表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/48

日は昇りゆく - the most important thing is to enjoy your life - to be happy - it's all that matters -

 決戦を間近に控えた早朝である。

 いつもの二人が誰よりも早くやってきていた。


「おはようございます。リッチ様はすでにご存じかと思いますが……」

「チューリップ・ナイツのことだろう?」


 二人は「はい」と頷く。

 どちらも表情がいまいち定まらない。


「昨夕に到着したとアンデッドから聞いた。間違いないか?」

「夜に、三人が別々に私たちのところに挨拶に来てくれました」


 なんで別々なんだ。一緒にいけば良いだろうに。

 仲が良くないってのは本当だったんだな。


「今日の昼前に挑まれるようですよ」

「そうか。そのためにわざわざ朝早くに来てくれたか。礼を言う」


 二人は手を振って「気にしないで」と伝えてくる。


「それで、その、これは?」

「全力で迎撃するからな。その準備だ」

「でも、これって楽器っすよ? 戦闘をされるんすよね?」

「ああ」


 二人はわかっていない様子だ。

 無理もない。実を言えば、俺もわからなくなっている。


「暫定の超上級ダンジョンとして、超上級パーティーを全て返り討ちにした。……返り討ちというのは正しくないな。転移もどきで散り散りにして各個撃破していったというべきか」

「私はあれで良いと思っています」


 少し自虐が入っていたようだ。

 敏感に悟った女が、すぐさまフォローをしてくる。


「正面から待ち構えるだけが、戦いではありません。あの戦いはリッチ様達の強みを存分に発揮したものでした。リッチ様達が広く切り開いていった霊園と、同じく目覚めた転移の力を使っているのです。全てリッチ様達のお力。敗れた彼らの対策不足だと思います。気になさることはないかと存じます」

「俺もそう思う。補足するとすれば、俺達の中には、お前達やその他大勢の助力も含まれていることだ」


 何度もそうだと自分に言い聞かせた。

 俺達の使えるものを全て使っていった結果だ。

 その使っていったものも俺達の力で手に入れたもの。


「それでもな。あのやり方は、――楽しくないのだ」


 チューリップ・ナイツ相手でも、散り散りにしてから各個撃破は通用する。

 撃破はできなくても散り散りにするだけで、戦いを先送りにすることはできる。


「逃げることは簡単にできる。時間稼ぎだっていつまでも可能だ。アンデッドだからな。――だがな。どれも俺達は楽しいと思えない。心にしこりが残り続ける。俺はチューリップ・ナイツと現時点での決着が付けたいのだ。あのとき通用しなかった俺の闇の全力を、あいつらにぶつけたい。あいつらとの戦いは作業的では駄目なのだ。全力を賭し、心を燃やし、大いに楽しむべきだ。悔いの残るものであってはならない」


 女は笑わないが、男は笑っている。

 何がおかしいのだろうか。


「三騎士の皆さんもそれぞれ同じようなことを言ってたっす。リッチ様は逃げることなく、正面から受けてたつだろうと。それを倒して私たちは極限級に至る、と」


 俺も笑う。

 やはりあいつらもそうか。

 それならきっと楽しい戦いになりそうだな。


「すみません」

「どうした? お前は反対か?」

「いえ。それもまたリッチ様らしくて良いかと。リッチ様が私たちに言われたように、リッチ様がどうされたいのかが重要かと思います」


 俺は戦いたい。

 それも後ろ向きな戦いではなく、前向きに戦っていきたい。


「――ただ一点だけ。話を戻すのですが、なぜ演奏の準備をされているのです?」


 それな。そういや、その話だったな。

 いくつか理由はあるのだが、それが勝機が一番高いからなんだよな。

 骸骨にどれだけ見事な低位をかけても、奴らの属性付与マシマシの全力を前にしては足止めすらできない。

 それならもういっそ外してしまうかな、と思うに至った。


「お前らは見ていないが、俺は闇魔法の深化に三度ほど成功している。これにより奇跡を二度起こしている。一度目はお前らも知っている。南の奇獣戦士だ。タレンドを人の姿に戻すため発動させ、白騎士がそれを形にした」


 二人は「おお!」と驚いている。


「やはりあれはリッチ様の力によるものだったのですね!」

「そうだ。そして、二度目は西の星雲原野ガラクスィアスで、隠し条件の発生現象から脱出する際に発動させた。黄騎士が見事に発揮した」

「……その力は、リッチ様以外の誰かに発動し、行使させなければならないのですか?」

「ああ。俺自身への発動はまだ成功していない」


 二人もどう反応して良いのかわかってない様子である。

 少し間を置いてから女が気づいたようだ。


「発動は三度、奇跡は二度と仰いました。三度目の発動はもしや」

「正解だ。アンデッド共、骸骨だな――に付与が成功した。よい踊りを見せてくれた。奇跡はおきなかったがな。発動させられたことが奇跡とすれば三度目とも言える」


 あのときは本気でふざけているのかと思った。

 魔力が切れていて怒る気力も湧かず、ただぼんやりと薄い闇を纏った骸骨の踊りをみるだけだった。

 キレは抜群だが、それ以上のものはない。


「はっきり言おう。全力のあいつらとまともな正面決戦など今の俺達にはできん。瞬殺される。しかし、俺は奴らとは正々堂々と全力を尽くして戦いたい。それを果たすにはこれしかないのだ」


