いつもの二人 - it always is harder to be left behind than to be the one to go -
サブマの街は今日も賑わっていた。
わずか一年ほど前では信じられない人数だ。
祭りの時ですら、ここまでの人がごったかえすことはなかった。
東からはカニスの薬商人。
北からはモノマキアの武具商人。
南からはドクサの絹織物がやってくる。
さらに西からはアステリの星導教信者も通る。
多くの冒険者や旅行者もこのサブマの街を通過していく。
数ヶ月前まで、訪れる人の数に街の収容人数が追いついてなかった。
それも今ではだいぶ落ち着き、街から都市への拡大が順調に進んでいっている。
喧噪からやや外れたところに小さな事務所があった。
事務所の前には看板が立っており、「ザムルング商会 サブマ支部」と書かれている。
「ステラ。デクスの奴はいないのか?」
「霊園に行ってる。そろそろ帰ってくるはずだけど何か用事?」
事務所を訪ねてきたひげ面の男に、ステラと呼ばれた女が返事をする。
サブマ支部の構成人数はわずかに五名である。設立当初は三名だったので二名は増えたが、それでも少ない。
「ああ、そうか。いつものやつか。リッチが消えてから、もう三ヶ月か。律儀だな。……いや、急ぎの用じゃない。また来るよ」
男は入口から姿を消した。
いつものやつとは、リッチの再出現の確認である。
「『もう』三ヶ月? 『まだ』の間違いじゃないかな。……リッチ様、早く戻ってきてください」
ステラが書類から目を逸らし、天井を見上げて独りごちる。
アレティの大鎌にリッチが首を差し出してから、二ヶ月が経っていた。
すぐに復活すると思われたリッチはいまだにリポップしない。
アレティたちも五日ほどはサブマの街に留まっていたが、また東へと出て行ってしまった。
ステラや相方のデクスも、商会の仕事に追われる日々を過ごしている。
どれだけ忙しくても、二人のどちらかが毎日必ず霊園に行ってリッチの復活を確認する。
ステラは「今日こそはリッチ様が復活されるはず」と過ごし、すでに三ヶ月が経ったのだが、一日一日がとても長く感じられていた。
ステラの耳に足音が聞こえてくる。
それもとても急いだ様子の足音だった。
「たいへん、たいへん、たいへんだ!」
姿が見える前から、デクスの声が聞こえた。
その慌てようで、ステラは「ついに」という思いが芽生える。
席を立ってデクスの登場を待った。
「ステラ! たいへんだ!」
「リッチ様が復活したの?!」
現れたデクスに間髪入れず尋ねる。
「リッチ様はいなかった」
「……何が大変なの?」
「骸骨さんが新しい曲を作ってた!」
「あ、そう」
ステラはすぐに椅子に座り直し、事務仕事の続きをこなしていく。
デクスは骸骨の曲のファンなので、いちいち反応が大きい。ステラは大げさな反応に辟易していた。
ちなみにスコタディ霊園は、リッチの復活がなくなってから特殊保護ダンジョンとなっている。
特殊保護とは、要するに挑戦が不可能な扱いだ。
無論、アンデッドが外に出てくれば対処するが、今のところ骸骨と屍人がコントロールしており大きな混乱はない。
それにリッチは復活していないが、各地に広がった霊園は今のところダンジョンとして認識されている。
下手に冒険者が挑み、霊園が消えるとより大きな問題が発生すると考え、ギルドが特殊保護認定した。
挑戦者は肩を落としているが、今のサブマの街では依頼が事欠かないので、別のダンジョンを求めて、依頼をこなしつつ四方へ移動していく。
ここを拠点として、四方に移動する冒険者も増えてきているくらいだ。
「指示もまだ来ない」
二ヶ月ほど前に、会長から各支部に一斉連絡があった。
「しばらく反応できないから各支部で、好きに動いておいて」というものだ。
こういうことはよくあることらしく、本当にここ二ヶ月は会長との連絡が完全に途絶えていた。
「そんな焦るなって。なんとかなるっしょ。俺、約束があるから」
デクスは、ステラの返答も待たず出て行ってしまう。
先ほど尋ねてきた男との話だろう。都市構想のため、必要な施設の聞き取りや洗い出しをしているようだ。
