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死んでいるんじゃない。生きていないんだ

 昨日の今日で冒険者がやってきたので、アンデッドの戦闘を遠くから観察する。


「王が見ておられる! 我々の雄姿を見せるときだぞ! ぶわぁあああ!」


 スケルトンは中級と思われる冒険者の剣、それに魔法によりあっさりと砕け散っていた。

 相手が中級とはいえ、あまりにも無力。魔法でまた吹き飛ばされている。


「ぎゃああああ! 闇の王! バンザーイ!」


 喋る力があればもっと他のところに力を回せよ。


「ああっ」


 魔法使いの攻撃で墓石が吹き飛ばされた。

 壊れた墓から複数のスピリットが出てきて冒険者の周りを飛び回る。

 なんで壊れてから出てくるんだよ。誰が直すと思ってるんだ。


「あーたーまーよー おーかーしーくーなーれー」


 今さら混乱の歌とか遅いだろ。それ、骸骨が襲いかかってるときに歌えよ。

 というかそんなシンプルな歌詞だったのかよ。


「ベイ。あいつを――」

「わかってる」


 冒険者が連携を取り始めた。

 光属性のエンチャントされた弓がスピリットを貫き、あっさり光に消えてしまう。

 腐れ包帯や、屍人も出てくるが、戦いと呼べるのはせいぜい屍人だけだ。

 戦略どころか戦術がいっさいない。これでは駄目だ。


〈闇よ。あの冒険者共を貫け〉


 もう見ていられなかった。

 屍人にトドメを刺そうとしていた冒険者を背後から襲う。


「うぁっ!」

「出たぞ!」


 途中から隠れていなかったが、気づかれることはなかった。

 中級になりたてなのだろう。軽い怪我と装備だけ奪って帰してやる。

 また、良い装備を持ってきて挑んでくれれば、長い目で見るとプラスだろう。



 難なく冒険者を撃退し、俺の居場所である中央園に戻る。


 この霊園は大きく五つのブロックに分かれている。

 東西南北の四園とその全てにアクセスできるここ中央園だ。

 入口は東西南北のどこからでも入れるので、全方位から一気に攻められると厳しいか。


「王よ。何かお悩みごとでもおありですか」


 また出たよ。

 まあ、いい。こいつに話をしとけば他の奴にも伝わる。


「先ほどお前達の戦い振りを見た」

「さようでしたな。東園の者たちも喜んでおりました」


 喜ぶ?

 喜んでいる場合じゃないだろう。

 超上級を目指すと言ったのに、あの戦い振り、そして蹴散らされているにもかかわらず、見られて喜ぶだと?

 駄目だな。


「お前達は死んでいる」

「おっしゃるとおりでございます」


 そうだったな。俺も死んでた。


「……言葉通りの意味ではない。言い方を変えよう。生きていないんだ――今をな」

「まさに王の言う通りかと。我ら皆、アンデッドにございますれば」


 いや、だからな。

 言葉の表面だけ受け取らないで欲しい。


「倒されても復活するという現状に胡座をかいている」

「――とおっしゃいますと?」

「お前らは本気で戦っていない。本気で生き抜こうとしてないんだ」


 何か言おうとした骸骨を手で止める。


「一つ問う。なぜお前たちは冒険者と戦う? 俺の存在を抜きとしてだ」

「奴らが我々の静穏を破るからでしょう」

「違うだろ。本当にそうなら、土の中に潜っていれば良い。モンスターが出てこないなら冒険者は来ない。アイテムが手に入らないからな。試しに一週間ほど土に潜ればすぐわかる。お前の言う静穏が手に入るぞ」


 おそらくギルドが調査で冒険者を送ってくるだろうが、俺が上手く隠れれば、ここはただの霊園になる。

 静寂の完成だ。俺は静寂など求めていない。


「戦う理由をもう忘れてしまったか。……無理もない。お前達はダンジョンにより飼い馴らされすぎてしまっている。俺は最近まで生者だった。そして、お前達も元は生者だったはずだ。それなら俺が思い出させてやろう。なぜ、お前達が冒険者共と戦うのかを」


