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瞬く星々の中で - we are all of us stars, and we deserve to twinkle -

 黄騎士から星雲原野ガラクスィアスの情報をわかる範囲で全て聞いた。


 後は実際に聞いたことを我が身を以て試し、自らの知識と変えていかねばならない。


「それでは黄騎士殿。再挑戦といこうか」

「リッチ様、次にそちらで呼べば私の手元が狂うかもしれません」


 顔は笑ってないし、目もわらってない。

 しかも矢をすでに番えている。



 周囲が夜になり隕石が落ちてくる。

 避けると岩石が浮き上がり、瞼が開いた。


〈闇よ。岩の目を貫け〉


 露わになった眼をすぐさま攻撃する。

 眼さえ狙えば簡単に倒すことはできるな。

 問題は倒すまでの時間と数が増えたときだろう。

 聞いたところでは、ある程度までは進めば進むほど落ちてくる数が増えるらしい。


 原野の中心へと近づいていく。

 ちなみにボスが出現するのは一番中心で、そこへたどり着くまでに三つの領域がある。


 今まさに浮遊隕石と戦っている地点がコロナ領域と呼ばれている。

 ここは進めば進むほど浮遊隕石が増えていく。ある意味では一番面倒な領域らしい。


〈闇よ。岩石を貫け〉

〈光よ。岩の眼を射貫け〉


 黄騎士も矢を使うのがもったいないようで、光の矢を使っている。


「魔力は持つのだろうな?」


 無駄打ちはまったくしていない。

 全て一矢で倒しているのはさすがといったところだ。

 それでも先ほどからひたすら光の矢を射るので、魔力の枯渇が気になった。


「問題ありません」


 涼やかに返された。

 本当かと思っていたが、実際に疲れはまったく見せていない。

 コロナ領域の最深部で大量の浮遊隕石に囲まれても俺の闇と、黄騎士の光で思ったよりはあっさりと切り抜けられた。


「止まってください」


 浮遊隕石の出現がピタリと止まったところで、黄騎士が停止の声をかけた。


「コンベクション領域に入ります。ここからが本番だと思ってください。常に闇属性の付与がかかっているようにしてください。私もここからは力を入れていきます」


〈闇よ。俺の側に現れよ〉

〈光よ。私の側に満ちよ〉


 薄暗い原野に闇と光が浮かび上がった。


「複数体との戦闘は絶対に避けてください。もしも複数体と戦闘になった場合は全力でこの地点まで退きます。コロナ領域までは追って来ません」


 ダンジョンには一部だが安全地帯がある。

 この原野の場合ではこのコロナ領域とコンベクション領域のわずかな隙間にあるようだ。

 ここだけではなく各領域の間にある。


「倒すモンスターはこちらで指定します。下手に倒すと、中ボスが倒せなくなりますから」


 モンスターは出てくるが、同じ種類のモンスターがいない。

 似ているのはいるが、なにかしらの違いがあると聞いている。

 それを倒していくことがボスを倒す条件になるようだ。


「標的以外のモンスターが出た場合はどうする?」

「逃げます。領域を離れれば追ってきません。ですが、この領域でしたらその心配はないです」


 星空を見上げて言う。

 それでは行きましょうと黄騎士が歩み出す。

 眼光はかつて射貫かれた際に、甲冑から漏れていた光と同じだった。



 コンベクション領域に入ると、空が真っ黒になった。

 先ほどまであった星の瞬きが全て消え失せた。聞いてはいたが本当にいきなりだな。


「読みどおり。出ました。弱点は角です。突撃に注意してください」


 暗闇の中に赤っぽく光るモンスターが現れた。

 四足歩行で図体はでかい。角が大きくサイのようだが、全身が赤い光に覆われている。


「来ます。避けて!」


 こちらを見つけて、足で地面を掻くと異常な速さでこちらに体当たりをかましてくる。


 俺は飛行で避けて空中から闇の魔法で攻撃を仕掛ける。

 黄騎士は突撃を閃光のように避け、同時にその矢でサイの角を攻撃していく。


〈闇よ。その形をもってあのサイを惑わせろ〉


 闇の獣を囮にして、俺と黄騎士で間断なく攻撃を仕掛ける。

