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星雲原野ガラクスィアス - those who live are those who fight -

 西に向かってまっすぐ伸びる橋を見つめる。

 某会長は三十日かかると書いていたが、二十八日でやり遂げた。


 ちなみに二十八日のうち半分は橋工事というよりは治水だった。

 材料が届くのに全力で人を動かしても、十日はかかるということでこちらからだ。

 魔法使いと組んで、川の上流まで遡って水の流れを変えていく、さらには川付近には護岸工事も行った。


 さらに九日で基礎と橋台、橋脚の設置だ。

 残りの五日で主桁の設置に取りかかっていった。


 そして今日、いちおう橋としての形はできあがった。

 欄干がないため、一般人を通らせることはできないが普通に通れる。


「ほんとにできちゃうもんなんすね」


 男もぼんやりと橋を見つめている。


「橋に慰霊碑を建てたのは正解でしたね」


 かつて水害で死んだ人やなくなった村を慰めるというお題目で橋に碑を建てた。

 これにより橋が一種の霊園と認められたようで、俺はこの橋の上なら歩くことができるようになった。


「細かいところがまだまだだな。それに治水もやっていかねばなるまい」


 それでも東から西へ行く、貴重な手段ができたことは間違いない。

 細かい部分は後でもできる。西から東へ行こうとする連中が湧き上がるまでに作り上げれば良い。


 橋はほぼできた。

 次はあちらが俺の願いを叶える番だ。


「行くぞ。星雲原野ガラクスィアスへ!」




 星雲原野へ挑む前に、星都アステリの星見塔にやってきている。


 アステリの中心地に異常なほど高い塔がある。

 この塔こそが星都のシンボルマークであり、星導教の本部でもある。


 俺といつもの二人は、信者共に連れられ上へ上へと向かっていく。

 すれ違う奴らがみな両手の平を上に向けて、星導教独特の挨拶をしてくる。

 なんでも星の導きの光をこぼれないように手の平で受け止めるだったか。

 相手からの光も同様に受け止めようという意思表示でもあるとか。


「ようこそ、いらっしゃいました」


 柔らかな声だった。

 男とは聞いているが、女の声のようにも聞こえた。

 顔も中性的だ。後ろの二人よりは年齢が上のはずだが、印象だけならかなり近く見える。


 簡単な自己紹介から始まり、さっそく本題に入った。

 ミゼンは優しげな表情で話を進め、ダンジョン攻略に当たっての相方も出してくれると話した。



 必要最低限の話をして星見の塔を下りた。

 入口の前で、二人と話をする。輝導者ミゼンの印象を聞いてみた。


「偉そうなそぶりがなくて、大らかな方に感じました」

「いやぁ、思ったよりも話しやすくてよかったっす。緊張も途中で解けたっす」


 どうも俺が抱いた印象とだいぶ違うな。

 偉そうなそぶりとどころか何のそぶりもなかった。

 大らかなとはいうが、あれは何もない故の空っぽな印象だ。

 話しやすかったとは思うが、何と話していたのかはさっぱりわからなかった。

 本当に人かと疑ってしまうレベルだったぞ。むしろ相手の不確かさに緊張してしまったくらいだ。


「特殊魔法はその人物の本質を表すというが、まさにそれだな」

「どういうことっすか?」

「普通には使えない特殊な魔法がある。有名なところでは呪怨、封印、憑依だな。これらの特殊魔法は、人物の本質と深く絡んでいると言われる。素質がないとこれらは使えない。逆に言えば、使える特殊魔法の系列でどのような人物かが読み解ける」

