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防衛戦 - a game is not won until it's lost -

 困難は自ら挑むものであり、試練は向こうからやってくるものである。


 超上級になった俺へ、さっそく試練がやってきた。


 すなわち、数多の挑戦者である。



 俺達のダンジョンは暫定で超上級とされた。

 この暫定とは挑戦者にどれだけ堪えられるか試すものらしい。

 ギルドは最初に俺を倒したものへ、超上級ダンジョン制覇の証を与えるつもりのようだ。


 極限級を目指すものはこの証を二つ取得しなければならない。

 身近なチューリップ・ナイツはすでに一つを星雲原野ガラクスィアスで取得している。

 つまり、奴らが俺を一番に倒せば、今の時代に四組目の極限級パーティーが誕生することになる。


 逆に俺としては、暫定を確定にするため超上級パーティーを返り討ちにしていかないといけない。

 おそらく五組ほど返り討ちにできれば暫定は外れて、確定の超上級ダンジョンになる。

 苛烈な戦いが予想されるが、これを乗り切ってこその超上級だ。

 逆に、倒された場合は上級へ戻されること疑いない。



 こちらの戦力を確認する。

 まずアンデッド共だが、楽器を片付けさせ対冒険者仕様に変更させた。

 こいつらだけはと、信じていた屍人まで弦楽器を装備して演奏に精を出していたのはショックだ。


「王よ。全部隊、戦闘配置につきました」


 最近は俺の側を離れて、あっちこっちに行っていた骸骨も戻ってきた。

 何の武装もせず、骨だけの形で突っ立っている。こいつは号令係なので別に問題ない。


 これでいちおう戦える。

 闇の低位をかければ形にはなる。

 ただし、形で対応できるのは上級と、成り立ての超上級くらいだろう。

 ダンジョン攻略を専門にしている実力派の超上級相手だと、形だけでは到底戦えない。


 チューリップ・ナイツは間違いなく無理だ。


 正攻法で迎え撃つことは絶対にできない。

 単体ですら属性付与を掛けられれば、こちらが不利になりうる。

 さらに黄騎士が俺に属性付与を掛けたように、仲間同士で属性付与を掛け合うことも考えられる。


 もしも自身の属性付与に加えて、残り二人分の属性付与も互いに掛けられるとすれば俺は瞬殺だ。

 近接戦どころか中距離戦ですら距離を詰められて倒される。


 俺としては迎撃よりも襲撃が好みなのだが、今回は守りに徹する。

 そして、好き嫌いの問題を横に置けば、魔法使いとボスによる特性で守りの方が強い。

 罠の場所はこちらが自由に決められる上に、モンスターのマップ配置も頭の中で意識するだけで出てくる。


 正直、相手が超上級パーティーと言えど、守りと逃げに徹すれば倒される気がしない。


 超上級以上の魔法使いが、攻撃系魔法の最高位を何も考えずに撃ってくればやられるだろう。

 しかし、場所の特性上、魔法の前兆はわかるから転移もどきで避けられる。


 そもそもそんなヤバイものを撃てばダンジョンの過剰な破壊行為としてギルドからお叱りを受け、超上級制覇の証は与えられまい。




 あっという間に三十日が過ぎた。

 これまでに挑んできた超上級パーティーは四組。

 いまだ俺はどのパーティーにも敗れず、彼らを撤退まで追い込んでいる。

 特に十日過ぎくらいと二十日過ぎくらいに、冒険者数のピークがあったが今は落ち着きが見られる。


「東園から報告。四人組の挑戦者がやってきたようです」

「視界を取る」


 骸骨が俺に状況を知らせてくる。

 視界を共有すれば、どんな奴らが来たかすぐにわかる。


 見てみれば、確かに四人組。

 斥候に、魔法使い、ヒーラー、それに異常に大きな斧使い。

 この斧を見れば誰でもわかるな。


「超上級パーティだな。『ゾンデ伐採団』だ」


 東から来たようだな。たしか活動拠点が東の森林地帯だからおかしくはない。

 こんなのが他のルートを通ればすぐに情報が入ってくる。


 北、西、南の主要な道は、俺のダンジョンであり、アンデッドがいる。

 そのため、この三つを通れば情報が筒抜けになって、対策が簡単に打ててしまう。


「情報がありません。いかがされますか?」

「前の四組と同様だ。各個撃破する」


 前の三組もこれで倒した。

 倒すと言うよりはバラバラにして撤退を余儀なくさせた。


〈闇よ。俺の側へ現れよ〉


 自身に闇の属性を付与させる。


 ――斥候をディアトン川へ転移。

 ――魔法使いをウリ山系の洞穴へ転移。

 ――斧使いをモッペ湿原の中心地に転移。


 闇の付与があっという間に消えてなくなった。

 連続で、しかも距離を開けて使えばこんなものか。もっと魔力を消費しても良かったな。


「東園から三人の消失を確認しました」

「うむ。霊園に残ったヒーラーを倒す。その後で残る三人を倒しに行くぞ」


 普段は移動手段くらいにしか使ってない転移もどきだが、守りに使えばこれほど便利なものはない。

 霊園内と見える範囲程度にしか移動できないのは欠点だろうが、俺の霊園は東以外にはとてつもなく広い。


 加えて、この転移は相手が察知できないところから放てるし、回避手段がおそらくない。

 まがいなりにも時空間属性が入っているのか、耐性を付けるのが極めて難しい。


 足の速い奴は、戦闘どころではない川へ移す。

 魔法が厄介な相手は、魔法を使えば周囲が崩れる洞穴に移す。

 近接戦闘が厄介な奴は、足場が極めて悪く、こちらからは舟で攻撃できる湿原に移す。


 あくまで超上級「パーティー」なのであって、単独にさせれば超上級の力は発揮できない。せいぜい上級。