 最初は俺もダンジョンに入ってくる冒険者に不快感があった。

 それはボスモンスターとしてのものだと考えていたようだがそれは違う。


「――生者が妬ましいのだ。俺たちはみな生きている者が妬ましい。飯を食い、酒を飲み、陽の下を制限無く自由に闊歩する奴らが妬ましいのだ。」


 俺は妬ましい。

 なぜ力のある俺がこんなところで死に、力のない冒険者共が生を謳歌するのか。

 生来の妬ましさが限界突破して、死んでも死にきれず、生ける屍に成り果ててしまったのだ。


「すなわち、王が我々に求める本気の生というものは、生者に対する『復讐心』で測られるものでしょうか?」

「否!」


 俺は空に手を伸ばす。

 日は雲に隠れ、薄ぼんやりとしている。


「俺はここを超上級ダンジョンにするとすでに決めた。これは確固たる夢であり目標だ。ゆくゆくは極限級。究極目的はさらにその上だ。しかし、それは復讐心により成されるものであってはない。生者が妬ましいから襲うといったような矮小な心では達することができん。俺もそれに昨日気づいた」


 さらに到達点(メル)は言っていた。


「俺たちは楽しみながら超上級へ至る」

「楽しむ、ですか?」

「なるほど確かに俺たちは生者が妬ましい。だが、生者を殺しても俺たちの気は晴れん」


 まだボスとして人を殺していないが間違いない。

 一時は充足感を得るが、それは空気のようにスカスカでつかみ所の無いものだろう。


「到達点は言った。自身が攻略を楽しむと同様に、ダンジョン側も楽しんでいると」


 あのときは独特の理論だと思ったが、今なら少しだけわかる。


「俺たちは生者よりもこのダンジョンを謳歌する。生者が俺たちを妬ましいと思えるほどにダンジョンを盛り上げていくのだ。ダンジョンが俺たちを縛るんじゃない。最初から俺たちは自由だ。ダンジョンを楽しさで満たし、外へと溢れだしていく、生者達が妬むほどに楽しみ尽くす! それが俺のヴァスィアの目指す超上級だ! どうだ?!」

「よくわかりません!」


 骸骨は正直に返答した。


「わからないか?! 実はな、俺もだ! どうしたら楽しめるのかがさっぱりわからない。俺はもっとこのダンジョンを知る必要がある。この霊園の全てを知り尽くし、新たな手を打ち、変えていくのだ! そのための第一歩として何をすれば良いかだけはわかる!」

「さすがは闇の王でございます! ――して何をなされるおつもりですか?」


 楽しみながらダンジョンを盛り上げていくと決めた。

 「一人で」ではない、ここにいる「アンデッド共」とである。


 それならば、まずは一緒に楽しもうとしているアンデッド達をより詳しく知らねばならない。

 詳しいことは後にして、まずすべきはこれだろう。


骸骨(スケルトン)。お前の名は何だ?」


 今まで当然のように喋っていたが、名前すら知らなかった。

 おそらくこの先も長い付き合いになる。まずは一人ずつその名を問うていくことにした。


 骸骨も口をわずかに開け、すぐにキッと引き締めた。

 このふざけた骸骨にも、今の問いの重要性が理解できたのだろう。

 超上級への偉大かつ重要な第一歩、その一人目に白羽の矢が見事当たったのだ。


 俺は骸骨の顔を見て、真面目に聴く体勢を整えた。

 骸骨も姿勢を正し、俺が聞き逃すことがないよう、ゆっくりと口を開いた。





「覚えておりません」


 …………骸骨くんさぁ。




 このように俺の超上級ダンジョンへの第一歩は踏み下ろされたのである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] メルさんじゃん、と思ったら活動報告にかいてありましたね
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