四の五の言ってる場合じゃない。とにかく生き残るんだ
アンデッドは夜に活動する。
昼は基本的に出てこない。日の光が苦手なのだ。
この地域は曇りのことが大半なので昼でも出てきているが、それでも動きは鈍る。
それでは快晴になるとどれほどになるか。
まず骸骨共は軽く触れただけで倒れてしまう。ゆっくり歩くことが限界だ。
霊体たちは日の下では歌えなくなる。影での行動を余儀なくされる。
屍人も似たようなもので、普段の力は一割も発揮できない。
腐れ包帯に至っては包帯だけ残して蒸発する。
もはや訓練の成果どころか、活動すら困難な状況だ。
実際に手の打ちようがなく、東西南の三園が冒険者に制圧された。
中央にいては四面楚歌となるため、一番冒険者の層が薄かった北園に移動し各個撃破を狙う。
快晴はつらいとわかっていたが、思った以上に力が発揮できない。中級冒険者を仕留めるのにも苦労する。
「よし、次だ」
北園の冒険者を戦闘不能にし、東と西のどちらが攻めやすいかを考える。
西だろうなと判断したところで、背後から気配を感じた。
「王よ。北園に新たな侵入者です。数は三」
姿は見えないが、そちらから仕留めるとしよう。
三なら力押しでなんとか――、
「な……に……」
その姿が見え、思わず声が出た。
ここで全て悟った、北園の戦力が薄かったのはわざとだ、と。
俺がまずここを襲うと読まれていた。その間、他の冒険者に別の園を制圧させたのだ。
そして俺が北園を片付けた頃になってから、この三人を投入し、逃げ場を失った俺を全方位から制圧する作戦と判断できる。
新たな侵入者を再度見る。
三人は、それぞれ三色の鎧を身につけている。赤と白と黄色。
赤の騎士は剣を持ち、白の騎士は槍を抱え、黄色の騎士は矢をつがえる。
三人それぞれにまったく隙が見て取れない。
隙どころか全身が鎧に包まれ、表情すら読み取れない。
初めて見るが、間違いない。
「チューリップ・ナイツだと……」
かわいらしい名前だが、完全な脳筋パーティー。しかも超上級。
成り立ての上級もどきとは違う。実際に超上級ダンジョンを一つクリアしている実力派だ。
極限級に一番近い超上級と言われているが、それは誇張ではない。
ギルドの本気さをうかがえる。
出してきても上級だと思っていたが、考えは甘かった。
いずれ戦うべき相手ではある。それが自らやってきてくれたと考えるべきか。
〈闇よ! 我が敵を貫け!〉
飛ばした闇は、赤の剣と青の槍により弾かれた。
二人の騎士の間から、黄色の騎士が俺に向かい弓を引き絞っていたのが見えた。
〈闇よ! 我が身を――〉
その矢は雷鳴のごとく速く、魔獣に牽かれる戦車のごとく力強く、光属性まで容赦なく付与されている。
現れた闇の壁を、ぼろ紙のように軽々と貫き、俺の肩口を抉った。
〈闇よ! 獣の形をとりて、騎士共を食い破れ!〉
使い魔を数体呼び出し、時間を稼ぐ。
今のうちに他の園へ移動し、包囲網を突破する。
今の一撃で悟った。
現状でチューリップ・ナイツの相手は無理だ。力が足りない。
なんとかダンジョン内に仕込んだ仕掛けをつかって各個撃破しつつ時間を夜まで稼がなければ。
他の園へ移動しようとするが、三人の騎士は使い魔を倒し、すぐさま俺を追ってくる。
ひたすらに無言。ひたすらに合理的。ひたすらに暴力的。その圧は恐怖を感じさせるのに十分だった。
〈闇よ!〉
がむしゃらに魔法を撃つが意味はない。
弾かれ、斬られ、撃ち貫かれ、どれも時間稼ぎにすらならない。
距離をなんとか保つことだけで精一杯だ。それでもじわりじわりと詰められていく。
「ぐっ」
足を矢に貫かれ、機動力を失った。
なんとか使い魔が時間を稼いでいるが、逃げることができなければ意味が無い。
「これまでか」
本当にそうだろうか?
俺は、俺たちは全てを出し切ったか?
………………違う。
「また、チャンスはある」
俺は不死、それにボスだ。
死ぬことはない。ここで破れてもまたいずれ機会はくる。
…………違う。
「今回は、諦めるか」
無論、現状を覆すのを諦めるだけ。
次に向けて全力を尽くし、こんなことが二度と無いように対策を打つ。
……違う。
「俺一人で、何とかしなければいけない」
こんな天気ではどうあがいてもアンデッドでは無理だ。
みんなで楽しむとは言っても、種族特性をくつがえすことはできない。
違う。
「違う! 大切なのは今! 今、このときだ! このチャンスを逃して上へ上がれるものか! 俺はまだ戦える! 俺たちで超上級へ上がるんだ! まだだ! まだ何か絶対に手がある! 俺たちが上を目指すための手が! 俺の闇魔法はこんなことでは終わらない! 諦めるものか!」
叫ぶ俺の脳裏に到達点からの言葉がよみがえる。
『低位の使いかたを覚えれば、さらに上を目指せるだろう』
言われるような低位の使い方はわからない。
だが、俺は低位を使える。全力で使ってみるしかない!
『闇魔法はすごく霊園やアンデッドの印象に合いそうだ』
俺だってそう思うさ!
だが俺だけが戦っても意味が無い。
『アンデッドはお前と手を組みたがっているように感じたが、私の気のせいだったかもしれない』
違う!
勘違いではない。奴らは全力で俺についてきた。
超上級を目指すと、何も顧みず俺に従い、訓練も続けてきたんだ。
『お前一人が強くなろうとするならまず無理だろう。だが、他のアンデッド共と手を組めばできるんじゃないか』
できる!
俺だけじゃない。俺たちで強くなるんだ!
『私も本気で攻略し、相手も本気で迎撃してくる。だから楽しめるんだな』
そうだ。
俺たちは本気だ! だからこそ楽しめる!
『そこはぜひ伸ばしていって欲しい』
そことは何だ?
何を伸ばせばいいんだ。
『闇の本質からは大きく外れてるけど、真価は比類無く発揮できてる』
闇の本質? 真価?
本質とは何だ。真価とは何だ。何が違う。
闇の低位と真価発揮がどう結びつく。
どう使えばいい?
わからない。
よくわからない。
まったくわからない。
だが、それでいいじゃないか。
俺はいつだってそうしてきた。よくわからないが突き進む。
難しいことは後回し、使えるならそれでいい。なるようになる。やってやるんだ!
〈闇よ! 俺が――俺たちこそが闇の淵! あまねく地平に闇を敷き、俺たちの征く道を成せ!〉
全力で唱えた。今ある魔力を全て込めた。
どうせ敗れるなら魔力を残しておいても意味は無い。
俺の全てをくれてやる。むしろ魔力切れで消えてしまうのか。
そんなことは知ったことじゃねぇ!
低位をずばりどう使うのかは知らないし、闇の本質とか知ったことじゃない。
それに俺は闇の真価など「よくわからない」。
なんとかするんだ! しろ!
ただこれのみである。
俺だけじゃない、俺たちで戦い抜く!
全力で楽しみ抜くんだ!
そして、魔法は発動し――闇は静かに顕れた。