 モンスターの攻撃自体は単調だが、異常なほどタフだな。かなり攻撃しているはずだが倒れない。


 そう思っていると、弱った様子もなくバタリと倒れた。

 光に消えるがアイテムは出ない。


「やりましたね。あれです」


 黄騎士が空を指さす。

 真っ黒だった空には、赤く煌めく星が一つだけ見えている。

 聞いていたとおりだった。モンスターを倒すと、そのまま空にあがり星となって輝く。


「あと七体です。ラジエダが近いですが、迂回してハラから行きます」


 聞き覚えのない名は星の名だ。

 星の名前がそのままモンスターの名前となっている。

 あらかじめ名前が付いていたものもいれば、倒した冒険者の名前を付けられたものもいるようだ。


 二体目にさしかかり、確かに二体同時はきついと感じた。

 動き自体は単調なのだが、攻撃力と耐久力が異常なほど高い。

 当たらなければどうということはないが、当たればおそらく一撃で死ぬ。

 信じがたいがこの星モンスターの攻撃力は赤騎士の炎属性付与時に相当する攻撃力だ。


「モンスターによります。素早さが高いものもいますし、耐久度だけ高いのもいます。このルートは攻撃と耐久に寄せています」


 俺と黄騎士は打たれ弱いが、機動力はそれなりにあり、遠距離から攻撃ができる。

 モンスターが素早くなく近距離攻撃ばかりなら、離れて安全に攻撃できるので最適なルートだな。


「次で最後です。こちらはやや速いですが、私たちであれば問題ないでしょう」

「一つ気になったのだが、お前はかなり余裕があるな。チューリップ・ナイツで挑んだときは楽勝だったのではないか」

「……今ならそうでしょうね」


 それ以上は話しかけるなという圧力を感じた。

 すぐ敵となるにしろ、超上級のパーティーなのは違いない。

 先達の苦労話を聞いてみたいものだが、この様子では話すことはないだろうな。


「お前ら、ひょっとして仲が悪いのか?」


 目の鋭さが増したことは一つの答えになっていると言える。

 どうも本当に仲が良くないようだ。


 残りの二人と違ってこいつはかなりわかりやすいな。

 赤騎士は何が怒りのスイッチかわからない怖さがあったし、白騎士はそもそも何考えているのかわからなかった。


「感情が顔に出やすいと言われないか?」


 顔というより眼に出てくる。

 嬉しい表情はまだ見ていないが、怒りやらなんやらはすぐに眼に出てきていた。


「もしかしてあの甲冑を着けてるのは感情を隠すためだったりするのか?」


 ……無言。

 でも、ぴくりと体が震えていた。

 俺に顔を見せないよう、明後日の方角を向いてすらいる。


「えっ、本当に……?」

「違います」


 眼以外もわかりやすい奴だな。

 もっとからかってもいいが、これ以上は本当に攻撃されそうだ。

 こんなことが、前にも…………、久々だな、この感覚は。何かの記憶が引っかかっている。


「私はですね。星射士として……、どうされました?」

「いや、何でもない。先に進もう」


 互いに無言になって、歩を進める。

 最後のモンスターを倒すまで一言も言葉を交わさなかった。



 あらかじめ狙っていた最後のモンスターを倒して空を見上げる。

 八つの星がそれぞれの色、それぞれの煌めきで、自身の存在を主張している。


「あれが岩巨人座になります」


 あそこが頭、ここが胴体、その先にあるのが足で、と説明してくれる。

 がんばって説明してくれているのだが、俺にはまったく岩巨人には見えない。

 巨人どころか岩にも見えないぞ。がんばってもミミズが良いところだ。


「すごいな」


 無論、嘘である。

 はっきりとは言わないことにした。

 初めて楽しげに語っているので乗せておくことにした。


「そうでしょう」


 なぜか誇らしげな黄騎士だ。

 岩巨人座の元となったゴーレムの話を聞いてもいないのに話し始めた。


「どうです?」

「なるほどな」


 でしょう! と顔を輝かせている。

 実際、光魔法がかかっているので眩しい。


「この岩巨人は大弓に撃たれて崩れるんです。その大弓座があちらに浮かび上がります」


 指をさすところは真っ暗だ。

 黄騎士には見えているのだろうが、俺には影も形もまったく見えない。

