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戦っているんじゃない。演じているんだ

 アンデッドの視界を少し借りて、冒険者の姿を確認する。

 これもかなり精度が上がった。以前よりはまともに形姿がわかる。


 前衛二人、フレイルと盾を持つ男、それに双剣を持つ男。

 双剣は速さで引っかき回す役、フレイル盾は守りだな。

 双剣が自由に動けないよう足を止める必要がある。


 中衛二人、クロスボウを持つ……ドワーフか。

 土魔法による矢の生成も視野に入れよう。

 斥候がアイテム袋を見えるだけで三つも付けている。

 こいつは何をするかわからない。早めに落とす必要がある。それとアイテムはもらう。


 後衛に魔法使い。

 やや後衛偏重のパーティーだと感じたが、魔法使いが両手に杖を持っていることに気づく。

 二本杖の魔法使い、これだけでこいつらが何者かわかってしまう。


「上級パーティー『蒼と赫』だ」

「有名なのですか?」

「ダンジョン攻略メインをしている。最大の特徴は、全員が元魔法使いであるということ。」

 

 新進気鋭のパーティーということで話題になっていた。あっという間に中級から上級へ上がったはずだ。

 わざわざこんな中級に来るようなパーティーではないはずだが、よほどギルドからおいしい条件を出されたか。

 あるいはダンジョンがあるから挑みに来ただけなのか。


 どちらにしても有名人というのは大変だ。

 何をしてくるのか、やる前からある程度わかる。

 欲を言えば、初戦の相手はもっと軽めの方がよかったのだが……。


 運が良いことは、一パーティーだけということだな。

 奴らには何もさせるつもりはない。


「伝令。北のメンバーはゲストを中央園までご案内。東、南、西は中央に集合。初っぱなからメインステージだ」

「王命である! 北のメンバーは――」


 骸骨が指示を全員に飛ばしていく。

 なぜかこいつの声はダンジョン全域に伝わるらしい。

 それどころか対象を狙って声を伝えることすらできるとも言っていた。

 けっきょくのところ、隣に置いておくのが一番便利だとわかった。それ以外で役に立たない。


「始まりましたな」

「奴らに披露するとしよう」


 戦闘もほどほどに骸骨達が中央園へ冒険者を連れてやってきた。

 誘い方がうまくなったのもあるだろうが、冒険者達も俺を狙っているのだろう。

 自ら誘い込まれて、さっさと俺を倒すつもりのようだ。


「俺たちのダンジョンへようこそ! 上級パーティー『蒼と赫』の諸君!」


 いつもの広場、所定の位置までおびき寄せたところで、奴らに姿を隠してから声をかける。

 彼らは俺の声に反応し、すぐに迎撃用の陣を構築する。


 実際に見てわかった。かなり魔法を自らに重ねがけをしているな。

 状態異常への抵抗、力や魔力のアップ、素早さのアップももちろんかけている。


「我々のことを知っているようだな。それならさっさと出てきてくれないか。時間の無駄だからな」


 リーダーの二本杖が応えてきた。


「申し訳ないがそれはできない」


 こいつらとまともに戦えば接近戦は免れない。

 それは最後の手段と教わっている。


「我々が怖いか? リッチになっても怖いものはあるようだな!」


 冒険者共が笑っている。


「怖い? 実を言えばそれもある、だがな俺たちはそれ以上に楽しんでいる。しかし、なにより最大の理由が別にある」

「それは何だ?」

「メインは――遅れて登場するものだろう。やれ」

「開始せよ!」


 骸骨共が奴らの四方から地面を這い上がり現れる。

 俺も四方に闇魔法の使い魔を出現させた。


 何かが現れることにより、否が応でも生じる緊張。

 狙うべきはまさにそのタイミングだ。


 ――今だ。


 俺は展開しておいた闇の構築物を消去する。

 その構築物は奴らの足下に埋めており、その上に土を盛り直していた。


「なにっ!」


 奴らにとっては足下が急になくなるということだ。

 すぐさま対応できたのは双剣使いのみ。地面を転がり、なんとか落とし穴から逃れた。


