対策会議
アンデッドの増加による危機は深刻だ。
昨夜も新たなアンデッドが群れで来やがった。
超上級冒険者を追い払えるようにはなった。
しかし、「自らの管理ができずダンジョンとして崩壊しました」では笑いぐさだ。
冗談抜きで、極めて重大な問題のため、会議をすることとした。
戦力の増強だけなら一人で考えやってしまうのだが、運営的な管理方面は俺も得意ではない。
せめて方向性だけはきちんと定めておく必要がある。
方向が決まれば突っ走るだけだ。
「――というわけで、今述べた問題への対応で何か案があれば聞こう」
目の前には二人の冒険者。
ほぼ毎日のように挑戦してくる初級冒険者である。
「どうして俺たち、ここに座っているんだっけ?」
「今さらそんなこと言わないでよ! あんたがちょっと話に乗ってみようぜとか言うからじゃないの!」
女が男を肘で小突いている。
「リッチ様。以前に情報の交換はしましたが……」
女の魔法使いは自らの杖と、男の剣を見て戸惑っている。
どうも街の情報を装備品と交換したことを気にしているようだ。
「さすがに、そのような話は難しいと思います。私たち冒険者ですよ。言ってしまえばあなた方の敵です」
男の剣士もそうだそうだと頷いている。
「俺は、お前達を敵とみなしていない。弱すぎる」
敵というのは最低限の力を上回り、初めてそう認識される。
昼のスケルトンに囲まれたくらいで叫び逃げ出すような存在を敵と認めない。
「敵と言うより、むしろ客だと思っている。貴重な存在だ」
「俺たちが客? 貴重?」
弱すぎると言う言葉に顔をむっとさせていた男冒険者がぽかんとしていた。
どうやらまだ自らの力不足を認めるだけの器量が備わっていない。
「チューリップ・ナイツや上級。それに、相手にはならなくなってきたが中級は俺たちの敵だ。力を存分に発揮して挑む相手と言える」
この言には二人の冒険者も素直に賛同してくれる。
自分たちより格上の冒険者の力は認めているらしい。素直さはあるな。
「街に暮らす人間どもは俺たちにとって部外者だ。力なき者達に俺たちが関わる気は毛頭無い。俺たちが力を振るう対象は敵のみだ」
要するに、俺たちが街を攻めることはないということ。
女の方はわかっている様子だが、男はわかっているか怪しい。
だが、部外者とも関わる日は間違いなく来る。それは今はまだ深く考えない。
「どういうこと?」
やはりわかってなかった。
いちいち言葉にして聞くところが駄目だ。
「あんたはちょっと黙っててよ。しかし、リッチ様。その言葉を信用するわけにはいきません」
そうだろうとも。
アンデッドの言葉をほいほい信じていてはいけない。
「別に信用しなくても良い。冒険者として、ダンジョンで見聞きしたこと、そして話したことは、そのまま冒険者ギルドに伝えれば良いのだ。そうすればお前達の評価も上がる。そうは言っても、もう話しているだろうがな」
「えっ、なんでわかったんすか!」
男の後頭部を、女が平手で叩いた。
「何すんだよ」、「黙ってなさいよ、あんたはいつも」……と痴話喧嘩が始まった。
「それで良い。お前達はきちんとギルドに報告しろ。先ほど『客』と言ったのは、お前達がギルドからの客と言っているのだ」
力のある冒険者は「敵」に違いない。だが、ギルドは敵か?
俺は違うと考えている。超上級を追い払った時点で、ギルドは敵ではなくなった。
「俺たちは超上級ダンジョン――あるいはそれ以上を目指している」
すでに冒険者ギルドも知っていることだろうが、ここで改めて明言しておく。
俺たちが超上級になって、誰が一番得をするか?
