それはたぶん俺じゃない。ローブだ
けっきょくローブは着た。
距離をとって冒険者達の様子を窺う。
「最初の襲撃以外は特に異常な点はないように思えるが……」
「そうだな。ギルドの思い過ごしじゃないのか。初級と言っても初心者上がりの奴らばかりだろ」
「そう言ってやるな。誰もが通る道だ。俺たちにもあっただろ」
男が四人。
霊園に男ばかりが四人とはむさくるしいな。
むさくるしさはあるが、パーティーとしては安定しやすい。
下手に女が一人だけ混ざると、パーティー内部の男女関係で崩壊することだってある。
メンバーは剣士、斧使い、魔法使い兼ヒーラー、それに弓使い兼斥候か。
討伐寄りのパーティーだな。ダンジョン攻略をメインにするならさらに防御役が一人いてもいい。
格としてはおそらく中級。
軽く会話はしているが、初級に見られる油断はない。
四人の視線がばらけ、互いの死角を補うように動いている。
「ギルド直の調査依頼だから支払いは問題ないし、危険度も少ない。ボロい稼ぎだな」
弓使いがイシシと笑う。
「そうだな。これが終わったら北のハリスピオに行こう。最近は討伐依頼が多いようだ」
「いいな。それで俺たちも上級に上がれるだろ」
「ああ、俺たちの夢に一歩近づくな」
俺たちの夢……。
どこか遠い響きが俺の心を打つ。
そうだ。
俺には夢があった。
夢はなんだった。上級? いや、違う。
「誰かいるぞ」
どうもぼんやりしてしまっていたらしい。
弓使いに見つかってしまった。
すぐさま剣士が、パーティーと俺の間に立った。パーティーの陣形もすぐに変化し、俺と向き合う。
向き合うと言っても、距離はかなりあるので俺の距離だ。あまりその陣形に意味は無い
「こちらは中級パーティー『夜明けの望月』。当地区のギルドに依頼され、このダンジョンを調査している。我々に戦闘の意志はない。そちらが冒険者なら手を挙げて示してくれ」
冒険者……、そうだ、俺は冒険者だ。
彼らに杖を持っていない方の手を挙げて示す。
「感謝する」
彼らも武器を下ろした。
良かった。……いや、良くない。
俺は、俺の力を測るために近くへ来たんだ。
「ところで二つ尋ねたいことがあるが良いか?」
冒険者達は俺の近くまで歩み寄ってくる。
「かまわん。訊いてくれ」
「なぜそのようなローブを羽織るのか? できれば顔を見せてくれないか。それと名前も教えていただきたい」
「恥ずかしい顔と名前をしている。遠慮させてもらおう」
「それではもう一つ」
冒険者達はさらに歩み寄る。
「入口の監視員から、現在攻略中の冒険者は我々以外いないと聞いている」
なんだ。
思ったよりも食えない奴らだな。
「死臭がすごいぞ。貴様は何だ?」
冒険者達が再度武器を構えた。
死臭はおそらく俺じゃなく、ローブのものだと思われる。
〈聖なる光よ。我らに加護を〉
ヒーラーが全員の武器と防具に属性の付与をかける。
剣、斧、矢がそれぞれ白の光で包まれた。
アンデッドには鉄板の光属性だ。効果は絶大と言える。
まだまだ人間のつもりなのだが、体はアンデッドでもある。当たるべきではないだろう。
斧使いが正面から俺に襲いかかり、さらにその後ろからは、剣士と弓使いが左右へ分かれ、俺を横方向から挟み撃ちにしてくる。
おそらく後ろに逃げようとすれば光魔法が追撃に来る。
なるほど手慣れてはいる。
相手がただのモンスターなら有効だろう。
しかし、俺も冒険者だった。冒険者だったか?
とにかくその手の攻撃は読めている。
対応も簡単だ。
前衛の三人を同時に攻撃すればいい。
〈闇よ。三方の敵を叩け〉
槌上の黒い塊が三人の戦士を叩く。
付与された属性などお構いなしに三人を吹き飛ばした。
「なっ、馬鹿な!」 〈光よ。仇為す敵を――〉
「遅いな」 〈闇よ。貫け〉
闇の矢が詠唱をしていた魔法使いの肩を貫いた。
詠唱をしていて違和感を覚えた。
……これ、口にする必要あるか?
考えれば無論あるということになるのだが、意識はそうではない。
俺ならできる、そんな気がした。
〈闇よ。我が身を包め〉
闇の最高位魔法を詠唱する。
心の中でだ。
俺の額を矢が通りぬけた。
「何!」
倒れながらも俺に矢を放った弓使いが驚愕の表情を見せている。
お前も驚いているが、俺も驚いてるんだぞ。
ちなみに闇の最高位魔法は闇との同化だ。
攻撃を避けるのには大いに役立つ。
持続が短いのが欠点だがな。
まさか、詠唱を口でせずとも心の中で思うだけで発動するとは。
これは人間のときにはできなかったはずだ。この体になったことがやはり大きいだろう。
〈闇よ。その形骸を顕せ〉
すぐさま、側に使い魔が現れた。
その大きさは軽く俺の身長の倍はある。
それが一体、二体、三体と徐々に増えていく。
やはりそうだ。
心で思うだけで魔法が発動する。すごいな俺。
「ば、化物だ」
化物?
「ギース。走れ! 俺たちが時間を稼ぐ! この化物を放っておいてはいけない! 一刻も速くギルドに伝えなければ。俺たちは時間を稼いでから逃げる」
俺が化物?
そうだ。この強さは化物だ。本物の力だ。
この力があれば俺たちは間違いなくなれる。上級なんて目じゃない。
超上級の化物に俺たちはなれるんだ。
俺たち……?
あれ? まただ? おかしいな。
俺たちって俺と誰だ。それに俺がなりたかったのは化物だったか。
……違う、俺は――。
俺が我に返ると冒険者達もこちらを見ていた。
そうだ。俺も同じ冒険者だ。……あれ?
なぜ彼らと敵対しているんだ。
さっさと帰ろう。
俺は彼らに背を向けて霊園の奥に向かう。
「王よ。奴らはどうされるのです」
「ほうっておけ」
「しかし……」
「知らないのか?」
どうせ知らないだろう。
やはり骸骨はわからないと首をかしげる。
「生き延びて食う飯はな。最高にうまい」
霊園の奥に戻り、飯を頼もう。
酒はジョッキで、つまみ山盛り二皿はいるな。
あとはあいつと、他におまけがいてもいい。
きっと楽しい夜になる。