 さらに環境もこちらに味方するので、圧倒的優位に戦える。


 しかも超上級だけあって装備が良いので、もらえるものはもらっておいた。

 こちらの戦力増強にもなっている。初期の頃を思い出すな。


 ただ、この防衛戦はあまり面白くない。

 戦い方の一つだと思うし、フェアじゃないのは当たり前ということも理解している。

 超上級の戦いというのは、こんなに作業的で、心が動かないものなのだろうか。もっと燃え上がるものを期待していた。


「これなら負けることはありますまい」


 骸骨にしてはひっかかる言い方だが、言いたいことはわかる。


 俺達がしているのは負けない戦い方だ。

 わずかでも危険があれば逃げて、孤立させて安全な位置から攻撃を仕掛ける。

 堅実であるがせこい。相手が負けを認めるかと言えばおそらく認めないし、俺達も勝ったとあまり思えない。

 超上級のリピーターはなくなるに違いない。


 果たしてこれでいいのか……。

 超上級ダンジョンとしては、なんら間違っていない。

 超上級冒険者の対策を上回り、挑戦を軽くあしらっているのだからな。

 一組目と二組目はともかく、三組目と四組目、今の五組目は前情報くらいもっと集めて挑むべきだ。


 実際、単純に奴らの対策不足で済む話でもあるんだよなぁ。

 いくら貢献度で超上級になったとはいえ、貢献度だけで超上級になった訳ではない。


 しかも、前回のチューリップ・ナイツも含めた一斉襲撃とは違い、今回はギルドで調節を行っていない。

 要するに協調性に欠いている。超上級パーティーの一番最初に倒した組のみが、制覇の証を得るので、冒険者間での協力がまるで見られない。

 それも迎撃のしやすさの一助になっている。

 むしろ上級以下の奴らの方が協調性をもっていて苦戦しているまである。


 もしも四方向から超上級パーティーが襲ってきたなら転移で逃げるしかなかっただろう。

 こんな暢気に一人ずつ転移させて各個撃破などやる余裕などなかった。



 気になるのはチューリップ・ナイツが来ていないことだ。

 あいつらこそ、いの一番にやってくるものだと思っていたのだが来る気配がない。

 まさか俺に察知されないため、東ルートからわざわざ回っているのだろうか。いや、そんな回りくどいことをする奴らじゃない。


 特に赤騎士は、俺と近い部分が感じられた。

 奴なら猪突猛進で最短距離を最速で飛んで来そうなものである。


 暫定がなくなるのをわざわざ待ってくれているのか?

 堂々と戦う戦士に憧れている白騎士ならそれくらいの心持ちはありそうだ。


 あるいは俺がどうやって他の超上級パーティーを倒しているかの情報を集めている?

 黄騎士ならそういう情報収集の重要性を謳いそうだ。


 ……全て正しい気がしてきた。

 俺があいつらの人物像を朧気に捉えたように、あいつらも俺の人物像を捉えたのか。


 逸る赤騎士を、黄騎士が情報収集のためと止め、俺の戦い方を知った白騎士が暫定が取れるのを待っている。

 これが正解なら、ある意味で信頼されていると言えるだろう。俺が他の超上級に倒されず暫定から確定の超上級ダンジョンになると考えているのだから。

 もちろん俺の自意識過剰かもしれない。


 暫定が取れるまでは俺も戦い方を変えない。

 そうするとチューリップ・ナイツが相手でも同じ戦法が通用する。

 ただし、一人にした後で襲いかかるような真似はしない。個別でも勝てる気がしない。

 あいつらをどこに連れて行けば、俺達が優位に立てるのかがわからない。

 何でもありならいけるが、住人を人質に取るような手法だ。

 それはあまりにも外道過ぎる。王道で行きたい。


 個別で勝てる気がしないのに、三人まとめてだと戦うことすら無理だ。

 無理とは感じているのだが、正面から戦いたいと思っている自分がいることを否定できない。


 もしも暫定が取れたのならあいつらと正々堂々と戦ってみたい。

 俺は超上級のままだろうし、あいつらは極限級に上がる。到達点と同じステージに上がる。

 それを良しと考える自分がいる。他の誰かが上がるのは嫌なのだが、あいつらなら俺としても受け入れられる。


 しかし、正面決戦といっても俺は負けてやる気は無い。

 全力で闇の真価を発揮させ、あいつらに一泡を吹かせてやるつもりだ。




 五組目のパーティーを返り討ちにして、俺達は正式に超上級ダンジョンと認められた。


 その翌日に北、南、西の三方から伝達が届いた。


「王よ。チューリップ・ナイツの三名がこちらへと向かっています。今なら各個撃破できます。どうなさいますか?」

「不要だ。三人を揃わせろ。正面から迎え撃つぞ。宴の準備だ」


 あの日の雪辱を果たすときが来た。


 俺が至るべき闇の真価と、あいつらが至ろうとする頂とのかち合いが迫っている。


 決戦の日は近い。


「…………おい待て。なぜ楽器の準備を始める?」

「王が言われたではありませんか。宴の準備だ、と」


 骸骨くんさぁ。

 ちょっと言葉の本質を……、いや、これは、いいのか?


「盛大にやるのだろうな?」

「ここを先途と、犯し難く、歓を尽くす心づもりでございます」


 よくわからん言い回しだが、本気でやるぞという意志だけは伝わってくる。


「ならばよし。どんな結末になろうとも最後までやりきれ」

「――かしこまりました」


 俺の含みのある表現をおそらく正しく受け止めてくれた。


 さて、俺も歓迎の準備をしなければなるまい。

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