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闇魔法は弱くない。復讐を誓ったんだ

 数日が経ち、この霊園が中級ダンジョンに認定されたことを知った。

 骸骨達、腐れ包帯、それに屍人までもが喜びに湧いた。


 難易度が上がり、挑む冒険者は減るかと思ったが日に日に増えてきた。

 中級冒険者だけでなく、俺でも聞いたことのある上級パーティーが来たこともあった。

 どうも俺が未討伐ということで、最初に倒したパーティーに追加報酬や好待遇が約束される話になっているらしい。


 そのためそこそこの冒険者がたびたびやってきていた。

 そして、俺はその全てを返り討ちにした。


 役立たずのモンスターで相手をおびき寄せ、そこから一人ずつ倒していく。

 相手の装備を奪い、生かして帰す。これで急激な難易度上昇指定は避けられる。もう少し中級で力を測りたい。

 しかも、装備を失った冒険者はしばらく挑戦してはこれない。時間稼ぎにもなる。



 昼時に装備を見繕っていると、いつもの骸骨から伝令がきた。


「王よ。私です。わかりますか」

「わかるから要件を言え」


 いつも付きまとってくる骸骨はうっとうしいので入口近くの監視を命じている。

 抜けなく連絡をしてくるので、力と頭以外は優秀なのかもしれない。


「冒険者です。数は一」


 一人か。

 俺をなめているか、よほど自信があるかだ。


「相手をしてみて、手に負えないようならこっちへ誘え」


 …………おや?

 いつもならもうちょっと考えてから返せよと思うほどすぐさま返事がくるのだが、なかなか返ってこない。


 頭の中でダンジョンと骸骨の位置を意識する。

 ダンジョンの中に、うるさい骸骨の気配がまったくない。

 やられてしまったようだ。どうも、今回は少しは力のある奴がやってきたらしい。

 なめているのか、自信家かはまだわからない。あるいは両方なのか。


「冒険者が入った。状況を知らせろ」


 近くの霊体に命令する。

 霊体はすぐさま飛んでいった。


「主よ」


 かつてのボスであり、今は中ボスの一体である武の屍人の声だ。

 相手の個人戦力を読むことにかけては、このダンジョンの中では随一だろう。

 俺としてもアンデッドの中では比較的信用しており、良い武具は優先的にこいつに渡している。


「いたか?」

「はい。冒険者が一人。女です。剣を持っていますが、その姿は斥候に近いかと。周囲に仲間の様子は見えません。しかし、誰かと話している様子が見て取れます」


 剣を持っているからには剣士だろうが、おそらく剣にはなんらかの属性が付与されている。

 光が常套だが、炎もありえる。ソロで挑むほどなら雷や氷も視野にいれるべきだろう。

 いや、誰か仲間がいると考えた方がよいだろうな。


「剣に属性が付与されているはずだ。探れるか」

「今から軽く仕掛け、知ら、消え――」


 連絡がまたしても途絶えた。意識を集中させるが気配は感じない。

 思わず舌打ちをする。せっかく与えた武具が取られてしまってないだろうか。


 ……ふむ、今回は本当になかなかのやり手だ。


 実にありがたい。

 俺とダンジョンの名声を高めるための贄となってもらおう。


「全配下へ通達する。冒険者との戦闘を極力避け、俺へと誘い込め。こちらで処理する」


 アンデッド共に伝わったことを確認すると、俺は開けた場所へ移動する。

 墓を壊すと直すのがけっこう面倒だとわかり、最近は何もない広場で戦闘をすることが多い。


 アンデッドは言われたとおり戦闘を避けている。

 すぐに例の冒険者がやってきた。


「あ、ほんとだ。いるな」


 女もこちらを認めて声を出している。


 聞いていたとおりだ。

 手に剣を持ち、重い鎧を避け、身軽な装いだ。確かに斥候に近い。


 む、何だ、この違和感は……。

 付けている装備は、かなり質が高いとわかる。

 服も、軽めの鎧も、その靴も、アイテム袋ですら高級品だと読み取れる。


 ただ一点。剣だけが浮いている。

 ソロの冒険者で剣士なら、その剣は己の生命線。

 全ての武具の中で一番良いものになって然るべきはずだ。


 それに動きが明らかに素人だ。

 隙だらけでどのタイミングで仕掛けてもやれるだろう。

 そう見せかけているなら大したものだ。やはりこいつは囮で隠れた仲間がいるのか。


「来ないな。こっちからやってみるか。……そうだな」


 独り言が多い。だが、何をするのかわかるので助かる。

 どうもまっすぐ仕掛けてくるつもりのようだ。

 周囲に警戒しつつ、機先を制する。


〈闇よ。我が敵を貫け〉


 心の中で詠唱を行う。

 女が足を上げた完璧のタイミングで発動させた。


 だが、闇の槍は女のいた位置を通り過ぎる。相手の出鼻はくじけなかった。

 闇の槍は虚空を貫き、そのまま消え去る。


「無詠唱か。詠唱速度の遅延が効かないとはやっかいな」


 消えた女は俺の隣に立っていた。

 すぐさま避けられたのだと理解し、距離を取るとともに、魔法で反撃できる体勢にする――はずだった。


 ところが、足は動かず、振り上げるべき腕はすでにない。

 ボトリと何かが地面に落ちた音だけが聞こえた。

 それどころか女の位置が上がっていく。


「なんだ、もう終わりか……、まだ消えてない。なかなかしぶといな」


 意味がわからない。

 何をされたのかまるで理解できない。

 為す術は無く、為された術すらわからず地面に倒れ伏す。

 杖を持っていた腕が、俺の前に転がっていた。


「やはり中級だな。ボスがちょっと強いだけか」


 女は、俺の首めがけて剣を振り抜く。

 俺は地面に転がり、離れていく俺の体を見つめるのみだ。


 ……前にもこんな光景を見た気がする。

 よく、思い出せない。


「闇魔法が何なのかさっぱりわからなかったな。闇ってのは見た目だけなの? え、違う? でも、これ――」


 弱くないか?


 己の力が失っていくのを感じながら、それ以上の怒りが俺を支配していくのを感じていた。

 最後の問いかけは俺への挑戦だ。闇魔法で高みを目指す俺への冒涜だ。


 見せつけなければならない!

 この女に。俺の闇魔法がどれだけ強いのかを!


 俺は復讐を決意した。

 俺たちが進むべき道を必ずこの女に示すと。

 しかし、決意とは裏腹に意識は脆くも霞んでいってしまうのだ。


 ……あれ? 俺たち?


 あぁ、よくわからない……。


 わかることは一つだけ。


 この湧き上がる激情をぶつける相手がいるということだ。

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