12 トラブル発生
またまた投稿が遅くなり、申し訳ありません泣 これからちゃんとペースを早めますので、読んでいただけると幸いです。
というわけで新入部員の歓迎会と称して週末にショッピングセンターへと足を運んでいた。
結局、水門と月那の勢いに流されて最初の行き先はショッピングセンターに併設されているボーリング場になってしまった。全く、二人にはその場の考えだけで行動してしまうのは改めてほしいところだ。
だが、今回については特に異論があるようなような行き先ではなかったので良しとするか。
そして数分後、俺たちはようやく歓迎会を開始する。
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「奏、お前はゲームに登録する名前何にする?」
「別に、奏でいいぞ」
「えー、それじゃつまんなくね? あ、そうだ! アニメキャラとかの名前使ってみんなで揃えようぜ!」
ボーリングには最初に準備段階としてプレイするゲーム数やゲームの機種、そしてプレイヤーの名前を登録する必要がある。
ゲーム数などはともかくとして、なぜか水門は登録する名前についてこだわっていた。
正直、本名の方がすぐ決まるし、わかりやすくていいのだが。後ろに他の客のいるので迷惑にならないようにさっさと決めてしまいたい。
「もう本名でいいので早くしてください水門くん」
痺れを切らしたのか少し苛立った様子で水門を急かす琴葉。
「えー、琴葉ちゃんまでそんなこと言うのかよー」
「私も本名でいいから早くして欲しいかな」
「月那ちゃんまで⁉︎ もう、分かったよ! 本名にすれば良いんだろ! ちぇ、四人なら色々ちょうどよかったんだけどなー」
何がちょうどいいのか全然分からん。アニメキャラの名前とかにしたいなら男友達と来た時にしろ。
やっとのことで水門のダル絡みを成敗した俺たちはボーリング用のシューズやボールのレンタルに向かった。
もちろん男女でサイズや選ぶ玉の重量に差があるので俺は自分に合うものを探して、主に男性が使用するものが置いている場所で水門と一緒に選んでいた。
「うーん。まあ、このボールでいいか」
「は? 奏、お前、九ポンドとか女子かよー」
「別にいいだろ。俺はそんなに力があるわけでもないし。それならお前は何ポンドのやつにしたんだよ」
「やっぱり、男なら最大の十六ポンドでしょ!」
水門はドヤ顔で十六ポンドもあるボーリングの玉を片手で頭上に掲げる。
やはり片手で持つには重すぎたのか水門はすぐに元の場所へと戻してしまった。
「……やっぱり俺も奏と同じやつにするわ」
「重すぎて持てなかったんだろ」
「ち、ちげぇし! 同じやつの方が公平性が保てるからな!」
「はいはい、わかったわかった」
しょうもない茶番を繰り広げながらも、自分で使うものを選び終えた俺たちは月那と琴葉がいるであろう場所に向かう。
だが、そこに二人はおらず、数分待っても二人は俺たちの所に来ることはなかった。
「なあ、奏。流石に二人とも来るの遅いと思わないか?」
「ああ、そうだな。たかが道具選びにこんなに時間かかったりしないよな」
「ちょっと心配だな。一緒に探しに行こうぜ」
「了解」
二人が戻ってこないことに少しの不安と疑問を感じた俺たちは、月那たちのおおよその軌跡を辿る。
すると予想通りの場所に二人は立っていた。ただ、一つ想定外なことがそこには存在していた。それは月那と琴葉以外に見知らぬ男が三人もいたことだ。
初めは月那の知り合いなのかとも考えたが、二人の表情からその考えは否定された。その上、三人組の男たちから放たれる言葉がさらに、その否定を強調していた。
「ねえ、君たち二人? よければ俺たち三人と一緒に遊ばない?」
「……いえ、友達と来ているので」
「えー、冷たいこと言わないでよー」
月那の男に対する返答から困惑しているのが見てとれた。
そうなるとこの状況は変な男に絡まれている__つまり、二人はナンパされているということだ。
今思い返すと自分でも何故なのかはさっぱりだが、気がつくと俺は、月那と男の間に割って入っていた。
「この二人に用事があるなら、俺に言え」
「あ? なんだお前。女の前だからってヒーロー気取りかよ、キッモ」
「少なくとも今のお前らよりは気持ち悪くはない」
