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骸骨じゃない。……じゃあなんなんだよ

 例の冒険者二人を無事に帰してから、俺は現状の把握に努めた。

 今さらだが、俺はアンデッドになっていた。ほんと今さら。


 体を斬っても痛みすら感じない。

 何なら腕を千切ってみても、くっつけとけば治る。

 倒されたら復活するのか試したいところだが、そこまでの勇気がない。


 次にダンジョンの外に出られるか調べた。

 出られなかった。目には見えないが、ある領域を越えると意識に抵抗が生じた。

 この先を越えてはいけないという、第六感的なものが生じるのだ。

 こちらはまだ希望がある。今は出られないだけとも言える。


 俺が抵抗に負けない意識を持てば出られる日が来よう。

 現に俺はボスがダンジョンから出た案件をいくつか知っている。


 もしもここから出られるならだ。

 俺は一気に上級、いやソロで超上級だってあり得る。

 遠慮は止めよう。もはや超上級を超える極限級すら手が届くかもしれない。


 リッチとなり、意識は抵抗を感じていたが、別に人の時と変わったことはない。

 むしろ魔法の力が強まり、他のマイナスを覆すほどのプラスだ。

 この力があれば俺はもっと高みへ至れる。


「俺の闇であいつと――」


 ……あいつ?

 あいつとは誰だったか。


「お呼びですか」

「呼んでない。お前じゃない」


 地面から湧き出た骸骨を地面に戻させる。


 なぜかスッキリしないが、思い出せないようなことだ。

 どうでもいいことなのだろう。



 しばらくして、またしても冒険者がやってきたと伝令がきた。

 最初の二人組を帰してから挑戦者が増えた気がする。


 いつものように骸骨共に襲わせて実力を測る。

 伝令が返ってこない。意識すると骸骨共があっけなく倒されていた。


「前の奴とは違うな、こいつら」


 ちょっと骸骨を上手く動かせば初級程度なら手玉に取れる。

 殺すことなく初級冒険者を帰しっぱなしだったので、ついに中級がやってきたようだ。


「やってみるか」


 リッチとしての自分の闇の力が実際にどれほどのものか測ってみたかったのだ。

 ここにいる骸骨達では人間のときの俺ですら相手にならなかったから、きちんと計る尺度にはならない。


「お呼びですね」

「いや、まったく呼んでないから」


 おかしいな、と呟きながら骸骨は地面に帰っていく。

 おかしいのはお前の頭だよ。


「しかしな……」


 このままの姿ではまずいか。

 リッチと言えど、ほぼ人の姿のままである。

 首に傷痕があるのと、ちょっと匂うこと、目の色が反転していること以外は人間だ。

 正体がばれない方がいいだろう。バレると冒険者に戻ったとき不利になる。


「何か羽織るものがいるな。ローブがあれば良いが――、おい」


 ………………出てこねぇ。


「おい、骸骨(スケルトン)


 きちんと名前を呼んでみる。

 呼んでから気づいたが、これは名前じゃない。種族名だ。


「はいっ! ただいまっ!」


 骸骨は出てきたが……、何か違う。

 まず声が違う。なんか快活だ。骨格も違う、気がするがよくわからない。


「お前、いつもの奴じゃないよな」

「やはり私をお呼びでしたか」


 後ろから当然のように這い上がってくる。


「そんな気がしていたのです。私をお呼びだと」

「それなら最初の呼びかけで出てくるべきだったな」


 とりあえず要件を話す。

 頭からすっぽり覆うローブがあるかどうかだ。


「ローブですか。腐れ包帯(マミー)のラプティスがそういったものを集めておりました」

「そいつをここに呼べ」

「そんなこともあろうかと、すでに呼びつけております」


 ほー、やるじゃないか。

 真面目に感心した。もしかして先ほど呼応に遅れたのはこのせいか。


「来ました」


 振り返れば、すでにこちらへ向かう姿がある。


 マミーが四体。

 えっさほいさと木棺を肩に乗せてやってきた。


「王様、お待たせ致しました。目的の品は中に入ってます」

「いやいや、俺が欲しいのローブだよ。棺桶のデリバリーとか頼んでないから」


 ご覧になっていてくださいとマミーの一体が軽い口調で返事をした。

 俺の横に棺をドスンと落とす。調子は軽いが、棺は重そうだ。

 これまた重そうな蓋をずらして開けていく。


 蓋が開かれ、中には骸骨が安らかに仰向けになっている。

 俺は蓋に手をかけそっと閉じる。思ったよりも蓋は軽かった。ボスになって力も増したからなのかもしれない。


「おい、なんで中にお前の仲間が入ってんだ?」


 よく喋る骸骨を睨む。


「否。違います。闇の王よ。よくご覧になってください」


 至って真剣な声で返された。

 何か勘違いをしていただろうか。


 蓋をわずかに開けて中を見る。

 やはり骸骨との対面だ。説明を求めるべく喋る骸骨を見上げる。


「もうおわかりでしょう」

「わからんよ。なんでそんな自信満々なんだ。お前と同じただの骨じゃないか」


 骸骨はそんな馬鹿なと額に手を付ける。

 マミーたちは自身に巻かれた包帯をかきむしった。


「これは死んで間もありません。ただの白骨体です」

「見ればわかる」


 そりゃそうだなとしか言えない。


「まだモンスターではないということです」

「ああ、そういうことか」


 誤解はわかったが、だからなんだという話である。


「あと数年もすれば立派な骸骨(スケルトン)となり我らの仲間となりましょう。臣には見えます。遠くない将来、この者が我らとともに立ち、王の命により戦う姿が――」

「ローブはどこにあるんだよ。ローブ。ローブだよ。俺が欲しいのはローブなの」


 骸骨とマミーは互いに顔を見合わせる。


「その白骨体が纏っているではないですか」


 再度、見下ろすとたしかに纏っていた。

 真っ黒で、思った以上に、求めていたローブそのものだった。


 しかしだ。

 お前ら、これを俺に着ろと。


 正気か?

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