〈闇よ。奴の足を絡め取れ〉


 一度に全員の相手は俺でも厳しいだろうが、各個撃破なら余裕だ。

 双剣使いが闇に足を取られたところで屍人二体を動かして追撃させる。

 さらにスケルトンの物量で身動きを封じた。


 並行して穴に落ちた奴らの処理だ。

 最初に出てきていた骸骨が我先にと穴に飛び込んでいく。

 さらに、穴の側面や下からも骸骨を大量に出現させる。

 一体一体は弱いのだが、狭い範囲で大量に出れば脅威になる。


〈闇よ。剣となりて奴らに落ちよ!〉


 骸骨が目隠しにもなり、俺の闇魔法の良い的だ。

 穴の上から徹底的に闇魔法で攻撃していく。


 数を重視する分だけ威力は落ちる。

 しかし、奴らが強化していようとダメージの蓄積は免れない。

 

 加えて穴の外から、待機していた骸骨や屍人が土をかぶせていく。

 奴らを物理的に埋めていく。骸骨は埋まっても自力で出てこられるので問題ない。

 それどころか骸骨は土の中でも動きが取れる。形勢が逆転する。


「王よ」

「ああ、そろそろだな。歌わせろ」


 いくつもの霊体(スピリット)らが四方八方から現れる。


「あーたーまーよー――」

「こーわーいーのー――」


 奴らも対精神魔法を使っているだろうが、それが効くのは意識が平常なときだ。

 今のように焦りやダメージが蓄積していくごとにその魔法や薬の効き目の消失は速くなる。


「斥候とクロスボウ使いが倒れたようです」

「よろしい。その二人は穴からどかせろ」


 骸骨が指示を出す。

 残りの二人がなかなかしぶとい。

 ここまではしたくなかったんだがな。


「やはり全部やるか」

腐れ包帯(マミー)チーム、出番だ!」


 骸骨がすぐさま腐れ包帯を動かす。

 この腐れ包帯は動きこそ遅いのだが、地味に力が強い。

 そこはしょせん初級なのだが、一番厄介なのは死んだときに死臭と腐食液をまき散らすことだ。

 装備やアイテムをなるべく良い状態で手に入れたかったので使いたくはなかったのだがな。


 腐れ包帯が埋められつつある穴に落ちていき、俺の降り注ぐ闇魔法をその体に受け倒れていく。

 そして、逃げ場のない穴の中で臭いと腐った液体をまき散らす。


 広場にいる全てのアンデッド達にそれぞれの役割があった。


 穴の外にいる奴を押さえ込む奴ら。

 穴の中で冒険者の動きを封じる奴ら。

 穴を埋めるべく、外から土を運んでくる奴ら。

 さらに全体へ状態異常を振りまく歌を響かせる奴ら。

 追撃とばかりに穴へ特攻をしかける奴ら。

 そして、それらの援護をする俺と伝令係の骸骨。


 俺たちは今、まさに一丸となって冒険者と戦っている。

 いや、戦っていると言うよりも、おのおのの役を演じていると言った方が近い。


 これが俺たちが行く超上級への道だ。


「どうだ? 楽しいか?」

「王もお人が悪い。みなの様子をみればおわかりでしょう」


 見てもわからないから聞いてるんだが……。


「魔法使いが倒れたようです」

「あの二本杖は魔法使いの姿こそしているが、バリバリの接近戦が専門なんだぞ。パーティーの後ろで警戒してただろ」


 杖に込めた炎と氷の技で周囲を圧倒するとかしないとか。

 今回はできなかったようだがな。


「さようでございましたか。……残る一人はしぶといですね」

「そういう役割だ。味方を守り抜くのが、シールダーの存在意義だからな。なに、すぐに落ちる。シールダーを落とすのは得意だ」


 ……そうだったのか。

 無意識に出た自らの言葉を聞いて、驚きが出てくる。。

 最近は収まっていたが、やはり闇魔法を使い続けると記憶の混乱が増すな。


 全員が必死に手を動かす。

 一つの結果のために全員が同じ方向を向く。

 他の一切を顧みず、ただ一点の目的のためひたむきに走る。


 おぼろげに思い出す。


 これが俺の求めていたこと。

 生きていたときにはできなかったことだと。

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