「は? 隠キャが調子のんな。頭かち割るぞ」
「やれるもんなら好きにしろ」
「上等だ、コラッ‼︎‼︎」
「兄さん! 危ない!」
「____ッッ‼︎」
男は激昂して己の拳を振り上げる。
俺は咄嗟に腕で顔を覆ったが、時すでに遅し。目の前の男の拳が俺の顔面目掛けて__落ちてくることはなかった。
いくら待っても男の腕が振り下ろされないので、それまで歯を食いしばっていたのを緩め、恐る恐る力一杯閉じていた目を開けてみるとそこには男の腕を掴むもう一本の腕があった。
「お客さま、店内で暴力行為などの他のお客様に迷惑がかかるような行為はやめてください。警察の方に連絡しますよ?」
どうやら定員さんが騒動に気がついて止めにきてくれたようだ。
冷静になって周りを見渡すと色んな人たちが俺たちのことを凝視していた。それほどまでに目立っていたということだろう。
なんにせよ月那と琴葉が外傷を負わなくて良かった。
正直、俺は間に入っただけで何もできなかったが、解決したので結果オーライということにしておこう。
そうして、店員に注意された男たちは不満を漏らしながらも、店員さんと共にこの場から去っていった。
「兄さん‼︎」
やっと落ち着けると思っていたら琴葉が俺の胸元に飛びついてきた。
「大丈夫ですか⁉︎ 怪我してませんか⁉︎」
「大丈夫だって。殴られる前にさっきのガタイのいい店員さんが止めに入ってくれたしな」
「なら良いんですけど……それにしてもどうしてこんな危ない真似したんですか!」
「だって琴葉、困ってただろ?」
「確かに困ってはいましたが……もっと他の安全な手段があったはずです! 先ほどの店員さんに先に状況を伝えるとか!」
「あー、確かに……」
琴葉の言う通り、先ほどの店員さんに助けを求めてからこの場に現れていれば男の暴力未遂も防げていただろう。
いつもの俺ならその行動を成し得ていたであろうが、さっきまでの俺にはその考えを思いつく冷静はどこにもなかった。自分でもなぜあんなに焦っていたのかはさっぱり分からない。
「もう本当に心配したんですから……」
「ごめんな。でも俺だって心配したんだぞ?」
「兄さんっ……!」
「琴葉……!」
「あのー、君たちいい雰囲気のところ申し訳ないけど、私にも発言権をもらえるかな?」
月那のその言葉で俺は我に帰る。どうやら琴葉と自分達だけの世界に入り込んでいたようだ。
「君たち兄妹は本当に仲がいいね」
「兄妹だからな」
「うん……?」
月那は納得できずに何かが引っかかっているような表情を浮かべる。
だが、その表情も一瞬にしてどこかに消え失せてしまった。
「ま、とにかく助けてくれてありがとう奏」
「特に何もできなかったけどな。さらに言うなれば、あの男の導火線に火をつけてしまったしな」
「でも、君がきてくれたから解決したのも事実でしょ?」
「うーん、そうかな」
「きっとそうなんだよ。私が補償するからさ」
全くもって俺が貢献したとは一ミリも思えないが、感謝してくれる人を無碍にしてはいけないな。
ここはありがたく、気持ちを受け取っておくとしよう。
「そう言ってもらえるのは素直に嬉しいよ。ありがとな」
「どういたしまして」
満足そうな笑みを浮かべる月那。
「__ところで、あれはどうしちゃったのかな?」
そう言って月那の指さした方に顔を向けるとそこには、顔を真っ青にして硬直して立ち竦んでいる水門の姿があった。
流石にその異様な有様に俺たち三人はすぐさま水門の元へと駆け寄る。
「おい、水門。どうしたんだ? 大丈夫か?」
「あ、ああ、か、奏か」
「どうしたんですか、何があったんですか水門くん」
「いや、大丈夫だよ。琴葉ちゃん」
「それで大丈夫なわけないだろ! 肩貸してやるから少し落ち着け」
「お、おう。わ、悪いな。あ、お、おぅえッ」
水門はその場で盛大に吐瀉してしまった。
こんなにまでなるなんて一体、水門に何があったというのだろうか。それを聞こうにも水門はすぐに誤魔化してしまう。
ただ、唯一判るのは、なにかが水門の禁忌に触れてしまったということだ。
だが、その禁忌について知るものはこの場には一人もいなかった。
変な男の三人組に水門の嘔吐、まだ今日は始まったばかりだというのに俺たちは散々な目にあっている気がする。
先が思いやられるが、ここは腹を括るしかないのだろう。