俺たちではない。一番利得を手にするのは冒険者ギルドである。
しかも冒険者や街の人々に、大きな被害をもたらさない脅威が少ない優良ダンジョンだ。
この状態のまま超上級に認定されれば、一山当てよう、名声が欲しいという冒険者は各地から訪れ、それに合わせて地域の産業は活発になる。
この曇ってばかりのパッとしない地域に超上級ダンジョンという光が射す。
冒険者ギルド全体はともかく、この地域のギルドは明言こそしないが味方になるだろう。
俺たちを超上級に上げようという意志、働きかけ、あるいは見て見ぬ振りが、この先で必要になるときがくるはずだ。
「よくわかりません」
「アンデッドで、ボスで、生者の敵である俺の言葉など信用しなくても良い。だが、俺たちの上級にまで上がった力と、上を目指す執念と意地は、お前達でも認めるに難くないのではないか? ……要は冒険者ギルドへの報連相は怠るなってことだ。さて――本題のアンデッドが増えすぎている件に移ろう」
「あっ、やっぱりその話はするんですね」
「お前らが思っている以上に深刻な問題なのだ」
この件に関して骸骨は無力。
霊園が賑やかで嬉しいなぁとしか考えてない。
どう考えても崩壊前夜の現状に喜び、うつつを抜かしている。
「私たちじゃ、そんな深刻な問題に対処できないかもです。街にガマ爺っていう、老冒険者がいます。ガマ爺なら何か良い意見があるかもしれません」
「でも、話が長いんだよなぁ……」
「この問題はいわゆる普通の問題ではない。極めて異例で、異質な話と言えるだろう。長く生き、経験を積んだ年寄りではかえって常識に縛られ、新しい発想は生まれん。古く錆び付いた昔話と当たり障りのない話で時間を浪費することになろう。『儂が若かった頃は』で始まる話に、たいてい聞く価値はない。お前達の若かった時代とは何もかもが違うのだ。それがわからないのか。なんでもかんでも昔と一緒くたにしやがる。そういうところが耄碌している証左だというのに。しかも長話をしたあと、どうせ最後はこう締めくくるのだ。『昔は良かった』とな。なぜ、今をより良いものに変えようとしない。今の時代をよりよく変えられなかったのは貴様等だろう。『最近の若い者は』だと? どの口が今の若者を貶めるのか。無責任な老いぼれ共め」
「年配の方に何か恨みでもあるんですか?」
……思い出せないがあるのかもしれない。
「勘違いするなよ。お前達の頼りにしている老人を貶めているではない。長き経験に裏付けされた意見は多くの場合、聞くべき点がある。しかし、経験にないこともあるだろう。今回の場合のようにな。全ての問題に当てはまるわけではないのだ」
はい、と女冒険者は頷いた。
男の冒険者も頷いているが絶対わかってない。
「それでは言わせてもらいます。ここに来るアンデッドの受け入れを拒否すれば良いのではないですか? 元の場所に帰っていくのでは? 加えて、外から来たアンデッドを追放してはどうですか?」
「すでに実施した。どうなったと思う」
「わかりませんが、口ぶりから、良い結果にならなかったことだけはわかります」
「奴ら、帰らないのだ。そもそも墓をなくし、帰るあてもない根無し草のアンデッドばかりがやってきている。無理矢理入ろうとして、いざこざが起きる。出て行かせようとしても同じだ。収集をつけるのは全て俺。最近は日に十回はそれで呼び出される」
「たいへんですね……」
本当にめんどくさい。
勘弁して欲しい。
「それだけではない。霊園に入れないと、園の周囲にたむろして、冒険者やギルドの監視員を威嚇する。されなかったか?」
「されました」
「まだ威嚇ですんでいるが、危害を加えるとなるとこちらも対処しなければいけない」
「はぁ……。でも、街の墓場もちょっと前まではそんなものでしたよ。ダンジョンでしかも霊園なら普通では?」
お前らの街の墓場は大丈夫か?