「ミゼン様はどんな特殊魔法が使えるんですか?」

「虚無魔法だ」


 どんな魔法なのかはまったく知らない。

 ただ、先ほど話したミゼンの印象はまさに虚無だった。

 何も満たされず、話していても何も湧き上がってこない、虚しい存在だ。


「ひとまずここで別れるとしよう。お前らは妹ともに星都アステリを堪能してくると良い。俺は星雲原野ガラクスィアスに挑むとする」


 案内人に連れられた二人の背を見届ける。


 俺も低位魔法を発動し、ミゼンの言っていた場所に転移した。




 原野の入口前に立つ。

 さすがと言わざるを得ないな。

 本当にダンジョン全体が認識できている。


 ダンジョン周囲の四方に霊園を設置し、信徒へ俺がダンジョンを挑むことを周知させた。

 それにより俺はここに立つことができている。これは商会の力よりも星導教の力という部分が大きい。


 さて、俺がダンジョンに挑むための最後のピースがここにいれば来るという話だ。

 すなわち、俺とパーティーを組みガラクスィアスに挑む人物である。


「お待たせ致しました」


 どこか聞き覚えのある声だった。

 振り返ってその人物を見る。


 眩しいほどの金髪。

 こちらを射貫くような鋭い目つき。

 それに、背中に見覚えのある弓を担いでいる。


 かつてその弓の矢で貫かれた肩口がうずいた。

 ダンジョンが超上級だから、冒険者も超上級が来るのはわかる。

 おそらく知っている名前が来るだろうとは思ったが、まさかこれが来るとはな。


「導師ミゼンより、リッチ様の案内役を授かりました、星射士階位第一位――モナムールと申します。以後、お見知りおきください」

「ああ、短い間だろうがよろしく頼む。黄騎士としての力を十全に発揮願いたい」

「『モナムール』とお呼びください。――リッチ様」


 嫌だと言いたいところだったが、言うと矢を射かけてきそうだったので無言で通した。

 敵とは言え、実力は折り紙付きだ。しかも、このガラクスィアスを攻略したことがある。案内役としては申し分ない。

 どうせならあと二人も呼んで欲しいくらいだが、無理な相談だな。



 パーティーリングをつけ、黄騎士と登録を済ませる。

 久々に使ったな。ずっと指に付いていたのだが、使う機会がなかった。


「リッチ様、そろそろ夜に変わります。闇属性の付与をお願い致します」

「夜に変わる?」


 黄騎士はすでに弓を手にかけている。

 何を言っているのかわからないが、ひとまず言われたとおりに低位を発動させ闇を纏う。


 原野を進むと周囲が暗くなってきた。

 空を見上がれば雲はない。しかし、青から黒に変わりつつある。

 今はまだ昼前だというのに、進むほど空はいよいよ暗くなり星が瞬き始めている。


「なんだこれは?」

「星雲原野ガラクスィアスは常に夜と……来ます! 上を!」


 敬語を使う余裕もなくなってきてる。

 見上げると、小さな星が強くきらめいた。

 その星は徐々に赤みを帯び、大きくなっている。


「まだ動かないで。落ちる位置を見極めてから……今! 右に避けて!」


 黄騎士の声に従い、右へと体をひるがえらせた。

 俺達の居た場所には赤く熱された岩石が落ちてきている。


「モンスターをお願いします。私は上を」

「モンスター?」


 モンスターがどこにいると見渡す。

 落ちてきた岩石が揺れて、ふわりと浮いた。

 熱も重さも関係ない様子で岩がぷかりと宙に浮かんでいる。

 岩の一部が瞼のようにくぱっと開いた。そこに黒い瞳があり俺と見つめ合う。


「遅い!」


 黄騎士が矢をつがえ岩石の目をめがけて放った。

 見事だった。その矢は岩石の目を貫き、岩石が地に落ちる。


「しゃがんで!」


 頭を無理矢理押さえつけられ、地面に倒される。

 轟音が頭の上を響き渡り、岩が俺にぶつかってきた。

 音が収まり、モンスターを見ると跡形もなくなっている。自爆か。


「また来ます! すぐに目を潰してください。倒したら一度退きます!」


 隕石を避け、そこから浮き上がるモンスターの目を闇で貫く。

 爆発するかと思ったが爆発はしない。なるほど、速く倒せば良いわけか。


 その後、三つばかし落ちてきた隕石とそのモンスターを倒して原野から離脱した。



 原野から離れると空がまた明るい青空に戻る。

 どうなってるんだこれ。


「リッチ様、ガラクスィアスの情報を知らないですね」

「……ああ」


 情報はとりあえず挑んでみてからでいいかなと思っていた。

 それどころか、情報がなくてもいけるんじゃないかという思いもわずかにあった。


「先ほどのあの浮遊隕石は、地面に落ちてきた後で上位魔法を詠唱します。詠唱する際は目を瞑り、攻撃がまともに通りません。わかったと思いますが、弱点の目を潰すのが遅れると自爆します。詠唱中でもです。速く潰すしかありません。放っておくと、どんどん増えて魔法と自爆に囲まれて詰みます」


 すごい剣幕で解説を始めた。

 かろうじて言葉は気をつけているが、顔は怒りに歪んでいる。


「リッチ様は死んでもどこかでリポップするのでしょう。私は違います。死んでも復活はできません。治癒術も得意ではありません。遊びでも観光でもないんです。どうか一切の油断をなくし、万全の支度を整えお挑みください」

「すまなかった」


 これについては何一つ反論することができない。

 遊び半分で挑んでしまっていた。


 せっかくの現パートナーであり、過去と未来の敵を殺してしまうところだった。


 事前に情報をしっかり固めてから挑む必要がある。

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