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仮題 東京水没  作者: FES
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アバンタイトル

 世界を敵に無謀に戦い、蹂躙され尽くした敗戦国・日本。あの決定的な敗戦から100年――

 

 東アジアの奇跡を牽引し、経済的繁栄を謳歌しつくして、今や老いていくに身を任せたに思われていたこの国を再び核の火が襲うとは、誰も想像していなかった。

 

 2046年5月2日未明。東京湾を襲った爆風は街を焼き尽くし、同時に発生した津波は川を遡上し、地下構造物を破壊しつくした。在日米軍は直ちに観測機を飛ばし、爆発の規模と採取した大気サンプルの分析結果から、これが東京湾海上での核爆発によるものと断定。いかなる主体からも宣戦布告や犯行声明が出されなかったことから、史上最悪の災害と思われた爆発と津波は核を使ったテロとされ、現在に至るも犯行の主体は明らかにされていない。

 

 それから数年。東京の首都機能は各地に分散したものの、主を幼子に替えた皇居が都下・青梅に残ったことで東京は名目上、この老いた国の首都であり続けることを強いられた。

 

 復興のため、国が強引に行った被災地区の復興作業は、生き延びた街が生み出し続ける廃水に抗えず、残っていた大深度の地下構造物が軒並み崩壊し、さらに関東の地下ガス田の噴出が引き起こされ手の付けようがなくなったことで、作業は放棄される。これは膨大な財政負担を生み出しただけでなく、寄せ集められ、職を失った労働者の群れを残す結果となった。

 

 放棄された被災地区周辺には復興作業に従事した労働者の居住区に端を発するスラムが形成され、東アジアのブラックマーケットに属する住人が、際限なく流入するようになっていた。

 

 現行の、権限をと予算を細分化された行政の体制と人員では事態に対応できないと見た国は、省庁の再編を断行。経済政策から治安維持活動までを広汎に司る「内務省」を設置した。治安の悪化甚だしく、東アジア最大の犯罪都市となった被災地区を抱える東京に、内務省公安局直轄の「首都警察東京」通称・首都警を設置。一定の基準を満たした民間人に資格を与え、正規の警察官の監督の下で警察業務を委託することで人員不足の解決を目指した。「首都警察東京設置法に定める民間人の警察業務従事者」、通称・民警みんけいの誕生である。

 

 首都警は市内の警ら活動にタクシードライバーや運送業者を採用し、交番の代替施設としてコンビニエンスストアや飲食店を、不足した留置施設に廃業したり、経営難に陥ったホテルや旅館を活用し、数の上での充実を追求した。しかし、凶悪化・組織化する犯罪に対して、一目で民警とわかる制服に、防刃ベストと警棒を身に着けた民間人に過ぎない民警従事者が有効な活動をなしえるはずもなく、大量の殉職者が発生する事態となった。頭数の補充を急いだ首都警は、民警従事者の採用にかかる「一定の基準」を引き下げ、支給する装備は正規の警察官と同等としたうえ、従事者の費用負担で「従事する任務に適当とみなす範囲内で」充実させることを認めた。

 

 もとより曖昧だった採用基準の引き下げは民警従事者の質的低下をもたらし、さらに、従事者の費用負担で装備を充実させることを認めた制度は、民警の重武装化を招くことになった。慌てた首都警は民警の資格を更新制にしたものの、資格更新をせずに失踪する不良民警従事者が大量に発生する。重武装化した民警従事者の数が正規の警察官の頭数を上回るころ、首都東京には彼らを中心とした新たな秩序が芽吹きつつあった。

 

 

 

 

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