第3話 出所 release from prison
第3話です。今回は輝が少しバカ?になる回です
どうぞお進みください
あの二人が去った後俺こと輝はずっと考えていた。
この冷たい床にあぐらをかいて時間すら忘れて。
ただひたすら考えていた――
(なんなんだ?あの二人組は)
何度も思い返すあのルミアとメルとかいう女の二人組の姿。
ルミアの軍帽や胸に紋章を身につけている。あの格好をみるに恐らく軍人であることは世間も全然知らない俺にも理解はできた。だがそうすればなおさら、なぜ軍人でもある彼女らがこんな人生の終わりを体言しているような刑務所に赴く必要があるのか疑問だ。
それにメルのあの行動はなんだ? 俺の手のひらを見たり触ったり、最後には俺の顔全体を見て「この人は絶対大丈夫」だと? 一体なんのことやら。
第一、看守が言っていた"法令"ってなんのことだ? 色んな国を転々としてきた俺にはこの国の法令なんてのはさっぱり分からん。ここ大黄帝国には大犯罪人でも釈放できるような法でもあんのか? この国大丈夫か?
(それにルミアは俺の"面倒"を見るって...っまさか!?)
この頭をフル回転させて考えていたら閃いてしまった。
そう、俺は閃いたのだ。
この狭い部屋全体に電流が伝わるような。
一つの可能性を......
「もしかしてルミアは将来の伴侶となる候補を探していて... それが俺ってことか!?」
そうだルミアは見るからに若いが女の軍人、行くのは戦場ばかりで出会いなんてものは一切ないであろう環境にいる。そんな状況では将来を共にする夫なんて見つけられるはずもない。 それで恐らく内地にいることができる短い期間を使ってあのメルってやつを連れて色んなところを巡っては将来の伴侶にふさわしいか否かを視てもらいながら候補者を上げているのか。確かに「今回は全然いない」みたいなこともしゃべってたしな。
そうか、そうに違いない。
そしてルミアは階級が高いのでこんな刑務所から俺みたいな無期懲役の刑になっているやつでも無理矢理出すことができる権力を持っているんだ。看守が改まっていたのもこれで頷ける。
てことはルミアが言っていた"書類"ってまさか......
「婚姻届!?」
もうこの場で書類にサインする気なのか!?
なんて大胆な......別にこんな所(刑務所)じゃなくてもいいのに......
自分の幸せをこの周りの不幸だけしか待ってない犯罪者どもに見せつけたいのか...Sっ気があるんだなぁルミアさんよぉ。
でもこっちの意思もなくトントン拍子で話が進んでいくよなぁ。けど、それもそうか、こっちは犯罪者の身分だしどうこう言える権利なんてのもないんだろうな。
(それにしてもあの性格かぁ)
ここで正直に話そう...ルミアは俺のタイプではない。
俺の中での女軍師を言葉そのまま作りあげたようなあんな感じ。
どうせ結婚しても軍人だし「貴様ッ!」とかみたいなこと言うんじゃないか?
(はぁ...俺はなぁ、俺はなぁ...! 包容力のある優しいお姉さんのようなタイプが好みなんだよぉ!!)
声に出さないように心の中でおもいっきり叫ぶ。
ここで「うわっ...引くわ~!」と思ったそこの君っ! よく考えてみてほしい。俺は産まれて今の今まで女性のぬくもりなんてのに触れたことは一切ないんだ。そりゃ産まれたときは母親から愛情を受けていたかもしれないがそんな赤ん坊の頃の記憶なんてのは無い。物心ついたときには母親はおらず親父との男二人の生活だった。スラムにいたのときにもお姉さんと呼べる人がいたがそのときはまだその人も子供だったしな~包容力なんてのはなかった。
盗みを働いていたときなんてもっての他だ。包容どころか殺す気で俺を襲ってきた女もいた。
ゆえにッ! 俺は包容力のあるお姉さんが好みなのだっ!!
異論はもちろん認める!
てか俺、なんで誰もいないのにこんな弁明しないといけないんだ?
......話を戻そう。
それでもルミアはルミア自身が言っていたように俺をここから出してくれる唯一の人物なのだろう。こんなチャンス一生かけても二度とくることはない。
「まぁここから出してくれる訳だしな。これからは恩を返すつもりでできるだけのことはしよう」
そう、無一文の俺にはそんなことしかできない。
家事だろうが、なんだろうがこんなところから俺を出してくれるルミアが少しでも楽になるなら、俺ができることならなんでもしよう。
この暗い牢屋に一筋の希望が見えた気がした。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日――
俺は気分が好調だった。
なんせ一生出れないと諦めていたこんなところからものの一週間ぐらいで、しかも合法で出ることが出来るのだから。嬉しくないわけがない。
(ほんとにルミアには感謝しないとな)
俺は起きてからずっとソワソワしている。「子供かよ」自分でそう突っ込みたくなるくらいな。
ガチャッ――
廊下の奥から扉の開く音がする。
(来たっ!)
足音がこちらに向かってくる。
俺はその足音が近づくにつれ徐々に胸を高鳴らせていく。
が――
「おら! お前はここだ! 早く入れ」
どうやら新入り(犯罪者)らしい......ったく紛らわしい。
まぁ今、いくら新入りが来ようが気にしない、俺は今日ここを去るわけだからな。
◇ ◇ ◇ ◇
......来ない、いくら待っても来ない。
確かな時間は不明だが少なくとも午後には入ったはずだ。
しかしあの時以来扉が開く音がしない。
イヤな汗がダラダラと流れ出てきていた。
耳鳴りがする。
頭が痛い。
(もしかして、あの後に俺よりも良いやつを見つけたんじゃ......)
考えたくもないが一番あり得る仮説が頭に浮かぶ。
全身から血が引いていくのを感じた。おそらく人生で一二を争うぐらいには絶望に満ちている顔をしていると思う。
(違う、違う。メルは俺のことを"絶対"大丈夫って言ってたじゃないか、そんな簡単に"絶対"が見つかってたまるか)
思考を無理やりポジティブに変える。
が、それは効果がなく、またすぐに暗い考えにとらわれる。
俺はこのまま一生ここにくらすのか?
このままこんな地獄のような冷たい牢屋の中でずっと......?
もう何も考えたくない。
耳鳴りと頭痛がひどくなり思わず耳に手を当て塞ぎ混む。
体を丸くししゃがみこむ。
ははっ、あんな希望を抱いて子供みたいにはしゃいでた俺が情けなく思えてくる。
「これからよろしくな」
昨日のルミアの声が頭で思い返される。
畜生、悔しいなぁ。久しぶりに人を信じることができると思ったのに......
もう、いいや、諦めよう。
大体こんな犯罪者の俺が外に出るのを夢見たのが間違いだったんだ。
俺はそう受け入れると体の異常もどんどん良くなっていった。
汗も止まり。
頭の痛みも、耳鳴りも和らいだ。
俺は手を耳から離す。
すると―――
「お、中二病ごっこは終わったか?」
待ち焦がれていた、昨日も聞いた声がする。
「いや、ここに来たらお前が耳ふさいでうずくまってるからよ。そういう趣味があるのかと思ってな」
顔を見上げる。
そこには。
「遅れてスマンな」
扉の小窓からルミアが俺を覗いていた。
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