「おぉい、お茶が入ったぞ。ちょっと休まんか? 根を詰めすぎると良くないぞ」
奥からガマ爺と呼ばれる老いた男がステラに声をかける。
だいたいお茶しか飲んでいない老人だが、これでもサブマ支部の支部長だ。
主に情報収集、折衝、御用聞きとこのサブマで起きていることは何でも知っている老人である。
「お茶ばっかり飲んでないで、ガマ爺も事務仕事を手伝ってよ」
「儂は小さい字が読めんでなぁ。ほれ、久々に会長から手紙も来ておる。読んでみてくれんか」
「それを先に言ってよ」
すぐさま席を立ち、事務所の奥へ行く。
クッションの付いた椅子に座り、テーブルに置かれたお茶と菓子、本題の手紙を確認した。
中身は紙一枚。
それに文字は二行だけ
“ リッチくんはまだ復活してないらしいね。
今度、近くに行くから見てみる ”
ステラはガマ爺を見つめる。
「これだけ?」
「そうじゃよ」
老人はお菓子をポリポリと噛んでいる。
咀嚼せずひたすら噛み続けているので、ステラは不気味さを感じ席を立った。
さらに一ヶ月が経った。
時間があったのでステラとデクスは二人で霊園を訪れた。
珍しいことに先客がいる。
現在はギルドが立ち入り禁止措置をしており、原則は誰も入れない。
ギルド員以外で入れるのは、ステラとデクス、チューリップ・ナイツ、それにアレティたちくらいだ。
月一周期で演奏会をしているので、そのときだけは一般の人も入ることができる。
先客は女性だった。
中央園のリッチがよくいた場所の近くに座っている。
骸骨が北園で音楽を奏でている。
曲を静かに聴いているのだ――ステラはそう見えた
ところがステラの予想は外れた。
女は墓石を椅子にして寝ているだけだった。
「あの……」
ステラが声をかけるが、女は起きない。いびきをかいて寝ている。
冒険者なのは見た目で明らかだ。
剣を鞘にも入れず、地面に刺している。
「ふぁっ!」
何かに起こされたかのように、突如、女が目を覚ました。
二人も女の反応に驚き、体をびくつかせる。
「もしかして寝てた? ……あれ? 誰だ?」
女が二人に気づいた。
涎を腕で拭い、二人をぼんやり見る。
「私はステラ。こっちは――」
「デクスっす」
はぁ、と女は頷く。
まったく二人には興味がない様子だった。
「ここは一般の人が入れないはずなんですが……」
「そうらしいから、わざわざ頼んで入れてもらった」
淡々と答えたが、そんなことができるとなると女が冒険者としてどれほどのものかおおよそわかる。
少なくとも中級や上級ではない。超上級以上だろう。もしくは特殊な能力かコネがあるのか。
「もう用は済んだらしいから私は行く。ボスのいないダンジョンにいても仕方がない」
「リッチ様はいなくなっていません」
ステラは思わず出てきた言葉に、自らが驚いていた。
「すみません」
「いや、私もそうであって欲しい。貴重な超上級だからな」
女はそれだけ言い、名前も告げずに立ち去った。
けっきょく女が何者か、二人にはわからなかった。
二人が謎の女の存在を忘れた頃、やや厚めの封筒がサブマ支部に届いた。
ただの封筒ではない。真っ黒な紙で折られた封筒だ。
すぐに会長からのものだと二人もわかる。
「二人にだな。ここで読んでおいき」
宛名は二人の名前になっており、ガマ爺はそのまま二人に渡した。
言われたとおり、ガマ爺の横で二人は封筒を開ける。
入っていたのは黒色の手紙が三枚と、いくつかの資料だった。
資料はひとまず置いておき、二人は黒い手紙の一枚目を手に取る。
“一月ほど前に霊園を訪れて調べました。
リッチくんの魔力はごくわずかしかありません。容易には蘇らないでしょう。
俺個人の見解では、もう復活はしないと思います。魔力の自然減衰が魔力増加に勝り消滅します。
仮に何かの作用があって蘇るとしても、数十年単位ではなく数百年単位の話です”
「復活しない……。復活しても数百年……」
ステラは気が遠くなった。
なんとなくまた会える程度に考えていたが、これでは会えそうにない。
二人は続きを読んでいった。
“ところで、リッチくんは今のサブマに必要でしょうか?
