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幻想少女四編《Quartette》  作者: 伊集院アケミ
第三章「黒衣の少女」
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第33話「誇り高きものの堕落」

 少なくとも、「他者の視線を常に意識し、読者のために書きましょう」というテーゼを素直に受け入れた、昔の僕に罪がない事は明らかだ。愚か者であったことは否定しないが、僕を嵌めたのは、僕にそれを勧めた作家様である。


 僕は、彼らがそんなひどい連中だとは思いもしなかった。彼らの罠にはまった僕は、評価という地獄と、意識という病に捕らわれ、部屋に引きこもってこの『手記』を書く以外に、何もできなくなってしまったのだ!


 これはもうなんのことはない、本当の暗渠だ。だが僕は、本当に悪いのは奴らの方だと思いつつ、やはりある種の痛みを感ずる。そして、訳がわからなくなればなるほど、ますますその痛みはひどくなっていくのである。


 さて、ここで一つ、自著を紙で出す夢を諦めきれない底辺作家を想定してみよう。彼は底辺ではあるが、誇り高き人物である。名前は何でもいいのだが、ここでは仮に、伊集院アケミとしよう。


「はっはっ、なるほど! してみると、君は無視される事にも快感を見つけだそうというんだね?」


 諸君は笑いと共に、彼をそう嘲るかもしれない。


「それがどうしたっていうんです? 僕は自分の作品に自信を持っているし、放置の中にだって快感はありますよ。僕は丸ひと月、1PVさえ付かなかったことがあるから、確かにそこに快感のあることを知っています」


 彼はそう答えるだろう。そしてきっと、こう続けるに違いない。


「だが、それが何だって言うんです? 作品はちゃんと更新しているし、Twitterで告知だってしている。にもかかわらず、PVは全然伸びない。タイムライン上で時々やり取りをする連中すら見に来てくれないんで、つまり、その意地悪の中にこそ、秘密があるのです。この絶望の中にこそ、選ばれしものの恍惚と苦悩が表現されるわけです」


 無論、彼の言葉は本当だろうが、放置されることに、ある種の快感が伴う事を知らなかったら、そもそも彼は最初から更新なんてしなかっただろう。彼はその事実を認めようとはしないだろうが、作品が読まれない方が自分には快感が転がり込むことを、彼はちゃんと知っているのである。


 諸君、これはいい例だから、ここはひとつ話を発展させてみるとしよう。


 この無益な更新と告知には、当人の意識にとって屈辱的な、【放置】に対する苦痛軽減の意図がある。いや、それすらも本当は演技なのかもしれないのだが、要するに、この行動の意図は、「やるべきことは、ちゃんとやっているのだから、悪いのはフォロワーのせいだ」という【すり替え】を行う事だ。


 それは一見、最もらしく聞こえる。だが、それはやはり書き手の都合であって、そんなものは読者にとって一顧の値打ちもない。だけど、おそらくは君たちもまた彼のように、自分の作品を読まれないことに苦しんでいるはずだ。


 ところで、なんで君らは、フォロワーや他の作家の事は責めるくせに、自分の方は平気なのだ? 《《自分は誰の作品にも興味がないのに、どうして、そんな人間が書く作品が他人の心を打つ》》と、単純に信じていられるのだろうか? 


 果たして諸君に、鼠を馬鹿にする資格があるかどうか、僕ははなはだ疑問に思っている。まあそういうのが、いわゆる底辺作家ワナビたちのよくある姿な訳だが。


 勿論、お付き合いでハートを付けあったり、作品の拡散に協力したりすることはあるだろう。時には、レビューを書くことさえあるかもしれない。だがそれが、決して自分の作品を愛してくれている訳ではなく、同じように宣伝に協力して欲しいからやっているだけであることを、諸君らは痛いほどわかっているはずだ。


 つまり諸君は、程度の差はあれ、伊集院アケミと大して違わぬ作家である。そして、その志ははるかに低い。その証拠に、傍から見たら取るに足らぬテキストしか書いてない商業作家が、大勢のフォロワーにもてはやされてる姿を見て、諸君らは羨ましくて羨ましくて仕方ないはずだ。


 つまり、鼠であろうとワナビであろうと、ほとんどすべてのWeb作家は、完全に評価の奴隷となっている。もし、自分の作家性を放棄して【あっち側】に加われば、確かにカウンターだけは回るだろう。だが、回ったところで誰一人感想を残すものなど居らず、フォロワーも増えず、無意味に増えたPVの数字だけが、延々と諸君の心を苦しめつづけるのだ。


 孤高に作家性を貫くか?

