担いだまま、保健室へと向かって走り出した。
本当にこいつの行動にはいつも驚かされるし、バカだなと呆れることも多い。
こいつは常時ふざけてるし、俺に迷惑をかけてくることも多い。
だが、なぜだろうな。
一度も心から嫌だと思えることがないのは__
「よおおし! 保健室、到着!」
保健室に到着すると水門はゆっくり俺を背中から下ろす。
「ありがとな、水門。恩に着るよ」
「いいってことよ! それより早く中に入って先生に診てもらわねえと!」
保健室の先生に診てもらったところで何も状況は変わらないが、それをここで口に出すのは野暮ってもんだろう。
そんなことを考えていると水門が勢いよく扉を開けた。
「失礼しま__ってあれ? 先生は?」
「いない……みたいだな」
「おーい、なんでこんな時に限って先生いないんだよー」
あのいつも生徒に対して冷たいことで有名な保健室の先生はどうやら出かけているようだった。
「んー、まあ勝手に入ってもいいよな! 失礼しますっ!」
「いいのか……?」
体調を崩しているせいでまともな判断を下せなくなっている俺は流れるままに水門に身を任せる。
「とりあえず! 奏はここで寝ておけ」
「勝手に使ってもいいんだろうか……」
「大丈夫だって! 後のことは俺がなんとかするから!」
そう豪語する水門。
正直に言って不安しかないが、今の俺には水門に反論する体力は残されていなかった。
「おおっと、もう一限が始まる時間だな。俺は戻るが奏はしっかりここで寝てるんだぞ! わかったか!」
「はいはい……わかってる」
「ならよし! じゃあ俺は行ってくるわ。また、後でな!」
「了解」
こうして水門は俺の元から去っていった。
「あ。それと」
と思ったら一瞬で帰ってきた。
「琴葉ちゃんには俺から伝えとくからー」
「はいよ」
「じゃあ、今度こそバイビー」
そして本当に水門は教室へと走っていった。
いつまでも騒がしいやつだなと俺は苦笑したのだった。
そうして俺はベットに横になりながらも保健室の全体を見渡す。全体と言っても前はあまり見えないが。
なんか不思議な感覚だ。
みんなが授業受けている中、一人保健室で寝ているというのは。なんだが謎の背徳感に襲われる。
だがあまり良い気分ではない。
やはりさっきの異常事態にまだ気後れしてしまっているのだろう。
とりあえず今は水門の言う通り、大人しく寝てよう。
(あーあ、またそうやって現実逃避かよ、椿奏)
いつぞやの俺が自分自身にそんなことを言った気がした。
そうだよ、逃げてんだよ。わかってるさ、情けないことをしてるって。
でも今の俺じゃあどうしようもないんだ。
だから逃げるのが最善の策なんだよ。
そんな風に自分に言い訳しながら、まどろみへと落ちていった。
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「__じょうぶ?」
うるさいな、俺を起こさないでくれまだ夢の中にいたいんだ。
「__あったの?」
ああ、そうか心配して琴葉がきてくれたのか。それは起きないとまずいな。
そう思って俺は思い瞼をこじ開けて、身体を起こす。
「ん、琴葉か? 悪いな心配かけちまって__」
俺は言おうとしたことを途中で止める。
眉目秀麗なその顔。とてつもないほど整っていて華奢な体。
そして__どんな人間の目も引くようなその銀色の髪。
そう、俺を起こしたのは琴葉ではなく__
「やっと起きたね奏。おはよう」
少しはにかんだ笑顔をしている朝霧月那だった。
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