俺としては、彼はもう自分の役割を果たしたように思えます。
君たちに未来を見せ、街に希望を与え、四方への道を築きました。
彼は夢をどちらかに定めるため首を斬らせましたが、仮に復活しても夢は叶いません。
人として復活するころにはパーティーの皆さんは死んでます。数百年ですからね。
リッチとして復活しても、闇魔法で極限級ダンジョンに達することは難しいでしょう。
極限級ダンジョンの基準は一般に公開されていませんが、リッチくんではいろいろと届かないでしょうね。
どちらにしても、復活すればリッチくんにとって悲劇になります。
このまま眠らせてあげることが、優しさというものではないでしょうか?
ちなみ俺個人としても復活しない方が好みです。不安定要素が減りますからね。
二人もリッチくんの存在にとらわれず、思ったままに行動できるようになります。
リッチくんとの思い出を胸に、それぞれ成長を果たしてください”
二人はまた、ここで読む手を止めた。
「どう思う?」
デクスがステラに問う。
「あんたはどう思うの?」
「俺は眠らせてあげるべきかなって」
予想外の回答にステラは口を開けた。
デクスはステラと同じ思いを抱いていると考えていたのだ。
「私は、リッチ様に復活して欲しい。たとえどれだけかかろうと」
「でもさ。復活しても悲しいことになる。それならこのまま目覚めない方がいいのかなって」
二人の間に亀裂が入ろうとしていた。
「まだ続きがあるんじゃろ。読んでみてくれんか」
亀裂が目に見えるよりも先にガマ爺が手紙の続きを催促する。
二人にお菓子を勧めつつ、自らも口をもごもごと動かしている。
“俺としては、消えてくれた方がありがたいのだけれど……、
残念ながら俺の相方は、リッチくんの消滅を望んでいません。
超上級ダンジョンに挑みたいんじゃあ、とふごふご言ってます。
そのため、リッチくんの復活方法(仮)を二枚目以降に記しておきます。
成功するかはわかりませんし、成功してもどう復活するかが俺もわかりません。
リッチくんは君たちのことなど忘れて、ただの腐れ魔道士に成り下がることもあります。
それと、やるにしても俺は諸事情があって近くにいたくありません。
少なくとも手紙が届いてから、十日してから実行してください。
もちろん実行するなら最後まで責任を持つように。
ここからは業務命令になります。
やるかやらないかはこの時点で決してください。
すなわち二枚目以降を読むか、読まないかです。
二枚目以降を読むだけというのなしです。
おそらくそれが一番問題になりますからね。中途半端は嫌いです。
ちなみに実行すれば、より後悔することになることも十分にありえます。
やらないならこの手紙は捨ててかまいません。
どうせガマ爺が横で聞いているのでしょう。
やるか、やらないかを二人に決めさせてやってください。
二人が決めたなら、後は貴方のやり方で好きにしてかまいません。
老骨に鞭打つようで申し訳ありませんが、どうかよろしくお願いします。
さて、もう一度だけ書きますが、俺は実行しない方が好みです。
リッチくんの話はここらで終わらせて、君たちの話にしていきませんか?”
最終行に「みんなの会長より」と結ばれ、一枚目の手紙が終わる。
「終わりのようじゃな。さて、儂も仕事をしよう。お前らはどうするんじゃ?」
二枚目以降を読むのか、読まないのか。
選択を今ここで決しろとガマ爺は迫る。二人は答えを先延ばしができないと感じた。
「読まんのなら儂が手紙を廃棄しよう。会長が書いたように、ここ数ヶ月でお主らはリッチ殿がおらんでも十分に考えて行動できることがわかった。この先は、リッチ殿がおらんでも生きていけよう。復活しないと割り切り、未練無く生きることができよう。……リッチ殿も復活せんほうが幸せかもしれんしな」
ガマ爺はゆっくりとお茶を飲む。
口直しのようだった。
「読むのなら、何が書かれていようと最後までやるんじゃ。『やって後悔するよりも、やらなくて後悔することの方が辛い』という言葉があるが、そんなことはない。やらずに後悔しておいたほうが良かったことが儂自身、幾たびもある。特にダンジョン関係ではそうじゃ。何人もの友を亡くしたからな。あのとき止めておけばと思うことも多い。死んだ仲間が夢で出てくることもある。だが、その逆もあることを儂は認めよう。やらずに後悔したことも多々ある」
