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発動しない力 - what do you want meaning for? life is desire, not meaning -

 目が覚めると墓地だった。

 周囲には養成校や奇獣戦士の姿はない。

 近くをアンデッドが歩き回る。実家のような安心感。


 新しい発見だ。

 死んだ地点ではなく、ここがリスポーンなのか。

 ボスとしての俺はやはりここに魂的なものが縛られているようだな。


〈闇よ。俺の側へ来い〉


 さっそく低位を発動させ、養成校へ転移する。

 日の傾きから見て、かなり時間は経っているな。


 果たして、どうなっているだろうか。


 全てが壊されているのか。

 それとも、俺の最後の力で何かを変えられたか。



 養成校に転移すると多くの人間が作業を行っていた。

 動いている人がいるということに、ひとまず胸をなで下ろす。


 しかし――、様子がおかしい。


 作業をしている奴らは、養成校の人間には見えない。

 建物を直し、模擬戦場を魔法で修復しているのは、かなり魔法の練度が高い奴らだ。


「やっと戻ってきたか。ずいぶんと遅い帰還だったな。リッチ殿」


 ゴホゴホと咳をするのは、骸骨もかくやという男。


「プロフェッサー・グノスィ。どうしてここに?」

「養成校に大きな問題が生じたときは、ザムルング商会・魔術師ギルドともに解決に当たって尽力すると協定が結ばれている」


 魔術師ギルドの連中もか。

 道理で魔法の練度がやたら高いわけだ。


「国と冒険者ギルドは来客や訓練生の安否確認。それに周囲の住人への説明で大わらわだ」


 咳の数が多い。

 少し疲れている様子だ。


「お前らは?」

「すでに仕事を終えた」

「ずいぶんと仕事が速いな」


 皮肉である。

 どうせ某会長様の指示だろう。


「首謀者は自殺してしまったが、彼の数人の仲間は生きたまま捕らえた。奴らからはすでに証言を得ている。タレンドに実験中の薬を無理矢理投薬した、とな」


 ……ん?


「おい待て。それは違うだろ」


 タレンドは自分から薬を飲んだ。

 なにせ俺はその場にいて見ていたのだからな。


「だが、すでに自白は得られた」

「その自白はどうやって取った」


 グノスィは咳をして、俺の問いを煙に巻く。


「タレンドはこの事件の被害者だ。容態が安定しだい話を聞かれるだろうが、投薬の前後は覚えていないだろう」


 そうだ。

 俺が一番知りたいことはそこだ。


「タレンドは無事なのか?」

「言ったとおり、命に別状はない」


 あまりにも必要最低限の回答だ。

 俺の聞き方が悪かったのかと考えてしまう。


「タレンドは人の形をしているか?」

「さよう。回復後はまた教官を務めることになるだろう。闇の真価を発揮できたようだな」


 少し残念そうに見えたのは気のせいだろうか。

 グノスィは言うべきことは言ったと、背を向けて立ち去ろうとしている。


「待て。もう一つ聞きたいことがある」


 話す途中でふと思ったことだ。

 仕事が速すぎるのは例の会長様の指示なのは間違いない。

 だが、その会長様の目的が気になった。本当に俺をただ介入させることが目的だったのか?

 介入はただの手段で、本当の目的は別のところにあったのではないか。


「薬に関する資料はどうなった?」

「全て処分されている」

「本当か?」

「研究室は『何者か』の手で粉々に破壊され、使えるものは何もない」

「……それは、そうだろうが」


 研究室には何も残らない。

 冒険者ギルドと国は、劇薬とは言え貴重な資料を馬鹿の手により失った。


 それでは奴らが個人で所有していた資料はどうなったのか。

 俺は処分しろと命令し、その後は死ねと伝えた。本当に奴は実行できたのか?

