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幻想少女四編《Quartette》  作者: 伊集院アケミ
第三章「黒衣の少女」
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プロローグ3『ある相場師の手記』

 僕は病的な人間だ。僕は意地悪な人間だ。僕は人に好かれない人間だ。これはどうも脳ミソの回路に異常があるらしい。もっとも僕は、自分の病気のことを実はちゃんと理解していないし、本当に脳の病気であるのか、それさえもわからないのだ。


 僕は精神科医という職業を尊敬してはいるけれど、彼らの治療というものを一度も受けたことがない。無論、こんなおかしな人間になる前には、十分な教育を受けていたし、自分がある種の心の病(やまい)であることはちゃんと自覚しているのだが、意地でも精神科の治療なんかは受けたくないのだ。


 僕のこの気持ちは、君らにはきっと理解して貰えないと思う。僕にはそれが、わかっている。そして僕がこんな意地を張ったところで、誰も得しない事も、ちゃんと理解しているのだが、それでも【そうしよう】とする理由を説明しようというのが、この手記の目的の一つだ。


 僕が精神科の治療を受けないからといって、それが自分の嫌いな奴らを「凹ませる」事にならないのは、自分でもよく承知している。そんなことをしても、損をするのは自分だけだという事は、百も承知なのである。となると、僕が治療を受けないのは、やはり脳ミソの回路がおかしいという事になるのだろう。


 いいさ。脳ミソがおかしいなら、もっともっと、おかしくなるがいい!


 僕はもう二十年も前から、相場を張って生活をしている。僕はもう四十だ。以前は会社を経営していたが、今は金になる当てもない文章を書きながら、自分より評価されてる人間を唾棄してるだけの毎日である。


 僕は意地の悪い相場師だった。素人を高値で嵌め込んで、彼らの怨嗟のツイートを見ながらニヤニヤしていた。なにしろ、僕は誰からも金を受け取らなかったのだから、せめてそれくらいの報酬は受けてしかるべきだったのである。


*勿論、これは冗談だ。思いついた時は面白いと思ったのだが、実際に書いてみたら大して面白くもなかった。だが僕は、意地でもこのつまらない文章を消さないでおく。その理由は、きっと後でわかるだろう。


 僕の注力している銘柄の事で、ボンクラどもがDMを送ってくると、僕は、「自分で考えても分からないものは、人に聞いても分かりません」と冷たく返した。連絡が来ないまま自分がブロックされてることを確認すると、抑え切れないほどの満足を感じたものだ。


 さて、僕が僕自身に一番腹立たしさを感じることは、自分が愛されない事ではない。【自分のイメージを守る】というただそれだけのために、一刻一分の止み間なく――上手く行ってる人間に思いきり癇癪かんしゃくを破裂させている、その瞬間でさえ――道化を演じている自分自身にあった。


 確かに僕は、沢山のデートレーダーや素人を散々嵌め込んでは来たけれど、本当のところ、自分が一番大量に株を抱え込んでいたので、一度もまともに売り抜けられた試しがないのである。


 それどころか、自分の煽ってる銘柄が高値になればなるほど、まるで反対の要素が自分の内部に充満していくのを、ひっきりなしに感じていた。要するに僕は、誰もが「ここはヤバいでしょ?」って感じる場面になればなるほど、その銘柄を煽り、自分でも買いたくて仕方がなくなる人間なのだ。


 二十年も相場で飯を食っていながら、そういう自殺願望的な要素が、僕の体の中でずっとウヨウヨしていることを僕は知っていた。自分がそういう破滅型の人間であることをちゃんと理解していたからこそ、僕は自分をルールで縛り、そいつをなんとか外に出さないように抑えていたのだ。


《続く》



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