お菓子をぽりぽり食べながら言うので緊張感は薄い。
「ガマ爺はどっちが良いと思う?」
「儂は以前と同じじゃ。お主らの選択を尊重しよう」
ガマ爺は良いも悪いも言わない。
二人の選択を支持すると言うに留めている。
それぞれが意見を言い合った。
デクスは見ない方が良いと言った。
理由は会長の書いたとおりだ。
どうなるかがあまりにもわからない。
それにリッチが復活したところで、良い結果になるとも限らない。
もっと言えば、リッチがいなくなったことで彼自身の行動が変わったこともある。
以前はもっと無鉄砲だったが、最近はリッチの影響を受けてか彼も落ち着きが出てきていた。
ステラは逆だった。
リッチがいなくなったことで落ち着きがなくなってきている。
彼女の意見を必要としている人において行かれてしまった。さらに、もう一人も自分から離れていっている錯覚に陥っている。
自分だけが前に進めていないんじゃないかと焦りを感じていた。
しかし、ステラの良いところはそれを自ら自覚したところにある。
「デクスの言うとおりね。リッチ様がいなくてもやっていかないといけない」
あくまで理知的に自らを戒める。
結論は出た。
手紙は読まない。
リッチ様の復活は行わない。
二人はそれぞれの道を、自ら切り拓いていく。
こうして手紙はガマ爺の手元に置かれた。
ガマ爺が手紙を手元に引き寄せる。
そこへステラの手が伸び、手紙を掴んだ。
「わかってます。これが愚かな選択だと私自身がよくわかっているんです。――それでも私はリッチ様に復活してもらいたい」
その目には涙が浮かんでいる。
「デクスやリッチ様のような夢が、私にはまだありません。夢というものが私にはまだよくわかりません。日々が穏やかに過ごせるならそれで良いと思えます。でも、そんな私でも夢を持ってそれに向かって走ることのできる人が眩しく見えます。最後に見たリッチ様は眩しかったです。馬鹿と言われようが、自分勝手と言われようが、決めた道は最後までやり抜くぞという力を感じました。私はその眩しい光を、私の手で消したくない」
ステラはもう一度デクスを見つめる。
先ほどまでの理知的な目はもう捨てている。感情論だ。
そのステラの顔を見てデクスは笑う。
「何?」
「いや。もうちょっと止めるのが遅れたら、俺が止めようかなと思ってたから」
「……あんたはリッチ様の復活に反対じゃないの?」
「俺はリッチ様が好きだし、あの霊園が好きだし、骸骨さんの音楽も好きだよ。都市にも連れて行ってもらえたし、俺の夢への架け橋もかけてくれた。俺達の背を押してくれたは間違いなくリッチ様だよ。しかも、今度はダンジョンにも連れて行ってやるって言ってくれた。このまま会えないのは困るなぁって」
ステラはますますわからないと首をひねる。
「じゃあ、なんで反対してたの?」
「いや。ステラがすごい迷ってたからさ。俺が反対意見を出す度に顔色が悪くなるのが、なんかおもしろくって。リッチ様が復活したときの土産話にしようかなって――」
ステラが湯飲みを投げた。
湯飲みはまっすぐ飛び、デクスの頭に直撃し割れた。
それどころか、デクスにつかみかかり、そこでようやくガマ爺に止められた。
「ガマ爺、止めないで! こいつを! こいつをッ!」
本気で切れているステラをデクスが笑う。
「それだよ! それくらい自分を見せていかないと! いっつも一歩引いてるからさ。もっと自分を押し出していったほうが良いよ。俺はリッチ様を復活させたい。もっと話がしたいんだ。それにリッチ様の夢についてもまだ話ができてなかったから」
徐々に落ち着いてきたステラを、ガマ爺が椅子に着かせる。
「最近の若いもんは、気が早すぎる」
やれやれと首を振った。
「懐かしいものじゃ……昔は良かった」
二人がその台詞を聞いてクスリと笑った。
かつてリッチがしていた話を思い出していた。
手紙が再び二人の手元に移った。
一枚をめくり、二枚目の手紙を上にする。
“これは二枚目だから、一枚目から読んでね”
一番上にそう書かれた紙の文字を追っていく。
“読むことにしたみたいだね。
本当に初めから書いていくことにしよう。
俺が初めてあのダンジョンに行ったのは、実はもっと前なんだ。