 それとも読者の奴隷となって、何でも書くか? 


 どちらを選ぼうと作家への道は地獄である。というか、どちらの道も諸君らが望む姿、つまり「自分の作品を書いて生活の糧を得る」という現実には繋がっていない。


 あまりにも沢山の書籍化作家が居るから勘違いしがちだが、どだいWeb小説というのは、無料で読み捨てられることを前提として作られているものである。更に言うなら、小説というもの自体が、元々【そういうもの】なのだ。


 諸君がいつまでもそれに納得しないで、反抗を続けるとなれば、諸君はただ気休めに自分で自分をぶん撲るか、拳固をかためてこっぴどく邪魔物の壁を叩きつけるか、それより他の手は残されていないのである。


 伊集院アケミは、少なくともこの時点では、諸君らよりマシな作家であった。だが、身代を削って書いているのも関わらず誰からも読まれぬ屈辱と、誰のとも知れない嘲笑が元となって、君ら以下の存在にまで堕落し、ついには、情欲の極みに達する快感を欲するだけのイキモノになってしまったのだ!


 諸君、僕は諸君らにお願いがある。二十一世紀の底辺作家ワナビたちが放置に苦しめられて、毎日必死に投稿してるツイートに、少し声を耳を傾けてもらいたい。それも作品を投稿してから二日目、ないし三日目あたりがよろしい。


 つまり、いつタイムラインを見ても、何かしら呟いているような作家もどきのツイートではなく、本気で誰かの心を打ちたいと思い、下手は下手なりに一生懸命作品を書いている人間のツイートである。


 今の流行り言葉を使っていえば、「な〇〇から書籍化など、作家性を放棄してるに等しい」と唱えている作家のツイートを読んで見て欲しいのである。


 渾身の作品を投下したにもかかわらずPVが伸びないことで、日を追うごとに彼のツイ―トは、なんとなく嫌な、胸の悪くなるほど意地悪い調子になる。しかもそれが、毎晩ひっきりなしに続くのだ。


 評価の奴隷である鼠たちは、そんな書き込みをしたところで、なんの役にも立たないことを、ちゃんと心得ている。その行為は、ただいたずらに自他の精根を疲れさせ、いら立たしい気持ちにさせるばかりなのを、よく知っている。にも関わらず、そういうツイートをすることを絶対に止められないのだ。


 彼が骨折って作品を読んでもらおうとしているフォロワーも、リアルの友人も、今はもう彼のツイートを読みながら、嫌悪の念さえいだくようになる。そして、「あれはもう、【面当て】から意地になって、悪ふざけをしているだけさ」などと陰口をたたかれる――そういう事も当人は、すっかり知り抜いているのである。


 そして、こういう様々な自意識や屈辱の中にこそ、皮肉にも情欲にも似た快感が含まれているのだ。彼はきっと、内心でこう思っていることだろう。


「僕は今、貴方がたのタイムラインを汚して、皆の心を掻きむしっている。フォロワー全員を寝かせないようにしている。僕がこれだけ苦しんでいるのだから、皆も『僕が、自分の作品を読んで欲しいと思っている』ことを、一刻一刻、止み間なしに感じて苦しむがいいんだ!」


「貴方たちが僕の本性を見破ってくれたからこそ、僕はこのような歪んだ快楽に目覚めたのだ! 貴方たちは僕の、下品な書き込みを見るのがお嫌なんでしょう? ふん、それなら勝手に嫌がるがいい。今にもっとひどい奴を、書きまくってやるから……」


 諸君! 諸君はこれでもまだわからないだろうか? 他人の目を気にして書くことは地獄であり、この快感のありとあらゆる陰影を理解するためには、深く深く徹底的に精神的発達を遂げ、《《底の底まで人間を自覚しつくさなければならない》》のだ!


 諸君はまだ、笑っていられるのか? それならば、こちらも愉快だ。諸君! 僕の洒落には下品なところがあって、おまけに自分で自分をまったく信じてない様子だが、しかしその理由は、『僕が、僕自身をまったく尊敬していないから』である。


 そうだよ。これほどまでに自意識の発達した人間が、こんな自分を尊敬するなんてことが、果たして出来るものだろうか?


(続く)

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