 もはや賭けと言っても良い。

 問題はあちらがきちんと理解してくれるかどうかだ。

 間違いなく赤騎士はぶち切れる。何も知らずにやられたら俺でもキレる。ふざけているのかと。


 二人も俺の意志は理解はしてくれているが、三騎士の反応が読めている様子だ。

 正面決戦をしに来たら、演奏の準備がされていたとか理解を超えるよな。


「リッチ様とチューリップ・ナイツの決闘に割って入る差し出がましい申し出なのですが、私たちを立会人にしてもらうことはできませんか?」

「どういうことだ?」


 男も女に同じ質問を目で投げかけている。


「私たちで事前に彼女たちへ説明します。リッチ様がなぜこのような舞台を設けられたのか、何をなさろうとしているつもりなのかを。あるいは、戦いの前にリッチ様の話を聞いてもらうようお伝えします。いかがでしょう?」


 悪くない提案だ。

 戦う気満々で来て、楽器を見れば戦意が削がれるだろうからな。

 俺も全力で戦うためには云々かんぬんと、説明に余計な心労を煩うことがなくなる。


「頼もう。いくつか決闘に際しての補足説明も付け加えるか」


 二人にチューリップ・ナイツへの伝言を頼む。


 先に話した演奏の必要性について。

 戦闘の開始は俺が骸骨共に闇の深化を行い、演奏が始まってから。

 できれば最初は軽めの戦闘にして欲しい。本当に効果が出るかも賭けだ。

 戦闘の領域は中央園に絞ってもらう。代わりに俺は中央園外へは逃げずに戦う。

 できれば楽器も壊さないで欲しいという旨。あの楽器は思った以上に高い。壊されると金銭的に困る。


「それくらいっすか?」

「そうだな。もしも演奏が終わるまでに倒せなかったら俺の負けで良い。その後はどうしようもないからな。――それと、演奏が終わるまでに俺が倒れていても、演奏は最後まで聴いてやってくれと伝えてくれ。そのまま俺達から奴らへの極限級到達祝いとする。骸骨にはすでに伝えている」


 二人はわかりましたとだけ短く返した。


「それでは」

「待て。大切なことを聞いていない」


 立ち上がり背を向けた二人を止める。


「お前らはどうする? 説明だけで役目を終えるのか、それとも立会人を務めるのか。務めるなら席くらいは作っておくぞ。危険だから東園の端にある土を盛ったところになるがな。いつぞやと同じ位置だ」

「俺達が見てても良いんすか?」

「何を馬鹿なことを言うか。造園に始まり、闇の属性付与、周辺地域への侵攻、超上級への昇格、このたびの決闘の説明役と、お前ら二人がこのダンジョンに果たしている役割は極めて大きい。お前らには俺と三騎士の戦いを見届ける権利がある」

「ぜひ見たいです」


 女が即答した。

 男も遅れて答えた。


「ただ、決闘は相手もあることだ。三騎士にも聞いてみてくれ。奴らも嫌とは言うまいがな。骸骨らも観客が増えていた方が演奏のし甲斐があるというものよ。ただな。演奏が終わり、どちらが立っていても、勝者と演者を讃えてやってくれ」

「――はい」


 今度こそ、二人は立ち上がる。

 もう言い忘れたことはないよな。


「…………待った!」

「まだ何かあるのですか」

「お前は保護魔法を使えるのか?」


 ものすごく大切なことを忘れていた。

 三騎士は間違いなくかけているし、装備品に効果もありそうだ。

 しかし、この二人はそんな高価なアイテムなど持っていないし、保護魔法を使えるのかも怪しい。


「使っていないと骸骨共の演奏と霊体の歌で意識が吹き飛ぶぞ。前よりもずっと効果が強くなっているからな」

「使えません」


 女は全力で首を横に振っている。

 やっぱりそうか、聞いておいて良かった。

 フルでの詠唱を教え、発動を確認してから帰ってもらった。

 ちなみにきちんと効果が発動したのは女ではなく、男のほうだった。


 二人は立ち去り、俺達だけが残った。


 日は高さを増している。決闘の舞台を照らすライトのように。

次回:23日水曜の予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