リッチくんが出現したばかりの頃かな。で、不思議なことが二つあった。
一つ目はボスの存在。二つ目は君たちの大好きなリッチくんの存在だ。
実際はその間にもう一個あるから三つだね
一つ目の、ボスからいこう。
ダンジョンには必ずボスがいる。
知らないと思うけど、ボスは複数いるところもある。
ラビリンス型の場合は、一部屋に複数体がいて個体差も大きいことが多い。
でもね。フィールド型の場合で、複数いる場合は基本的に個体差が極めて小さくなるんだ。
ほぼ同個体と言って良い。あの霊園はリッチくんがボスになる前は、四体の屍人がボスだって聞いた。
俺が見た限りだと、あの四体は元は別人とあって個体差がかなり大きい。
最初は四体が代わる代わるで、ボスになっていたのかなと思った。
あるいは、本当のボスが別にいるんじゃないかってね。
これが一点目。
二点目の前に、一点目と二点目の中間点の話をしよう。
リッチくんは首に傷痕があったよね。間違いなく死因となった傷だ。
首ってのは胴体より細いけど、上手く斬るのは技術がいる。
傷を見れば、斬った奴の腕前がすぐわかるもんだよ。
あれは骨の間を一刀のもとに斬られていた。
見事な腕前だ。剣を持っていた屍人ごときの腕前では断じてない。
今の剣なら力業できるかもしれないが、当時の剣は冒険者から奪う前のなまくらだ。
あの屍人の腕前に、なまくらを渡してもあの傷は絶対にできない。
これが中間の問題――誰が首の切断をしたのか?
二点目に移ろう。
みんな大好きリッチくんは、「リッチ」なんだよね。
この俺から見ても完璧にリッチだった。リッチで、ボスで、モンスターだったんだよ。
ところで二人はどうやって人がリッチになるか知ってる?
まさかリッチくんが言ってたとかいう――、
「俺はそこそこの魔法使いで、未練を残して死んだからリッチになった」とか信じてないだろうね。
これ、大嘘だからね。そんなのでリッチになってたら、この世界はリッチに支配されてるよ。
俺はこれを最初に聞いたとき、「そんな訳ねぇだろ。バァーカ!」って心から思った。声に出したくらいだ。
俺が知ってる中で一番簡単な方法でも、リッチになるには特殊ドロップが三つはいる。
さらにそれを五年以上掛けて加工して、ようやく成れるのがリッチだ。
わかる? リッチは成り下がるものじゃなくて、成り上がるものなんだよ。
生前のヴァスィアくんにそんな深い知識があったかな? どう考えてもないよね。
さらにおかしいのはリッチになってからだ。どう見ても理性的になってた。
俺が知ってるヴァスィアという冒険者の印象とは違った。根本は馬鹿だったけど、落ち着きを纏ってた。
君たちに接していたリッチくんの態度も、過去の冒険者のころと比べて明らかに違ってたでしょ。風格があったはずだ。
はっきり言っておくけど、馬鹿と品行は死んでも治らない。ましてやリッチになったところで治るわけがない。
断じてリッチくんが言う、「死んだことで自分を冷静に見られるようになった」なんてことはない。
それは無知の意見だ。真に受けるべきじゃない。ふーん、くらいに聞いておきなさい。
それでもあんなふうに落ち着きが出ているのなら、答えは一つだ。
種族特性によるものだろう。
正式名称は俺も知らないけど、彼は「リッチ」じゃなくて「リッチキング」と呼ばれるに値するものだろうね。
それなら「王の風格」って特性が付いて、ああなったとしてもおかしくない。むしろ納得できる。
このあたりはよくわからなくても良い。
ただね。これが正しいとすると余計おかしなことになる。
リッチですらなるのが難しいのに、リッチキングとなれば、もはやなる手段がさっぱりわからない。
しかも冒険者からリッチキングになるのにかかった期間がたったの数日。
リッチは儀式を始めてから早くても十日かかるんだ。
文字の通りだね。
あまりにも神がかってる。
これが三つ目の疑問になるね。
ここまで書けば何が言いたいかはだいたいわかったよね?
あのダンジョンの真のボスはリッチくんじゃないよ。
リッチくんを遙かに上回る異常なボスがいる。
報告と実地調査で俺は正体を確信した。
真のボスは――例の骸骨だ。”
二枚目の手紙はここで終わった。
机に並ぶ三人の理解を置き去りにして、手紙は三枚目に移ろうとしている。