いや、大丈夫じゃなかったんだろうな……。
そのアンデッドがこっちに来て、おかげでここが大丈夫じゃなくなった。
「俺のダンジョンが脅威だと思われるのは歓迎だ。だが、雰囲気が悪いと見られるのは嫌なのだ」
「はぁ、そんなものですか」
わからないかなぁ。
「雰囲気が悪いと言うことは、管理ができてないということ。俺の管理能力にケチがつく」
実際、管理できてないことは棚に置いておく。
ケチもつき始めている。だからこそ早く手を打ちたい。
「それでは、地面に入るアンデッドと、地面から出るアンデッドを交代交代にするとか」
たしかに足の踏み場はできるだろう。しかし、根本的な問題は解決されない。
女も言ってから気づき、「駄目ですね」と首を横に振っている。
「それではアンデッドの来る数を減らすのはどうでしょう」
「どうやって?」
「あ、俺、わかったぜ。リッチ様の力が、実はそんなになかったって噂を――」
女が杖で男の頭を叩いた。
素早く、力強く、的確な一打と判断できる。
「なーんちゃって! 冗談です! 冗談ですのでリッチ様。この馬鹿はときどきこういった空気の読めない冗談を口にするのです!」
「良い、許す」
なかなか表情と空気を読むのが巧みな奴だ。
俺の逆鱗に触れる直前で回避した。
男の方が地面で痛みに悶えている横で俺たちは話を進める。
「ギルドにここへ向かうアンデッドの討伐依頼をかけてはどうでしょう」
実はそれも考えた。
「私たちで良ければ、代わりに依頼を出しますよ。えっと、ただ、その場合はお金がですね……」
言いづらそうにしているので俺が代わりに言う。
「金に関してケチなことを言うつもりはない。そのときは然るべき手数料も上乗せしてお前達に依頼しよう。だがな……」
まだ、ギルドに依頼は出したくない。
ダンジョン外部への干渉は存分にやってもらいたいのだが、アンデッドが絡むとなれば内部にも繋がる話だ。
そこはあまり干渉させたくない。ゆくゆくはするとしてもまだタイミングが早すぎる。
「うーむ、来る数を減らすという考えは悪くない……が、残念なことにこれからもさらにアンデッドが増えることは確定している。ここに来たアンデッドが言うには、南のアブハラ地区でも俺のダンジョンが噂になっていると聞いた。近いうちに殺到するだろう。それまでになんとか内部で手を打たなければいかんのだ。来る数を減らすのはその後で良い」
「あ……」
えっ、なにその「あ」って、怖いんだが。
チューリップ・ナイツ並の恐怖が、「あ」の一言だけでやってきたぞ。
「ギルドでも噂になってました。でも、聞いたのは南のアブハラ地区ではなく、北のケイルナー地区と東のガルダ地区で大量のアンデッド移動が見られた、と」
「俺が聞いたのは西のケルミ地区だなー。いてて」
「……嘘だろ?」
嘘だと言って欲しかったが、事実のようだ。素直さは時として残酷だ。
やばい、本当にやばい。これはもしかしなくてもチューリップ・ナイツどころの騒ぎじゃないんじゃないか。
東西南北の四地区のアンデッドがここに来る?
最悪、今のアンデッドが倍以上になるということもあり得る。絶対崩壊待ったなし。
「崩壊する。まずい、本当にまずい。何とかしなければ……。やはり受け入れ拒否しかないか。戦いになるかもしれんな」
「人間の敵が人間であるように、アンデッドの敵もまたアンデッドなのかもしれませんね」
お前は何を言ってるんだ、と突っ込めない発言だった。
現に俺自身がアンデッドと戦いになる、とまさに感じていたのだから。
「俺もいいですか」
「もう何でもいいよ。好きに喋れ。今なら何を言っても許す」
何かもう考えるのが嫌になってきていた。
強くなるための訓練は楽しいものだ。
これは何なんだ?
強くなるために必要なことなのか。
脅威を増すための戦力増加が、俺たちの首を絞めている。
紐はすでに首にかかり外れない。そして、絞首台の床は今にも抜けそうだ。
「霊園を新たに造園したらどうっすか」
それができたら苦労しねぇよ。
寝ぼけたこと言ってるとお前もアンデッドにするぞ。
ああ、駄目だ。アンデッドにしたら、さらに数が増える。どうすりゃいいんだ。
「さっきからアンデッドの数を減らしたり、現在の霊園内でどうやりくりするかばかりで、霊園を増やす話がないのが不思議だったんすよ」
女冒険者を見やり、こいつを黙らせろと目で伝える。
しかし、女は男を見ていて、こっちを見てない。
「うーん、そうすると場所は……、北園の入口が東寄りで、東園の入口が北寄りだから、その二カ所からアクセスできるよう北東のエリアを確保して」
地面に、剣を使ってガリガリとシンプルなマップを描いていく。
もう好きにさせてやろう。そんなふうに命を預けるべき剣を扱ってるから強くなれないんだよなぁ。
言ってくれれば、ペン代わりの骨の一本でも出してやるのに……。
「墓をこう配置していって」
「そうか、アンデッド達は自分の新たな住処を求めてきてるから、ここが彼らを納める新たな霊園になり得る」
「そうそう。新しい家を作ってやるんだ。こんなふうに広げてっと」
ずいぶんと楽しそうに、墓の位置を決めている。
「詰めすぎじゃない。戦闘だってあるんだから」
「あ、じゃあ、ここを広くして通路にしよう。水気が欲しいな」
道を大きく取り、なんか噴水まで付けようとしている。
そんなの要らないぞ。手入れが面倒だ。
……そろそろ妄想を破る頃合いだろう。
「あのな。それを誰が作るんだ。俺はダンジョンから出られないと知っているだろう」
「え? アンデッドに作らせればいいじゃないですか」
はい?
