表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/48

追い出されたんじゃない。出て行ったんだ

 何を言われているのか理解できなかった……。


「もう一度言うぞ、ヴァスィア。俺たちはもうお前とはダンジョンに行かない」


 リーダーのアレティは淡々と同じ言葉を繰り返した。

 ヒーラーのカロも、スカウトのサンドルも俺をにらみつけている。


「ど、どうしてだ」


 やっと口から出てきたのはそんな言葉だった。


「どうしてかって? カロ、教えてやってくれ」


 ヒーラーのカロが俺を睨む。


「あんたの魔法のせいだよ」


 感情を努めて押し殺した声だった。


「俺の魔法のせいだって? そんな馬鹿な」

「あんたねっ!」


 カロが怒って席を立ったところで、斥候のサンドルが彼女を制した。


「だってそうだろ、サンドル。 俺は今日もモンスターを倒した。ボスだって俺の魔法がなければ倒せなかったはずだ」

「そのとおりです」


 サンドルは首肯する。


「ですが、倒したモンスターの数以上に、周囲の冒険者を倒しましたね。加えて、ここにいないガレフも貴方が倒しました」


 俺たち上級パーティ「深淵と大鎌」は五人パーティーである。

 ちなみに俺の闇魔法で倒れたガレフはカロの恋人で、パーティーを守るシールダーだった。


「あんたがふざけて闇魔法をぶっ放すからでしょ!」


 カロ、本日二度目の怒りの叫び。涙目である。


「ふざけてなどいない」


 ガレフは俺の本気の闇魔法に巻き込まれて吹き飛んだ。ついでに意識も飛んじまった。

 しかもガレフの意識が飛んだところでボスが出てきて、モンスターも押し寄せてきたので危機的状況ってやつだ。


「今日も生き延びた! 生き延びて食う飯のうまさを知っているか? 何をしている。さあ、速く飯を頼もう! 俺は腹が減った」

「これが何かわかる?!」


 カロは指さす。


「机だ」

「机の上に置かれてるこの紙の束よ!」

「冗談の通じない女だ。そんなんだからガレフといつまでたってもセッ○スできないんだ。先日だったな……。ガレフが俺に相談してきてたよ。カロが真面目すぎて酒を二人で飲みに行っても、飲むだけでお開きになっちゃうんだ。股を開いてくれないよぉってな」

「あ、ああ……、あんたねっ、フガッ、フゴ、フガー!」


 サンドルが再びカロの口を押さえつけ、抑えられたカロは目を真っ赤にさせて暴れている。


「ヴァスィア。今日は冗談はなしだ」


 アレティが落ち着いた様子で語りかけてくる。

 大の酒好きのこいつが酒をまだ頼んでない時点で真剣な話だということはわかっていた。


「お前の闇魔法は強い。俺たちが上級までこれたのは、間違いなくお前の闇魔法の存在が大きい。でもな、あまりにも損害が大きすぎる」


 机の置かれた紙束を上から一枚取る。


「まず、今回の闇魔法の巻き添えを食った冒険者達の治療費。次にほぼ壊滅させてしまった中級パーティー『赤鉄の兜』の当面の活動休止の補填代。ダンジョン入口の看板の立て直し代。さらに他の冒険者たちからの苦情状が約半分だ。ギルドからは、これ以上やったら全員の冒険者証を剥奪すると警告もあった。ギルド長から直々にな。彼らは本気だ」


 アレティはここで水を一口飲んだ。


「闇魔法はしばらく使わず、ダンジョンを攻略しないか。他の魔法だって――」

「断る」


 即座に首を横に振る。


「俺はこの闇魔法で、超上級のパーティーになると誓った。忘れたか?」

「パーティー名も俺の鎌とお前の闇魔法から取った。忘れるわけがない。俺たちの夢だ」


 元は俺とアレティの二人で始めたパーティだった。

 「深淵」が俺の闇魔法を示し、「大鎌」がアレティの大鎌を示している。


 サンドルが加わり、続けてカロが入り、最後にガレフが加入し、今の五人パーティーになった。


「でもな、ヴァスィア。俺たちはもう上級なんだ。今のメンバーは強い。焦らなくても、地道に活躍を重ねれば超上級に手は届く。お前の闇魔法だって抑えれば――」

「アレティ、それじゃ駄目だ」


 俺はやはり否定する。

 意識が守りに入っている。


「焦らず、地道っていうのは冒険者じゃない。焦り、常に最短を狙ってこそ冒険者だろ。事実、俺たちはそうやってきた」


 サンドルとカロが戻ってきたが、俺とアレティを静かに見ている。


「ヴァスィアの言わんとしていることはわかる。俺だってな。本当はそうしたい。でもな、今の俺はこの上級パーティーのリーダーなんだ。他の三人の食い扶持を確保し、上級パーティーとして他の冒険者に上級としての在り方を示す必要があるんだ」

「他の仲間が重荷なら外せば良い。上級の肩書きが行動を縛るなら、これも外してしまえば良い。また二人で中級くらいからやっていけばいいじゃねぇか」


 いつもならここでアレティが折れるのだが、今日は目線を外さない。


「そうか。わかってくれないか。ヴァスィア、これが最後だ。お前が闇魔法を使い続けるなら俺たちはもうお前とダンジョンには潜らない」


 アレティが席を立ち、そのままギルドから出て行く。

 サンドルとカロもアレティに続いた。

 俺だけが椅子に座っている。


「ヘイ、ウェイター! パンと酒を持ってきてくれ! おすすめのツマミも頼む!」


 今日が「深淵と大鎌」のヴァスィアとして、最後の活躍だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 追放者には珍しく真っ当な追放理由。 こう言うの好きです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