 見えているのはミミズが這ったような岩巨人座のみ。


「小さな光ですがあの輝きは空から私たちへの贈り物なんです。神秘的ですよね」

「そうだな」


 背筋がぞわっとした。

 やばいな。本当に気持ち悪さを感じてきたぞ。

 神秘的だって? どこかの会長と同じような台詞を吐いたな、こいつ。

 三騎士の中で一番とっつきやすそうと思ったが、俺の考えは間違いだった。光る地雷だ。


「この原野の中で、見えなくなっている星はあるのか?」


 気持ち悪くなってきた話を切り替えるために出した話が、気持ち悪い奴の話なのでどちらにしても気持ち悪さが残る。

 口の中にえぐみが残って、非常に苦しい。


「見えなくなっている? 何の話ですか?」

「……いや、この話は後にしよう。先に進まないか」


 黄騎士は不承不承といった体で歩を進めた。


 見上げれば広い空に、小さなミミズが這っている。岩巨人ねぇ。



 ついにラディエーション領域に達した。

 簡単に言うとボス戦の前にいる中ボスがいる。


 コンベクション領域で星座を作っていると、星座に対応した中ボスが現れる。

 何も星座を作っていないと何も現れず、ボスすら現れないらしい。


 これを利用して、星座を作る前に中心へ移動して安全に反対へ行く方法もあるんだとか。

 今回は岩巨人座を結んだので、対応した中ボスが出てきた。


 コンベクション領域で星座を結んだ分だけ、対応する中ボスが出てくるようで、二体出すとかなり厳しくなるようだ。

 最高記録は三体突破だと聞いているが、果たして到達点は何体で倒したのだろうか。


「行きますよ」


 心なしか言葉が柔らかい気がする。

 さっきの星座の話で歩み寄られてしまった。


〈闇よ。俺を深く包み込め〉

〈光よ。私に導きを与えよ〉


 俺の闇はより深く、黄騎士の光はより輝きをました。


 俺達が倒しやすい中ボスにしたとは言え、それでも相当な力がある。

 でかいとは聞いていたが、本当にでかいのが来たな。足だけで俺の五倍近い高さだ。

 足の関節を狙えば戦いやすいという情報を聞いていたので、二人で右足の関節を集中的に狙う。


 攻撃自体は腕の振り下ろしや振り回し、足の踏み潰しに、タックルと単純である。

 それでも大きさと衝撃がすさまじいので油断はできない。

 かすっただけで致命傷だ。


 足関節を潰すまでは大変だったが、そこから先はかなり楽に戦えている。

 両足を崩すと寝転がって暴れまくるので、左足は仕留めず、上半身の肩を攻めていく。


 持久戦ではあるが、俺の魔力は問題ないし、力も抑えているので混乱はまだしていない。

 黄騎士も問題ないと豪語しただけあって、まだまだ戦える様子だ。

 さすが超上級だな。弓だけでなく、魔力保有量の才もある。


 少しずつ削り続け、ついに巨人が光に消えた。

 空に浮かんだ岩巨人座に光の線が結ばれる。


 ああ……、確かに線で結ぶと岩巨人に見えなくもないか。

 いや、そんなことはないな。やっぱりミミズだ。


「出ましたよ」


 原野の中心に白く光る球体が現れた。

 まるで夜空に浮かんだ太陽のごとく、周囲を明るく照らし始めている。


「先に話したとおりです。昔よりは戦えるといっても人数は二人。全力でやらないと勝てません。――よろしいですね」

「無論だ。足を引っ張ってくれるなよ、黄騎士殿」

「は?」


 黄騎士は何を言ってるんだと俺を見てくる。

 冗談が通じない奴だな。


〈闇よ! 湧き上がれ!〉

〈光よ! 舞い降りよ!〉


 互いに属性の付与を行う。

 さらに俺が黄騎士に闇を、黄騎士が俺に光を付与する。

 属性としては別に反するものではないようで、重ねがけが見事に成功した。


 闇の上に光を纏ったリッチと、光の上に闇を纏う黄騎士というよくわからない二人が原野を並んで歩く。


 行く先には白い球体が煌々と浮かぶ。


 均一な光ではなく、中で炎が蠢いているように明暗がついている。


 俺達はその白い炎に誘われる羽虫のように、星雲原野ガラクスィアスの中心へ進んで行った。

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