 資料を処分してから死ねとは言ったが、資料を奪われてから殺されたのではないだろうか。

 もしもそうだとしたら――、


「お前らの目的は、研究資料の独占か」


 俺に計画を知らせ、介入をほのめかした。

 その後は「好きにしろ」などと適当な言葉でうやむやにしていたが、放っておけば能動的に俺が計画を知るだろうと判断した。


 次に俺をここに来させれば、文官どもが勝手に動くと予測していた。

 思えば、俺がこの街で動けるようにした手際が見事すぎる。まるでかなり以前から準備されていたような。


 さらに俺が奇獣戦士と戦うようにも、しむけられていた気がする。

 なぜ、あの三人組はここに連れられてきていたのか。俺への人質だったんじゃないか。

 もしもあいつらがいなくても俺は奇獣戦士と戦っていただろうが、やる気の度合いは変わっていただろう。

 少なくとも白騎士との連携はあり得なかった。


 わからん……。

 どこまでが予測のうちなんだ。


「私とゾイが求めた『完璧な戦士』は、あのようなものではない。あのようなものではないのだ」


 質問の答えにはなっていなかった。

 いや、答えにはなっているか。あの薬では不完全だから、資料を独占した、と。

 他の人間の手には渡らないようにした、と。


「我々の夢は、ついぞ果たせなかったか……」


 それだけ残して、今度こそ立ち去ってしまう。

 他にも聞きたいことはあったが、その背に声をかけることはできなかった。




 商会の他の連中から、タレンドが医務室にいると聞かされ向かった。


 部屋のベッドの上でタレンドが目を瞑っていた。

 グノスィから聞いていた通り、元の人の形に戻っていたようだ。


 もう一人の先客が、俺をチラリと見て視線をタレンドに戻した。

 相変わらずの無表情でタレンドを見ている。


「感謝する」


 白騎士の横に行くと、謝意を告げられた。

 待ってみるのだが、その後の言葉が何も続かない。


「あの後、何が起きた」

「槍についた闇が私と師範を包み、光が生じた。気がつくと私たちはベッドの上に運ばれていた」


 説明終了である。

 ……あの男の説明と同レベルだな。

 何がどうなったのかさっぱりわからん。


 仕方ない。満身創痍だったしな。

 とりあえず助かったことは良かったということにしよう。


「これも」


 ぽいと結晶を投げてくる。

 キャッチすると白いぼんやりした光がチラついていた。


 ――夢見るリッチの矜持


 俺のドロップアイテムか。

 そうか。俺はここでやられたんだからそりゃ残るか。

 以前に聞いていたアイテム名とは違っている気がするな。


「なぜ返す。そのままギルドに渡すこともできたはずだが」

「戦士は、自ら戦って得たものこそを誇るべし。師範の教え」


 自分が俺と戦って得たものではないから返すと。

 律儀なことだ。戦士の教えね。


「騎士というより戦士。赤騎士も剣闘士だった。なぜチューリップ・『ナイツ』なんだ」

「鎧で全身を包めば、別の自分になれる気がした」


 そんな子供みたいなと俺は笑ったが、白騎士は笑わない。


「……冗談は言わない奴だったな」

「私は師範のような戦士にはなれそうにない。でも、騎士に――」


 白騎士が言葉を止めた。

 昏睡状態のタレンドがわずかに動いたためだろう。


「ん……」

「タレンド師範」


 眼を薄く開いたタレンドに白騎士が声をかけた。


「インゼル、か。……俺は、どうなった?」

「元の姿に戻っている」


 タレンドは俺の声に気づいたようだが、はっきりと俺を見てはいない。


「リッチ殿もいるようだな」

「無理をするな。まだ回復しきってはいない。休んでいろ」


 素直に俺の言葉に従い、目を閉じた。


「自分は、闇の中にいた。誰かと戦っていた。戦えば戦うほど周囲は闇に満ちていった。深い闇だ。相手以外には何も見えず、何も聞こえない。そこに光が射した。インゼルとリッチ殿の声も聞こえた。俺は敵に背を向けて光に走った。ひたすら逃げた。臆病者だ」

「臆病者だからこそ、今もまだ生きている。それにだ――」

「師範は戦士でした」


 俺の言葉を継いだ。


「自分たち以外の人にはいっさい手を出していません。今も、自分の憧れた戦士のままです」

「戦士としてのお前はまだ生きている。その在り方を見て、ここの者たちも戦士として巣立っていくだろう」


 そして俺のダンジョンに挑戦してくる。

 無論、返り討ちにするつもりだが、苦戦は免れまい。


「俺は繋がりとは生者の特権だと思っていた。アンデッドなどには繋がりの意味など無いと。そうではないということがようやくわかってきたのだ」


 リッチで、ボスの俺でも繋がりはできた。

 南北の道を作る夢を父から継いだナフティス。多くの戦士の礎とならんとしているタレンド。

 他の奴らもそうだ。俺の夢が他者とどんどん繋がってきている。


「俺達の願いが繋がりあい、それがそれぞれの新しい人生を築いていくんだ! そうだろう?!」

「黙って。もう眠っているから」


 見ると、タレンドは寝息を立てている。


「……すまん」

「いい」


 その後はいても仕方ないので出て行った。


 いつもの三人の安否も気になる。





 十日ほどしたある日、俺は墓地で魔法の特訓をしていた。


「――闇よ! 俺は願う! 俺の杖に、我が祈りを叶える力が宿らんことを!」


 駄目だな。

 無詠唱では発動せず、あのときみたいに叫べば発動するかと思ったが発動しない。

 詠唱として認められない。込める魔力が足りないかと思っていたが、全力全開の魔力を注いでも何も発動しない。


「王の魂のシャウトが聞こえたので臣がやってきましたぞ!」


 嘘つけ。

 お前ずっと横にいただろ。


 詠唱のパターンをいろいろと変えてみたが、まったく発動しない。

 何か条件があるのは間違いない。あのときあって今はないもの。もしくはあのときなくて今あるものが何かだ。


 やはり願いか。それも強い願いだ。

 あのときは白騎士の願いが確固として存在した。


 俺の夢を糧には発動してくれない。

 足りていないのか。祈りが、願いが、夢が俺には足りないと?


 それともまだ何かが必要なのか。

 駄目だ。わからん。


 西に行くと深化に達するとか某会長は言っている。

 おそらく俺がこの力を発揮できるということに間違いない。


 しかし――、もうあの会長と関わり合いたくない。

 できればザムルング商会とも一線を引きたいくらいだ。

 手に入れたもの以上の何かを、少しずつ失っている気がする。


 あえて東に進路を進めるか?

 「夢は潰える」という言葉が俺の中でどろりと溶けていく。


「王よ。お二人が来られましたぞ」

「ああ、わかった」


 ちょうど良いタイミングだった。

 一息つこうと思っていたところだ。


 二人と軽い挨拶をし、いつもの位置に座らせる。

 骸骨は気づかなかったようだが、俺はそれなりに顔を読めるのでわかる。



 二人の声と顔には迷いが生じていた。

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