「いやいや、さっきリッチ様が言ってたじゃないですか。アンデッド共が霊園の外でたむろして困るって。『外』にいるんですよね。それなら、外にいる奴ら自身に作らせればいいんですよ。自分たちで墓を作らせるんです。作れば、その後は庇護をしてやるってことで。それなら奴らも力を出して作ってくれるんじゃないですか。それと、ここのアンデッドも一部なら出せないんですかね。そうすれば、あのリッチ様の広範囲闇魔法で強化したアンデッドがいろいろ運べると思います」
暗闇に光が灯った。
……うっそうとした森に道が拓かれた気がした。
首に括られていた縄が千切れ、新鮮な空気が肺に流れ込んでくるようだ。
女が得意げに俺を見てくる。
言いたいことがわかるので、認めるべく頷いておく。
「墓石はどうするの?」
「最初は近くの大きめの石とかでいいんじゃね。重要なのは墓石より、むしろ柵かな。適当な物で柵を作り、範囲を囲って、先に霊園という箱だけ作っちまう。それで、その箱がダンジョンの一部と認められれば――」
……真の老害は他ならぬ俺自身だった。
「リッチ様の行動範囲が広がるかもしれない?」
「そうそう。広がるダンジョンもあるって聞いたし、ここもそうできるんじゃないかなってさ」
自らの移動できる範囲を変更できないと思い込んでいた。
自由を謳っておきながら、自らが概念に縛られているとは何と愚かなことか。
「墓石は俺が土魔法で作り、運ばせても良い」
俺も前向きに会話へ加わる。
「いえ、墓石に関しては、霊園という箱ができてからの方がいいんじゃないでしょうか」
「理由を聞こう」
「いきなり与えられたら、それが当然となってしまいます。新たな霊園ができたとき、彼らの功績を認め、褒美として立派な墓石を作った方が、その先――さらなる拡張の時に繋がるのではないでしょうか」
もっともな意見だ。
俺もそんなに墓石を作りたくない。
女の意見なら作る数も少なくて済む上に、効果も大きい。
男はずいぶんと楽しそうに新たな霊園を想像していっている。
北東を初めとして、南東・南西・北西と新たな三区域の妄想を絵に描いていった。
女の方は、男の自由な想像を実現させるための手順を発言していく。
俺の疑問や男へのダメ出しも、不思議とできるんじゃないかと思える方へ持っていく。
若い二人の意見は絶えない。
どんどんと俺のダンジョンの、新たな姿が実際の形として見えてくるようだった。
二人の様子を見ていてふと思う。
「なぜ、お前たちは冒険者になった? 率直に言うが、お前たちは向いてないぞ」
「そんなことは俺達だってわかってますよ。ですがね。やりたいことを学ぶには金が要るし、兄妹がたくさんいると学ぶ金なんかないんです。貧乏っすから。働かなくちゃ。こいつだってそうですよ。せっかくそこそこ勉強できる頭があるのに、父親は死んで、母親は病気。妹たちを食って行かせなきゃならねぇんですから。薬だってもちろんただでもらえるわけがない。街からは離れられない。それなら色街で体を売るか、冒険者になってダンジョンで命を懸けるかってなるじゃないっすか。みんなが楽しく、やりたいことをやれるってのは夢なんですよ」
そういうことを口にするところに若さを感じる。
大人になれば、不満はあってもなかなか口には出していけなくなるものだ。
それに、今の話だと女のために自分も冒険者になったと言ってようなもんだが、気づいているんだろうか。
気づいてないんだろうなぁ。無防備な若さが眩しい。
……夢か。夢ねぇ。
「そうか。才能がないのに冒険者をやるのも大変だな。だが、そのおかげというべきか。お前達は俺の敵にはなり得ない。俺からギルドへの伝言をお前達に依頼しよう。それくらいならできるだろう」
