第5話 入隊 enlistment
第5話です! 今回はようやく出所することができます。
どうぞお進みください。
ルミアと共に俺は約一週間ぶりに外の景色を見た。
時間はおよそ16時前ぐらいだろうか、日が落ちてきつつあり、周りの建物はどれもオレンジ色を身にまとっていた。
「ぷはぁ~! 空気がうめぇ!」
俺は刑務所の空気を吐き出し新鮮な外の世界の空気を体の中へと循環させる。
「時間が迫ってるな、こっちだ。駐車場に車を停めてあるから早くついてこい」
どうやら外の空気を堪能している場合ではないようだ。急いでルミアの元へとついていく。
駐車場に着くと黒くて小さく比較的きれいな車が一台置いてあった。
ルミアが運転席のドアの前に立ち車の鍵をあける。
それを確認すると俺は助手席のドアを開ける。
中からはおそらく車のシートのものであろう革の匂いがして俺の鼻を刺激した。
俺は車に乗り込み座席に座りシートベルトをかけながらルミアに話しかける。
「なぁ、この車って買ったばかりなのか? 革の匂いがプンプンするんだが」
「あぁ、先月の終わりごろに買ったばかりだな。どうした? 革の匂いは苦手か?」
「いや、別にちょっと気になってな」
というような話をしながらルミアは車のエンジンを掛ける。
ブロロロロッ! と少し高い音を出して車が揺れた。
「どうだ? 私の新車。良い音してるだろ?」
と自慢げな顔をしてルミアが訊いてくる。
「おぉ? 俺は車の知識はないが良い音は出してんじゃないか?」
と返すとルミアはアクセルを踏み込んで車を走らせ始めた。かなりのスピードが出ているがそんなに気にはならない。
刑務所の駐車場から公道へと出てまっすぐに進み続ける。
「なぁ、軍の施設ってここから近いのか?」
俺は運転しているルミア横顔を見ながら尋ねる。ルミアは視線を少し上にもっていき答えた。
「そうだな~、少し離れた場所にあるから......ざっとここから約20分ってところだな」
「意外とかかるんだな」
「これでも道は整備されて楽になったんだ。我慢して車に揺られてろ」
「へーい」と俺は頭で両手を組んで座席にもたれかかる。
しばらく走っていると「グゥ~」と俺の腹の虫が鳴いてしまった。それはルミアにも聞こえていたらしく。
「おいおい、どうした? 刑務所ではたらふく食べれなかったのか?」
とニヤニヤしながら聞かれてしまった。
「あぁ、そうだよ。聞いてくれよ。あそこの刑務所の飯な、ずっとメニュー変わらんの。いつも主食と味の薄い汁物だけ。しかも朝と夜だけだからたまったもんじゃない」
俺はあそこの刑務所の嫌なところの一つである飯についてをとことん嫌味ったらしく話した。
「それは...ドンマイとしか言えねぇな」
ルミアは少し考え。
「てことは、お前、今日朝食ってから今まで何も食ってないのか?!」
俺は無言で深く、深く頷く。
「そうか、安心しろ。軍では兵舎に居るときはきちんと三食美味しいのを食べられるからな」
「それを聞けて安心したわ」
俺はホッと胸を撫で下ろす。
するとルミアがスッと片手で何かを取り出した。
「ほらよ。今はこれでも食って腹を膨らませてくれ」
と俺の方に細長いなにかを投げてくる。
俺はそれをキャッチする。
細長い物の正体は。
「レーションか、ありがたくいただくわ」
と、レーションの袋を破ってかぶりついた。
そして食べながら俺は気になっていたことについてルミアに質問を始めた。
「そういえば、これからはお前の部隊で俺は戦うみたいだが、お前の部隊ってなにすんだ? 補給とかの後衛で動くのか? それとも前線行って相手と正々堂々、盛大にドンパチやりあうのか?」
前者ならまだ楽だがもし後者だった場合、俺は命の奪いあいをしないといけない。戦場は「殺らないと殺られる」ほんとにその通りの世界というのは戦場にいない俺でも分かる。刑務所の外に出れたことは確かに嬉しいが、今度は死と隣り合わせのところに行かないと行けなくなる。そんなことはできれば遠慮したい......が、刑務所から出してもらった身である以上俺のわがままでいやいやとも言っていられない。それに俺はもうルミアに付いていくことしか道はない......たとえどんなに危険だったとしても......
と俺は覚悟をしたが。
「うーん、どちらでもないな」
予想外の答えが返ってきた。
「それじゃあ、お前の部隊は何するんだ?」
気になる俺はルミアを問い続ける。
するとルミアは車を運転しているにも関わらずこちらを見て答えた。
「壊し屋...だな」
「壊し......屋?」
俺が復唱するとルミアは再び前に向き直り続けた。
「あぁ、敵の前線のさらに奥、飛行場とか、各所にある基地とかに強襲、もしくは潜入して敵の飛行機や、戦車、弾薬に火をつけて回り、敵の兵器とか戦意を失わせる。そんな感じだ」
「......」
予想していたよりも断然危険じゃないか。敵の基地に潜入? 捕まるリスクなんて一番高い。それどころか何人もの敵兵士が出てきたら捕まる云々の前に殺されるリスクが高まる。そんな危険な部隊に俺が......
「......」
思わず唾を飲む。
こちらが沈黙をしているとルミアが話を続ける。
「色々説明すると長くなるが、私たち連合国軍はこの長い戦争に早く終止符を打ちたいとずっと考えてきた。しかし、そんな望みとは裏腹に戦争は色んな国々を巻き込んでいく、連合国の中でも経済がもう保てなくなり西と東の二つの大国のどちらかに付いて戦争に参入する国も出てきた。さらに二つの大国軍から戦争に参入していない私たち連合国側が侵略を受けるという事態にもなり、結果、二つの大国軍と連合国軍の三つ巴の戦争になってしまった。そして、そんな中、ここ大黄帝国内で前線で戦う兵士の他に敵地に乗り込んで兵器を壊し、戦意をなくさせ、早くに戦争を終わらせる部隊を作るという考えが出た」
「そうしてできたのが私たち、壊し屋だ」
俺はただルミアの説明をただ呆然と聞いていた。
「おら、そんな顔すんな!」
ルミアがハンドルから片手を離し、俺の背中をバンッと叩いた。
「大丈夫だ。お前はメルから"絶対大丈夫"の印をもらったんだ。あいつのあれは外したことはない。だからお前は大丈夫。あっちでも言ったが期待してるぞ」
まさか、"元"犯罪者の俺が女に励まされるなんてな。情けねぇ。
「ありがとうな」
笑顔を見せて精一杯強がる。
俺たちの会話が終わると同時に車も止まった。
目の前には白い壁をした建物、その奥には滑走路のようなものも見えた。
ルミアの話を聞いていたら、いつの間にか着いたようだ。
「ようこそ。特殊作戦部隊BRKRsへ」
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