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上級(もうサブタイ考えるの疲れた)

 翌日は曇りだった。

 晴れておらず、少し安心しているが、油断は命取りになる。


「昨日よりは少しマシ。それくらいに考えておけ」

「おっしゃるとおりかと。油断は禁物です」

「それ、踊りながら言う台詞じゃないぞ」


 骸骨はさっきからずっと俺の前で楽しげに踊っている。

 しかも上手いのが余計にもやっとする。


「そうは申されましても。昨日の余韻が抜けませんでな」


 アンデッド共は夜中騒いでいた。

 歌って、踊って、叩いて、笑って、叫んで。

 生者よりも生者らしい、酒を飲んでないくらいか。


「今のうちに低位魔法を使っておくか」


 黄色の騎士が言ったところの「闇属性の付与」だ。

 夜中にも試してはみたが、昼と似たような現象は再現できた。


〈闇よ。来たれ〉


 小さな闇が生じる。

 骸骨がぷにぷにと押すが何も起きない。


「やはり、消費を抑えると駄目だな」

〈闇よ! 大地を覆え!〉


 かなり魔力を消費させて行使してみる。

 やはり現れるのは小さな闇。


「せい!」


 骸骨が闇を叩き落とすと、闇は昨日と同じように増殖していく。

 見える範囲全てまではいかないが、昨日と同じように周囲が闇に覆われていった。


 俺や骸骨も闇がへばりついてくる。

 確かに、昼間でもあまり疲れがない気がする。

 俺にとってはいつもよりはマシかなという程度だ。


「王には常日頃から闇が付与されているのかもしれません」

「あり得る話だな」


 俺はさほど変わらない。しかし、アンデッド共は違う。

 動きが明らかに変わる。骸骨の踊りがどんどん激しく、キレもよくなっている。


「これを纏っているとですな。何か楽しくなってくるのですよ。こう、高揚感が出てくると言いますか」

「他の骸骨も言っていたな。闇属性の付与ね。それと踊りはそろそろ……好きにしろ」


 具体的な効果は不明だが、おそらく長時間付けると錯乱してくるのだろう。

 錯乱というデメリットはともかく、これは非常に大きな武器になる。

 周囲一帯のアンデッドを大幅に強化ができた。


 これに訓練を重ね、戦術を乗せていけば、もうこいつらが足手まといになることはない。

 今度こそ真に足並みを揃えて戦っていける。


 ただ、魔力の消費はやはり大きいな。

 尋常じゃないほどの魔力を食わせないと効果が発動しない。

 閾値を超えると効果はきちんと出るのだが、少なくとも全魔力の半分は消費しないといけない。


 道理で今まで発動しなかったわけだ。

 闇魔法の魔力効率の良さという利点から完全に逆方向を向いている。

 あるいは使っていけば、効率は良くなるのかもしれない。ここは俺も研鑽あるのみだろう。


 昨日の魔力消費は一度で全体の三分の二ほどだった。

 仮に全魔力を注げば、この霊園の二地域くらいは闇に覆うことができるかもしれない。




 一週間は平穏だった。

 ついに冒険者がやってきた。


「やばい! やばいって! 上級ダンジョン、はんぱねぇよ! 逃げることしかできねぇ!」

「無理に決まってるじゃん! 上級だよ! どうしていけると思ったの! おかしいでしょ! ねぇ! 私たちは何? 初級だよ! 私たち初級なんだよ!」


 また、こいつらか……。

 すごい勢いで逃げ回っている。逃げるのだけ上手くなっているな。

 しかし、聞き逃せないことを言っていた。


「さっさと追い返せ」


 冒険者が帰ったところで骸骨がまた現れる。

 正面に傅き、重要なことを告げる姿勢だ。


「王にあっては、すでにお承知のこととあられましょうが――」

「ああ。知っている。聞いていたぞ」

「このたびは、――誠におめでとうございます」


 悪い気分じゃない。

 ついに、中級を越えた。


 上級だ。生きているときと同格になった。

 実際はダンジョンの格は冒険者よりも常に高いので生前を越えている。


 しかし、それは俺だけの活躍じゃない。

 さあ、俺たちがどうなったのかをお前の口から言葉にして伝えてくれ。


「こちらが我々の新たな仲間。動物死骸(ビーストカカス)になります」


 …………なんて?


 骸骨の後ろから、猫だったと思われるアンデッドがとことこと歩きよってくる。

 あらやだ、かわい……くないな。中身がいろいろ飛び出してる。


「みぃぃぎゃぁああ、おうぇえええ~」


 鳴き声がひでぇ。

 こんなのが路地から出てきたら子供が泣くぞ。


「おお、さっさく懐いているご様子。素晴らしい!」


 これ懐いてるのか。

 俺のローブで手の汚れを拭いてるんだが。


「それと、我々は上級になったようです。さらなる高みを目指し、励んで参りましょう」

「順序! なんで猫が先なんだよ。どう考えても逆だろ!」

「――ああ、これは臣の不徳の致すところ。平にご容赦を」


 骸骨は頭を下げ、落ちた頭蓋骨を腕で上手くキャッチする。

 なんかこれを見ると怒る気力も失ってしまう。


「もういい。わかればいいんだ」

「先に犬の動物死骸を連れてくるべきでした。不覚、王が犬派とは……、ご安心を。そちらもきております。すぐに連れて参りましょう」

「違ぇよ! 順序ってのは、そうじゃねぇんだよ。……もういいや。上級になったんだな」


 俺は笑う。

 骸骨も笑う。笑いながら猫の動物死骸を撫でようとしている。

 お前、本気で引っかかれてるぞ。めちゃくちゃ嫌われてるじゃないか、俺は猫派だからわかる。




 そんなこんなで俺たちは上級になったのだった。

次回:明日の夜

⇒11/28 18:00

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