ダンジョンが進むべき方向性は決まった。
そのためにはギルドへ伝えておくことがいくつかある。
伝えなくてもよいのだが、知らせておくと後々スムーズに進むはずだ。
「その依頼報酬と今回の相談料を払うことにする。おい、骸骨。「蒼」の杖を持ってこい。それと隠してあるドロップアイテムもいくつかここに運べ」
上級冒険者「蒼と赫」のリーダーが持っていた杖が先に来た。
ぱっと見でわかる、たいへん良い杖だ。高品質な魔力が杖の中を淀みなく通っている。
「やろう。お前がこれを使っても良い。魔法がかなり強化されるだろう」
女冒険者にそのまま差し出す。
女が杖を握ったところで、俺は杖から手を離さず、言葉を続けた。
「――だが、おすすめはしない。才能のある者が持ってこそ、この杖の価値は発揮される。お前には魔法の才がない。そして、俺はもう既に自分の杖を持っているから必要ない。わかるな?」
女は「はい」と頷いた。
「……俺が使えってこと?」
「売れってことよ、バカ」
高く買う奴が間違いなくいる。
二本杖が買い戻すかもしれないな。
次にドロップアイテムの山を見る。
おい、骸骨。お前、持ってこいとは言ったが限度があるだろ。
そう思って俺が睨むと、骸骨は「どうだ」と言わんばかりに俺を見返してくる。
だめだ、まったく伝わってない。
「闇魔法の練習と実験で、アンデッドを何度も倒しているんだが、低位魔法で強化したアンデッドを倒すと別のドロップアイテムが出るとわかった。発見しだい消滅まで確保している。冒険者に回収された記憶はほぼない。希少性は十分だ。わかるな? わかれよ」
さすがに全部をやれないので適当に見繕って渡していく。
「あの、リッチ様。ありが――」
「礼は要らん」
本当に礼は要らない。
むしろこちらが礼を言いたいくらいだ。
「俺たちは客を遇しただけだ。その客が俺たちの新たな道を示したのならば、報いるのは当然のこと。タダで帰したとあっては、超上級を目指す俺たちの沽券に関わる」
今回の相談結果は実に素晴らしいものだった。
崩壊の危機が解消されるだけではなく、ダンジョンの領域が広がるという脅威も示すことができる。一石二鳥である。
実証こそまだだが、俺の無意識は告げていた。
必ず上手くいくと。
「ダンジョン攻略だけが冒険者ではない。向き不向きがあるのは当然のこと。お前らに戦いの才はまるで感じられないが、それぞれ別の才はあるように思えた。その才を輝かせるには言うまでもなく冒険者でない方が良いだろう。だが、冒険者であっても、その才を磨くことはできる。お前達の心持ちしだいだ。将来、冒険者としてそれらの才を磨いたことが、生粋の道で磨いた才とは別の光を放つようになるかもしれん。……また、お前らなりにここへ挑んで来るが良い。俺が試金石となり、俺なりにお前らを試すとしよう。お前たちが輝きを示すなら、放った光に応じた報酬を与える。――励め」
ダンジョンの成長とは、何もダンジョンだけの成長ではない。
ダンジョンを攻略する側の体制強化も必要になる。
無論、冒険者だけではない。
それを支える人もまた力がいるのだ。
俺の超上級への道は、俺たちの戦力が増すだけのものにあらず。
間違いなく街に住む奴らへも繋がっていくものだ。
こいつらは間違いなく冒険者には向かないだろう。
だが――。
会議は終わり、若い二人の背中を見送る。
俺たちのヴィジョンは共有され、行動計画がきちんと定まった。
互いの輝かしい未来を感じた良い会議となった。
この後はやるべきことをやるだけだ。
俺たちの夢のために。




