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失ったんじゃない。新たな力を得たんだ

 数日が経ったが、俺はパーティーに戻らなかった。

 ソロとしてダンジョンに潜っている。パーティーから外れたことになっているようで、すでに上級から初級にまで格を落とされている。

 アレティたちも中級まで落とされ、細々と続けているようだ。


 いや、本当は俺も中級で踏ん張れるはずだったのだが、日頃の行いとやらのせいで初級まで一気に下げられた。

 当然、初級となれば攻略できるダンジョンにも制限がかかる。


 街の近くには初級ダンジョンがないため、一月かけて遠くの街まで徒歩で移動した。

 徒歩だ。わかるか? 足が棒になったぞ。


 馬車を使え?

 乗り合いの馬車を利用するお金も今の俺には残っていなかったのだ。


 これも治療費と諸々の賠償費用が俺の預金から引かれていたためである。

 ひでぇパーティーメンバーだ。血も涙もない。出て行って精々した。

 しかし、奴らは間違いなくすぐに泣きついてくるだろう。

 「ヴァスィア様、戻ってきてください」とな。


 そのときまでに俺は上級以上になっておく。

 そうすれば、俺一人でも上級の力があることを奴らに示せる。

 上級の奴ら(カロを除く)と上級の俺がいれば、超上級は余裕で目指せるはずだ。

 最悪、俺とアレティだけでも良いさ。



 初級ダンジョン――スコタディ霊園にやってきた。

 かつてアレティと二人で潜ったことがある、わずか一週間足らずでクリアした。

 ギルドは期待の新人と言っていたが、あれは正しかった。俺たちはその後、二年もかからず上級になったのだから。


 あのときは二人だったが、今は一人だ。

 しかし、俺はかつての俺ではない。いくつかの魔道具だって手に入れている。


〈闇よ。俺が敵を飲み込め〉


 短縮詠唱した中位魔法で、周囲のモンスターを潰していく。

 潰れた後にはアイテム結晶の白い光が残る。


 この淡い光の一つ一つが俺の飯になり、力になり、冒険者としての格を示すことになる。

 最近はサンドルが拾う役だったので、いちいち拾うのは久々だ。

 少し懐かしい気持ちになっていく。


 アレティと競い合ったものだ。

 どちらがより多くの結晶を集められるかと。

 もちろん俺の方が多かった。勝ち数は俺の方が倍以上だった。


〈闇よ。俺が敵を穿て〉


 敵をまとめて数体串刺しにする。

 通常の魔法使いなら、初級でもソロ攻略は簡単にできないだろう。


 魔法の詠唱、威力、魔力の兼ね合いになる。

 詠唱を短くすれば威力が落ち、威力を上げれば消費魔力が増え、魔力を抑えようと思えば詠唱を減らし、威力も落とさざるをえない。

 このバランスを取るのは並の魔法使いではできない。


 特にこのダンジョンは開けたフィールド型だ。

 四方八方、上空、地面からもアンデッドが襲いかかってくる。

 初級と言えど、魔法使いソロでは到底クリアできるダンジョンではない。


 だが俺にはできる。

 俺の闇魔法なら可能だ。


〈闇よ。混沌の形貌を成せ〉


 骸骨のボスに対して惜しみなく闇の上位魔法を使う。

 闇により形成された俺の使い魔達が容赦なくボスを蹴散らして行く。


 闇魔法の最大の利点はなにより魔力効率だ。

 通常は上位魔法になるにつれ増えていく魔力が、闇魔法に限っては減っていく。

 魔力の管理をまったくと言って良いほどしなくて済む。


 さらにだ。

 短縮詠唱で上位魔法が放てるので威力もまるで問題ない。


〈闇よ! 我が敵を撃て〉


 圧倒的だ。

 なんだよ、俺一人でも余裕じゃないか。

 中位魔法の直接攻撃と上位魔法による使い魔作成による柔軟な対応力。


〈闇よ! 有象無象を蹴散らせ〉


 なんなら一言でモンスターが片付いていく。

 パーティーなんていらなかったんだ。

 アレティもいらなかった。

 いらなかったか?


〈闇よ! 奔れ!〉


 ああ、そうだ。

 俺はいける。俺は一人でも戦える。上級なんてあっという間だ。


〈闇よ!〉


 ああ、駄目だ。

 そろそろおかしくなるころだ。

 素晴らしい闇魔法の欠点。使うほど頭がおかしくなってくる。

 いわゆる混乱状態だ。なに、どんな魔法でも人でも弱点の一つや二つはある。


〈闇よ〉


 力の大きさに比べれば、これは弱点と呼べるモノでもない。

 大丈夫。だって全てを闇で飲み込んでしまえばいい。

 そうだ。俺ならデキル。一人でもできる。


〈闇よ。全てを――〉


 この世界は俺だけがいて、アレティが……。

 あれ……アレティって誰だ。俺の敵か。もっとモンスターを。


〈闇よ。全てを飲み込め〉


 目に見える限りの全てを闇で覆い尽くす。


「楽しい! 楽しいな! これが自由か!」


 こんな良い気分になったのは久々だ。

 体が軽い、今なら魔法も使わず空だって飛べる。いや、もう飛んでいる!


 次は地面に寝転び、空を見る。

 赤く輝く空に、黒い太陽、紫の雲と星々、泳ぐ風の金魚たち。


「上級なんて余裕だ! 超上級にだってなれる!」


 闇の魔法を紫の星に向かって放つ。

 雲はぐねぐねとうねり、迷い、誘う。俺はたまらず立ち上がって走った。

 見渡すカギリのアレティが俺に向かって奇声をあげている。

 地面から伸びたサンドルやガレフが俺を持ち上げる。

 カロもいるが許す。今の俺は気分が良い。

 最高だ。さあ、行こう!

 行進だ!


「そうだ! アレティ! 俺たちなら極限級だ!」


 感極まった幾千のアレティが俺に向かって走り出した。

 俺は笑い、全てのアレティを受け止める。


 アレティの鎌が俺の首に掛かり、俺の闇魔法がアレティの心臓を射る。


「俺たちが『深淵と大鎌』だ!」


 真っ黒な噴水を上げる誰かの胴体を見上げて俺たちは笑い続けた。


 やがて全てが暗くなり俺の視界は闇に飲まれた。


 それでも笑い声だけは聞こえてくるんだ。


 あぁ、あぁ、楽しいなぁ。


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