脅しじゃない。本気だ
目を開けると、空はまだ薄暗かった。
この辺りは年中薄暗いのだが、まだ雲の上に光を感じる。
「お目覚めになられましたか、闇の王」
聞きなれてきた声で、聞き覚えのある台詞だった。
声のする方を見れば何もいなかった。
「下でございます」
見下ろすとバラバラになった骨が地面に散らばっている。
「申し訳ありません。蘇り、あの生者に再度挑んだのですが、蹴られてこのようになり、しばらくは戻れそうにありません」
覚えている。
胸の中に燃える炎は今も顕在だ。
復活は初めてだが、特に体に違和感はない。
「あの女はどうした」
「王を斬ったのち、霊園を一周して出て行きました」
そうか。
帰ってしまったか。
果たしてどうする……。
「王よ。僭越ながら申し上げます。我ら皆、先の戦いで王は敗れたとは思っておりません。なぜならば、王はここに健在であります。王がまだ立っているのなら、また討ち破る機会はあります。どうか、このたびの戦いのことは――」
「黙れ。考えに集中できん」
なるほど確かに俺は健在だ。
今すぐにでもあの女に俺の闇魔法をみせつけてやりたい。
しかしだ。
今の俺ではここから出ることはできない。
「……霊園に他の冒険者はいるか」
「報告が遅れて申し訳ありません。おります。三人組の冒険者が西園を荒らしております」
僥倖だ。
「案内しろ」
「ハッ」
返事は良かったが、地面にばらばらになっていては無論先導はできない。
骸骨に代わり、霊体が俺の行く道を照らす。
「あーそーこーだーよー」
のんびりした声が、冒険者三名を示した。
「下がってろ。今の俺は手加減ができん」
「はーい」
ふわふわと上空に飛んでいく。
それを視界の端に見ながら、冒険者へと歩を進める。
「おい、お前ら」
冒険者達も気づいた。
「出た! ボスだ!」
こちらを向いて、声を出しているが遅すぎる。
〈闇よ! 奴らを縛れ!〉
地面から伸びた闇は三人の冒険者をあっという間に縛り上げた。
叫び声をあげて抵抗を見せるが無駄だ。
「今日の昼。一人で挑んだ女冒険者を知っているか」
「命だけは助けてくれ」
〈闇よ。この愚か者を締めあげろ〉
命乞いをした男の拘束をきつくした。
男は声を上げつつも、次第に静かになっていく。
「殺してはいない、――まだな。いいか、もう一度だけ聞くぞ。昼にこの霊園に来た女を知ってるか?」
先ほどと同じ質問を繰り返す。
「知ってる。もちろん知っている! その女の情報ならいくらでも教える。だから――」
〈闇よ。この男の口を塞げ〉
口の中に黒いものが容赦なく入り込んでいく。
「あの女が何者かなんて関係ない」
俺がすべきことはあの女が何者か質すことことではない。
俺の闇魔法の強さをあいつに示すこと。ただそれのみである。
「街に戻ってあの女に伝えろ。『今宵。月が真上に上るころ、昼と同じ場所で待つ。俺の闇の力をもって貴様を蹂躙してやる』とな!」
男達の闇を解く、足をもつれさせながら逃げる背中に停止を命じた。
「待て」
怯えてこちらを振り返る男に問う。
「お前は仲間を置いて逃げるのか?」
気を失って寝そべる男を指さした。
そこには骸骨が立っており、男のアイテム袋を物色しているところだった。
「この者が、王に危害を加えるモノを持っていないか、あらためていたところでございました」
うそつけ。
めちゃくちゃ物欲しそうにアイテムを見てたろ。
「とにかくこいつも連れて帰れ。もしもあの女が来なかったら、街まで行ってお前らを殺す。その後でこの霊園に連れ帰り、骸骨共の一員に加えてやる。いいな! 一言一句違えるなよ!」
ひぃと倒れた男を担いで、二人は逃げ出した。
後はあの女を待つだけだ。