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サイボーグ・シンディー  作者: ドンキー
9/55

侵入

「相変わらずシャクな野郎だ」

 デイモンから解放されたシンディーは、アルフと宇宙船に乗っている。その体内には時限爆弾が設置されている。一定時間以内に任務をこなせなければ、その体もろとも爆発してしまうのである。

「だが、彼らしい手でもあるね」

 アルフは、シンディーに相槌を打った。デイモンは冷酷非情だが、徹底した合理主義者で特に人の能力を擦り切れるまで使い切る事には、以前から抜群に定評があった。デイモンは今、シンディー達を自らの野望を叶えるための完全なる道具として見ている。目下の目的は、K70星雲内に設置された無人警戒設備の無力化とその新資源テラジウムのサンプル採掘、そして、このエリア内にいるテラジウムの権威であるカミラ博士の身柄の確保だ。それをシンディー達が行ったという痕跡を残す事なく完遂する必要があった。

 まさにジャスティンを手中に置くシンディーにしか出来ない任務だった。

『それで、シンディーはどうするの。奴に従い続けるのかい?』

 尋ねるジャスティンにシンディーは、苦々しくうなずいた。

「まぁ、奴とは途中まで目的も同じだしな」

『目的が同じ?』

「あぁ、テラジウムの利権を一部の特権階級の支配から簒奪するって言うところではな」

 事実だった。デイモンにせよシンディー達にせよ、まずはドーラセブンを中心としたあの悪しき特権階級からそれを奪う必要があるのだ。

「うちらも奴を利用する。そして、その後は、折を見て奴と決着をつける」

『どうやって?』

「それは、その後のお楽しみさ」

 シンディーは意味深に笑った。


 やがて、目的の地点まで来たシンディーは、作戦を開始した。この辺り一帯の無人警戒装備を統括する中枢の設備に潜り込むことにした。

「ジャスティン、この設備の情報はあるか?」

『任せて』

 すぐさまジャスティンは、シンディーの端末に辺り一帯の地図を表示した。それを見たアルフがため息をついた。

「流石に抜け目なく作られているな。完全無欠な城塞といったところか」

 ジャスティンが言った。

『僕の力でなんとかしようか?』

 だが、シンディーはかぶりを振った。

「いやだめだ。痕跡が残る。ここはうちらでやる。なぁに、どんなに完璧に作ったところで破られない城なんて存在しないさ」

 そう言うやシンディーは、作戦を練り始めた。要塞侵入はかつて、軍隊時代にいた頃から鳴らしたシンディーの得意芸でもある。針の穴に糸を通すが如く、アリの一穴から堤を崩すのである。シンディーはたちまち設備の中に潜む盲点を見つけた。

「このルートを侵入しよう」

 シンディーが指差すルートを見たアルフは、言った。

「無茶だ。360度全てがモニターされている」

「だが、モニターに若干、間隔があるだろう。その間隙を縫うんだ」

「けど、もしそのモニターの間隔を少しでも外せばたちまちレーザーサイトに蜂の巣だぞ」

『僕も無理だと思うね』

 ジャスティンも否定的に反応したが、シンディーは決断した。

「どっちにしろこのままじゃタイムリミットなんだ。やるしかないさ」

 シンディーそう言うとすぐさま立ち上がった。こう言った思い切りの良さはシンディーならではのものだ。早速、作戦開始である。宇宙船をハッチから這い出したシンディーは、漆黒の宇宙へと勢いよく飛び出した。作戦可能時間は約十分である。シンディーは巧みにセンサーの死角に潜り込みながら施設の中へと侵入していく。

「いいぞ、シンディー」

 端末に表示された地図の中に記されたシンディーのマークが進んでいくのをアルフは固唾を飲んで見守った。やがて、施設の半分まで侵入したところでシンディーは、一息つくと額の汗を拭い、時間を確認した。

「残り五分弱、か。相変わらずギリギリだな」

 常にギリギリの綱渡りがシンディーの人生でもあるし、そこでこそ力を発揮するのがシンディーの真価でもある。それがあるからこそ、アルフもシンディーを信頼してサポートし続けるし、デイモンも卑劣な手段を使いつつもシンディーの能力を酷使し続けるのである。

 その様子をジャスティンはじっと見ている。ジャスティンは電子生命体として、様々な人類の情報と接して来た。そこで思い知ったのは人類の狂おしいほどの愚かさであり、汚さであり、拙さだった。だが、今、ジャスティンが見ているシンディーの姿は、ジャスティンが今まで接して来た人類のものとは違うものだ。

 危機が迫った時に発揮する異能の能力であり、そこに至るまでの思い切りの良さであり、果敢さだった。

 正直、デイモンの使いっ走りにさせられるタガをはめられたとき、このシンディーと言う一生命体を見限ろうかと思っていた。だが、このシンディーという興味深い研究対象は、どんな状況においてもそこから何かしらの活路を見出そうとするようである。

『もう少し、このシンディー達と一緒に活動してみよう』

 そうジャスティンは、密かに思いを決めたのだった。

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