新たな問題
上級になったが、対冒険者という面では非常に平和だ。
それでは退屈しているかというと、そういう状況でもない。
上級冒険者がぽつぽつと挑戦しにくるのだが、低位魔法を使えば真昼でも苦も無く倒せてしまう。
その後、何度か試してわかったのだが低位魔法の闇属性付与はアンデッドのみならず、人間にも影響を与えるとわかった。
敵味方、見境いなく闇に染める。そうは言っても人間に与えるプラスは微々たるものだ。
むしろ、人間には混乱効果のデメリットの方が大きく影響するとわかった。
闇に染める範囲のコントロールはまだ完全にはほど遠い。
もっと薄く広く広げたいが難しい。
「お見事でございます。このたびも完勝でございました」
「……ああ、そうだな」
今日も中級を軽くあしらった。
あまりにも相手のしがいがない奴らだ。
「何が、ご懸念がおありですか?」
間違いなく俺たちは強くなった。それは良い。
だが、まずいことが二つある。一つ目は――、
「俺たちには脅威が足りない」
「脅威……で、ございますか」
上級となり、次に目指すは超上級。
上級にはほぼ最短でたどり着いたと思うが、次の超上級への一手が見つからない。
「ギルドがダンジョンの格を指定する基準は主に三点ある。危険度、希少度、脅威度だ」
危険度は、モンスターやボスの強さと環境の厳しさ。
環境の厳しさはともかく、危険度だけで測れば俺たちは超上級に足がかかっているだろう。
ただ、後の脅威度とも絡む部分があり、そこがマイナスに繋がっている。
「さようでございますな。我らの強さはかのチューリップ・ナイツも恐れをなし逃げ出すほど。奴ら、もう他の地域へ移ったと聞きました」
いや、その考えはおそらく間違っている。
そんな簡単に諦めるようなら超上級の冒険者になっていない。
奴らは何かを待っている。その何かとは俺たちが超上級になることではないか。
奴らは前回の戦いで俺たちの力を知った。ここが超上級になると感じ、実際になってから仕留めに来るつもりではないだろうか。
それが奴らが極限級へ上がるための近道にもなると計算しているのでは……。
「考えすぎではないですか」
「そうかもしれないな。次に――」
希少度は、モンスターから出てくるアイテムの価値だ。
貴重なアイテムが出るほど格は上がる。先の危険度と結びつくことも多い。
すなわち、強いモンスターから出ることが多い。雑魚から稀少品が出ても量を調整するため難易度の調整が加えられる。
俺たちの場合、俺のドロップアイテムがまだ出回っていないので、一部のコレクターが欲しがり、これも低くはないと言える。実用性があるかはわからないがな……。
「加えて、王には特殊ドロップもあります」
「そうだったな。きちんと保管できているのだろう?」
「…………もちろんでございます!」
「そこは即答しろよ。本当に大丈夫か」
この二つだけでも超上級に達することはできる。
未攻略でアイテムが超稀少ということになれば超上級に届く。
しかし、これには時間というキャリアがいる。時間をかけて上り詰めたくはない。
そうなればだ。
最後の脅威が、最短を目指す上で問題になってくる。
脅威度は「人間」に対する脅威で測られる。
ダンジョンがあることで周囲の人間生活に害があるかどうか。
俺たちの場合はほぼゼロだ。
まず、人を殺さないというスタンスがある。復讐を糧にさせる気は無い。
アイテムこそ奪ってはいるが、それを使って何かするかというと戦力強化の一点投入。
先の危険度にも絡むが、挑んでも死ぬことがないというのは、冒険者に対する脅威が大きく下がる。
最近は装備もほぼ揃ってきており、俺の低位で強化できるのでアイテムの強奪も減った。
むしろ、あまりにもすかんぴんな冒険者には恵んでやってるほどである。
冒険者への脅威は、さらに下がってしまっている。
加えて場所も問題だ。街から近くない。
近くないので、モンスターがダンジョンの外に出てもさほど問題にならない。
俺は現状でやはりダンジョンの外には出られないので、仮に一部のモンスターが出ても、すぐに駆逐される。
逆に、この霊園は街から遠くもない。
元々は普通の霊園だけあって墓参りに来られる距離である。ダンジョン側として遠くないことは良いことなのだ。
街から簡単に挑戦しに来られるし、ギルドとしては目が届きやすくなり管理もしやすくなる。
挑戦されればダンジョンとしての価値が上がり、きちんと管理されるということはこちらの成果をきちんと評価されるということに繋がる。
しかし、今回の場合に限り、この遠くないという距離がマイナスに働いている。
「王よ。西から、我らに加わりたいと申すものがやって参りました」
またか……。
これが問題の二つ目。
上級になってからこの霊園はアンドッドがさらに増えた。
中級の時はちょこちょこ増えたかなというくらいだが、上級になってからは連日来ている。
これが大問題だとわかったのである。
街の側に湧くアンデッドをこの霊園が一手に引き受けてしまっている。
「最近は街でのアンデッド被害が少なくなってます! みんな感謝してますよ!」
「そうです! 私も父の墓に安心して花を供えられます! 本当にありがとうございました!」
装備品で買収した初級冒険者はこう語った。
さすがの俺も思わぬ感謝の言には精神的ダメージを免れない。
……というか、お前の父親、アンデッドになって俺たちに混ざってないか。
戦力増強を画策し、危険度と脅威度を同時に上げるべく迎え入れていたのに、逆に脅威度がマイナスに転じるとは、計算違いだった。
さらに数が増えることのデメリットは、脅威度のマイナスだけに留まらない。
「ここもずいぶんと賑やかになりましたな」
にぎやかすぎる。
アンデッドが増えすぎている。
まだ昼だからいいが、夜になるとむごい。
動物死骸も徘徊し、足の踏み場がないくらいだ。
どう考えても墓の数よりアンデッドが多い。
さらに各霊園で、外部のアンデッドが増えていざこざが増えている。
元々いたアンデッドと、新しいアンデッドとの間でつまらない争いが生じるのだ。
それに俺がいちいち出向いて大人しくさせる必要があり、非常にめんどくさい。
どちらの骨が、より魅力的かなんてほんとどうでもいいんだよなぁ。
訓練も実力の差が現れ、上手く進んでいない。
戦力増強どころか、弱くなりつつある。それどころかこのまま増えれば破滅が予感される。
アンデッドの多頭飼育崩壊の現場が、まさに今、ここに広がっていた。




