2月2日 曇り
次にしんちゃんと会ったときには何事もなかったかのように接せた。
も、終わったことだし。
それから3週間はいつも通り過ぎ、また浮気され、泣いて、りょうちゃんにライムで愚痴って、また十何日かの平和。それを3回も繰り返した。あたしもしんちゃんもダメダメだと思う。それ以上にりょうちゃんには申し訳なかったけど、ついメッセージを送ってしまっていた。その度にりょうちゃんは付き合ってくれて、本当にありがたかった。
「また浮気されたんだけどー!」
りょうちゃんが電話に出るなりあたしは叫んだ。
「おおう、今度はどうしたの?」
「どうもこうもないよー…りょうちゃん今暇?」
「うん、20分くらいで出れるかな。」
やった。
「じゃあ…んと、行きたい店ってある?」
「いや特にないけど…」
「けど?」
「あ、ごめん別に続きがあるわけじゃないんだ。」
「そっかー…」
だったら一番町のサテドレでいいかな、近いし。と思ったらりょうちゃんから提案があった。
「あ、ポーラーベアは?」
聞いたことない店。
「なにそれ?」
「オシャレ的なカフェ的な飲み屋。女子向けの。」
続けて「行ったことないけど。」と言ったみたいだけど、吹き出しながら言ったから言えてない。
「『的な』ばっかじゃん。」
あたしも釣られて笑う。
「場所は?」
「んー、大和書店の交差点わかる?」
「うん。」
「そっから西にホテルあるじゃん。」
「西ってどっちかわかんないけど、緑色のホテル?」
言ってみて気づいたけど、緑色のホテルって嫌だなぁ。看板の文字が緑色って意味だったけど。
「そうそう、その手前にあるちっさいビルの2階。」
「ん、わかったー。でも待ち合わせはビル前でいい?」
「おう。」
―***―
ビルの階段を上るとすぐドアがあった。木の、なんかヨーロッパっぽいドア。その横には椅子。足元にオススメを書いた黒板が立てかけてあって、その上ではでっかい白くまのぬいぐるみが座っていた。脚を前に伸ばしたテディベアみたいなポーズ。
「わぁー! 白くまだよ! かわいい…けどなんで白くま?」
「いや名前名前。」
りょうちゃんが店の看板を指差す。
【ポーラーベア】
ポーラーベア…ベア!
白くまのことなのか!
「じゃあ英語で『白い』ってポーラーって言うの?」
「ああぁあぁ…」
りょうちゃんが変な声を出した。
「え、どしたの?」
「説明めんどいなと思って。」
「なにが?」
「ポーラーは北極のって意味で、直訳すると、北極の熊。白熊の和名…正式名称はホッキョクグマ。これでわかった?」
「わかった。」
なんてわかりやすい説明なのだろう。
「りょうちゃんはおばあちゃんだねー。」
「え?」
「物知りさんだから。これからおばあちゃんて呼んでいい?」
「だめ。」
「ですよねー。」