主人
地下の先に広がっていたのは、円形の空間である。そこに気配の主はいた。全身が黒ずくめの生命体だ。その生命体はシンディーを見るなり、ファイティングポーズを取りつつ手招きをして見せた。
「いいぜ」
シンディーは、身構えるやその生命体に襲いかかろうとした。だがその矢先、強烈な波動を先制攻撃で喰らい、体を吹き飛ばされ後ろの壁に叩きつけられてしまった。
「くっ……」
地面に転がり込むシンディーは、すぐさま跳ね起き、さらに生命体が放って来る波動に自らの掌から発した波動をぶつけた。生命体は、弾き返された波動を見て呟いた。
「なるほどコンラートの術か……」
そして、シンディーに対して構えを変えて見せた。
「洒落臭ぇっ!」
シンディーは、そんな生命体に対し一気に間合いを詰め、怒涛の勢いで攻め立てた。だが、その全てを生命体はかわした挙句、機先を制し、シンディーの額を人差し指でピタッと押さえ、言った。
「だが、まだ術を全て把握し切っておらぬな」
ーーいつの間に……
シンディーは、そのあまりの強さに声が出ない。そんなシンディーに生命体は、名乗った。
「我が名は、コンラート。術の主人なり」
ーーコンラート? 術の主人だって?
シンディーは、信じられない顔でコンラートを見た。
「シンディー、そなたが思っているほど、この術は甘くない。真の術の繰り手とならんとするには、まずこの地下を制する事だ。その後、再び合間見えん」
コンラートは、そう言い残し、シンディーの額から指を離すと目の前から姿を消して行った。その間、シンディーは縛られた様に体が動かない。やがて、緊張から解き放たれたシンディーは全身の力が抜けた様に膝から崩れ落ち、両手を地面に付いた。額からどっと汗が流れ落ちていく。コンラートの放つ気迫に押され、身動きすら取れなかったのだ。
『術の主人が自ら出て来るとは、ただ事じゃないね』
そう話すジャスティンにシンディーがうなずき言った。
「だが、この術こそが、この遺跡の戦闘民族の文明の真髄であり、真骨頂なんだ」
そして、それをモノにする事こそが、ジョンに託されたシンディーの使命であり、シンディーのトレジャーハントだった。
遡ること数日前、シンディーはジョンに密かに呼ばれていた。
「何だい社長。折り入ってうちに話っていうのは」
尋ねるシンディーにジョンは、言った。
「シンディー、私は亡き父が手をつけたこのテラジウム事業に全てを注ぎ込むつもりだ。あらゆる勢力と戦っていく覚悟はある。これは私にとって戦争なんだ。そして、チーフのカミラ博士も言っているが、そのテラジウム事業の要は、今や君にある」
「あぁ、うちはそのアンタの戦争の一兵卒だ」
「うむ。そこで役割分担を決めようと思う」
「役割分体?」
思わず聞き返すシンディーにジョンは言った。
「シンディー、君は何としてもこのテラジウムをめぐる遺跡に宿る戦闘民族の文明の英知を戦い取るんだ。その攻めを君が一手に担う」
「あぁ、任せてくれ」
シンディーは、掌に拳を叩きつけて見せた。そんなシンディーにジョンはうなずきつつ、続けた。
「問題は、どうしてもそれが手に負えないと分かったとき、だ。その際の守りについては、すべて私が引き受ける。その引き際の潮時の匙加減は、現場にいる君に任せる。つまり勝ち戦は君が、負け戦は私が担当するというわけだ」
それだけ言うと、ジョンは懐から辞表を取り出して見せた。
「こちらの覚悟は出来ている。シンディー、お前はどうだ?」
シンディーは、ニッと笑い胸をドンと叩きながら言った。
「もちろん出来てるさ。社長」
そんなジョンとの約束がある手前、シンディーは慎重にならざるを得なかった。
『どうする、シンディー?』
尋ねるジャスティンにシンディーは、迷いを振り切る様に言った。
「うちは行く。まだ今は引くべきときじゃない。うちは何としてもこの術を完全にマスターする気さ」
『よし、じゃぁ先へ進もう』
「あぁ」
シンディーはうなずき、足元で吠えるレオンと共にさらなる地下へと進んで行った。




